2016年度 研究事業成果集 細胞の形態形成を司るDOCKファミリー分子の研究

アトピー性皮膚炎のかゆみのメカニズムを解明

基盤研究事業部 研究企画課

DOCK8分子の関与でEPAS1が働き、かゆみ物質IL-31を産生する

アトピー性皮膚炎は国民の7~15%が罹患しているといわれる国民病です。しかし、そのかゆみは抗ヒスタミン剤では完全に抑えられないため、アトピー性皮膚炎のかゆみを根元から止める薬の開発が求められています。AMEDの革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ(LEAP)の研究によって、世界に先駆けて、同患者にかゆみを引き起こすIL-31という物質の産生に、EPAS1というタンパク質が重要な役割を果たしていることが分かりました。

取り組み

研究開発代表者である九州大学生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授は、細胞の形態形成を司るDOCKファミリー分子*に着目した研究に取り組んでいます。福井教授はこれまでに、同分子ががん細胞の転移や免疫細胞の活性化に重要な役割を果たしていることを解明してきました。こうした成果を踏まえて、がん・アレルギー疾患・免疫難病などの革新的治療法の開発に取り組んでいます。今回の研究成果は一連の研究の中の1つの柱として行われたものです。本研究はAMEDの共同研究や個人研究で、優れた研究成果を創出した研究者を代表とするLEAPの採択研究です。

研究成果

DOCK8という分子を欠損した患者さんが重篤なアトピー性皮膚炎を発症していることに着目し、このタンパク質の機能を解析しました。その結果、DOCK8が現れないように遺伝子操作したマウスでは、IL-31が通常のマウスより非常に多く作り出され、重篤な皮膚炎を発症することが分かりました。

DOCK8欠損AND Tgマウスは血清IL-31の上昇を伴うアトピー様皮膚炎を自然発症する

さらにそのメカニズムを解析すると、DOCK8の下流でEPAS1が働きだし、IL-31の産生を引き起こしていることが分かりました。

展望

アトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド剤の外用や免疫抑制剤の外用・内服が治療の主体であり、かゆみを元から止める治療法は現在のところありません。本研究によってアトピー性皮膚炎のかゆみを引き起こす物質であるIL-31の産生に、EPAS1が重要な役割を果たしていることが分かりました。このためEPAS1-IL31経路は、アトピー性皮膚炎のかゆみを根元から断つための画期的な創薬標的になることが期待されます。

IL-31の産生とかゆみ発症メカニズムの模式図
*DOCKファミリー分子:
細胞の形態形成を司るタンパク質の総称で、ヒトにおいて全部で11種類の分子が存在する

最終更新日 平成30年10月5日