2016年度 研究事業成果集 新型人工内耳の開発

新型人工内耳(人工聴覚上皮)の開発

産学連携部 産学連携課

電源を必要としない新型人工内耳デバイスで聴覚障害者のQOLを向上

人工内耳は、高度感音難聴者(聾者を含む)に対する唯一の治療法として普及している人工臓器(人工感覚器)ですが、使いやすさや機能面などに難点があります。AMEDの産学連携医療イノベーション創出プログラム(ACT-M)で開発中の「新型人工内耳」(人工聴覚上皮)は、従来の人工内耳の課題を克服し、聴覚障害者のQOLを大幅に向上させる医療機器として期待されています。

開発中の新型人工内耳

取り組み

日本国内の高度難聴者数は36万人(身体障害者全体の10%)いるといわれています。また、65歳以上の高齢者で難聴の人は1500万人に上ります。高齢者や高度難聴者に多いのは内耳や聴神経の障害による「感音性難聴」で、補聴器や人工内耳を使って聴覚を補助します。軽度~中等度難聴に対しては補聴器を使用しますが、高度難聴者には人工内耳が適応となります。人工内耳は内耳(蝸牛)に埋め込んだ刺激電極を通して聴神経を直接刺激する機器ですが、現在市販されている製品はマイクや音を電気信号に変換する体外装置、側頭骨(頭蓋骨)に埋め込む体内装置が必要です。これらを駆動する電源(電池)も必要です。また、現在の人工内耳は全て外国製で、日本製はありません。

そこで、滋賀県立成人病センター研究所の伊藤壽一所長らの研究グループは、京セラ、京都大学、大阪大学とともに、全く新しいコンセプトによる人工内耳デバイスを開発中です。

開発中の「人工聴覚上皮」は、蝸牛の感覚上皮(感覚細胞などが含まれている部位)の機能に類似したフィルム状のデバイスを蝸牛内に埋め込み、実際の聴覚と同じように音の刺激をそのまま聴神経に伝える画期的な医療機器です。従来の人工内耳のような外部電源や体外装置、側頭骨に埋め込む体内装置が不要で、一度蝸牛に埋め込むと継続的に使用できるため、患者のQOLが大きく向上すると考えられています。

成果例

「蝸牛」感覚上皮の機能を代替するフィルムには、圧力(歪み)を感知して電気信号を発する「圧電素子膜」を用い、開発しました。圧電素子膜が受けた音刺激を電気信号に変換し、聴神経に伝えます。このフィルムの形状によって、異なる周波数帯域で電気信号が送れることも確認されています。モルモットを用いた実験も行われ、2020年頃の実用化を目指しています。

「人工聴覚上皮」のプロトタイプ

展望

新型人工内耳は、超高齢社会の到来によって今後さらに増える高齢難聴者のQOL向上や、現状では治療の難しい先天性高度難聴児の治療につながります。埋め込み方法など今後の検討課題もありますが、現在市販されている人工内耳が全て海外製で、国産品がないこともあり、革新的な医療機器として実用化に大きな期待が寄せられています。

最終更新日 平成30年10月5日