2017年度 研究事業成果集 腎臓がんの早期診断につながるバイオマーカー「AZU1」を発見

腎臓がんの早期診断につながるバイオマーカー「AZU1」を発見

戦略推進部 がん研究課

微量の血液で測定可能な診断キットの開発を目指す

(公財)がん研究会の植田幸嗣氏が率いる研究グループは、世界で初めて腎臓がんのバイオマーカーとなるタンパク質「AZU1(アズロシディン)」を発見しました。腎臓がん細胞由来のエクソソームと呼ばれる小胞内には、正常な腎細胞由来のものと比べAZU1が30倍以上存在していました。少量の血液でAZU1の濃度を測ることができる簡易検査キットの開発が進行中で、実用化すれば自覚症状に乏しい腎臓がんの早期発見につながることが期待されます。

■ 腎臓がん細胞が産生するエクソソームにはAZU1が多量に発現している

取り組み

日本国内で年間約2万5000人が罹患する腎臓がん。早期に発見できれば5年生存率は9割を超える一方で、発見が遅れると大変予後の悪いがんです。しかし腎臓がんは他の主要臓器と異なり、診断に使用できる血液バイオマーカーがこれまで発見されておらず、他の検査によって偶然発見されることがほとんどで、早期発見が難しい状況です。(公財)がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの植田幸嗣プロジェクトリーダーらの研究チームは、「がん細胞のレプリカ」とも呼ばれる「エクソソーム」に着目して、詳細な構成タンパク質解析を実施しました。

成果

研究チームは、まず、手術で切除したばかりの生きた組織が分泌しているエクソソームを採取する技術を開発。この技術を用いて腎臓がん患者20人から採取した腎がん組織、腎正常組織よりエクソソームを抽出し、世界最高感度のタンパク質質量分析技術を駆使して解析した結果、検出された3871種類のタンパク質の中で「AZU1」というタンパク質が腎がん組織の分泌するエクソソーム内に30倍以上多く存在していることを突き止めました。また、最も初期の腎臓がんでも正常腎組織が分泌するエクソソーム内より高い数値を示し、がんが進行するほど多く含まれる傾向も見られました。さらに、血液中のエクソソームを調べたところ健常者10人の血中エクソソームからはAZU1が検出されず、腎臓がん患者では52.6%からAZU1を検出することができました。一方、腎臓がん細胞が作り出すAZU1を多く含むエクソソームは、血管内皮細胞シートを傷付け、がん細胞の血行性転移を誘発している可能性があることも分かりました。

展望

これらの結果をもとに、研究チームは国内診断薬メーカーとの共同開発で、少量の血液でタンパク質の濃度を測定する簡易検査キットの開発を進めています。早ければ2018年度から100人以上の患者を対象に医師主導の臨床試験を開始する予定で、世界初の腎臓がんバイオマーカーとして、2~3年後の実用化を目指しています。これまで難しかった腎臓がんの早期発見につながるだけでなく、エクソソーム内のタンパク質を解析する方法を用いて、膵臓がんや肺がんといった他のがんの検査法への応用も期待されています。

■ 少量の血液からも簡便にエクソソーム上AZU1を検出可能
*エクソソーム:
細胞が分泌する直径数十ナノメートルの膜小胞。がん細胞由来のエクソソームには、がん細胞が持つ特異なタンパク質やDNAがコピーされている

最終更新日 平成30年11月15日