2017年度 研究事業成果集 血液検査によるアルツハイマー病診断法

血液検査によるアルツハイマー病診断法

戦略推進部 脳と心の研究課

血液中にある微量のリン酸化タウタンパク質の高感度測定法を開発

京都府立医科大学の徳田隆彦教授らの研究グループは、アルツハイマー病の患者さんの脳内に蓄積するリン酸化タウタンパク質(p-tau)という物質を、血液検査で正確かつ迅速に測定する方法を世界で初めて確立しました。身体への負担が少ない血液検査でp-tauの測定ができるようになれば、早期発見される人が増え、治療や状態改善につなげることができると期待されます。

■p-tauの血中量でアルツハイマー病の診断が可能に
正常(Control)とアルツハイマー病患者さん(AD)でp-tauの血中量に統計学的に有意差が出ました(左図)。また、少ないサンプル数にもかかわらず、「中等度の正確性を持つ」という結果が出ました(右図)

取り組み

認知症の約7割を占めるといわれているアルツハイマー病の診断には、現在、脳内に蓄積するAβ42(アミロイドβ)、t-tau(総タウ)、p-tauなどのタンパク質の脳脊髄液(髄液)での測定が用いられています。中でもリン酸化タウタンパク質(p-tau)は、アルツハイマー病患者さんの脳に特徴的に蓄積が見られ、その大脳内での広がりが認知症の発症と直接的に関連していることが分かっているため、p-tauの蓄積量はアルツハイマー病発症の重要な手がかりになります。ただ、p-tauは血液中に極めて少量しか存在しないため、検査するには部分麻酔をかけて背中に針を刺して髄液を採取する必要があり、患者さんの負担が大きいという問題がありました。2015年に総タウタンパク質(t-tau)を、血液検査で測定できるシステムが開発されていますが、t-tauは診断には使えないことが明らかになっており、身体への負担が少ない検査でp-tauの測定ができるシステムの開発が世界中で求められていました。

京都府立医科大学分子脳病態解析学の徳田隆彦教授らの研究チームは、AMEDの長寿・障害総合研究事業(認知症研究開発事業)「アルツハイマー病の既存髄液バイオマーカーの血液および脳由来エクソソームへの展開とそれらを応用した多項目血液マーカーによる診断システムの実用化」において、従来のおよそ1000倍の感度でタンパク質を検出できる、Simoa(Single molecular array)という分析器を導入し、血液中のp-tauを検出・測定するシステムの開発に成功しました。

■高感度タンパク質測定機器「Simoa」

さらに、19歳から57歳の20人のダウン症候群患者さんの検討では、大脳にp-tauが蓄積することが分かっている40歳以上の患者さんでのみ血液p-tauが高値を示しました。

成果

  • 高感度のタンパク質測定機器Simoaを用いて、これまで脳脊髄液中でしか測定できなかったp-tauを、血液中で簡単かつ正確・迅速に測定できるシステムを世界で初めて開発しました。
  • 開発したシステムを用いて60~89歳の患者さんの血液中のp-tauを測定したところ、アルツハイマー病の患者さんは健康な人と比較して、血液中のp-tauが明らかに増加しており、アルツハイマー病の診断に有効であることが分かりました。
  • 病理学的に40歳以上で大脳にp-tauが蓄積することが分かっているダウン症候群患者さんでは、40歳以上の患者さんでのみ血液p-tauが高値を示しており、血液p-tau値は脳の病理変化を反映していると考えられました。

展望

今後は、より大規模な患者集団を対象とした調査で、新規開発した血液p-tau測定システムの有効性を検証します。有効性が証明されれば、血液検査という患者さんにとって負担の少ない方法で、従来よりも安価で正確・迅速にアルツハイマー病の早期発見を行うことが可能となります。

アルツハイマー病は薬で治療できる可能性があるため、早期に発見できれば、患者さんのQOLが大きく改善することが期待できます。

最終更新日 平成30年11月15日