2017年度 研究事業成果集 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

地球規模の課題である薬剤耐性マラリアの流行拡散を監視

国際事業部

ラオス国の研究グループと共同で寄生虫症の疫学調査・診断技術を開発

国立国際医療研究センター研究所の狩野繁之部長らは、ラオス国の研究グループと協力し、マラリアや現地の重要な寄生虫症などの流行拡散を制御するために、疫学調査や診断技術の開発を行っています。マラリアはアフリカでの広い流行が知られていますが、ラオス南部では抗マラリア薬が効かない薬剤耐性マラリアの出現が確認されており、その流行拡散が世界的な脅威となっています。

■マラリアフィールド調査

マラリア遺伝子診断を行うために村人からろ紙採血

取り組みと成果

「SATREPS」は、AMED、科学技術振興機構(JST)がそれぞれ国際協力機構(JICA)が連携して地球規模課題に取り組む国際共同研究プログラムです。AMEDは感染症分野を担当し、JICAと連携して現在10課題の研究が進められています。

このうちの一つ「ラオス国のマラリアと重要寄生虫症の流行拡散を制御する研究」は、国立国際医療研究センター研究所の狩野繁之部長のグループと、現地のラオス国立パスツール研究所(IPL)のポール・ブレイ所長のグループとが協力して研究を推進しています。

●マラリア研究
世界三大感染症の一つといわれているマラリアは、2016年には推定で45万人以上が死亡したといわれています。主にアフリカで流行する感染症ですが、近年、東南アジアで、抗マラリア薬として標準的に使われているアルテミシニンが効かない薬剤耐性マラリアが出現し、世界的な脅威となっています。研究グループはこの薬剤耐性マラリアの流行拡散を防ぐことを目的として疫学調査や新たな診断法の開発に取り組んでいます。
まず、検出感度の高いマラリア遺伝子診断技術(PCR法*1)を構築し、マラリア流行地域住民を調べたところ、現地で標準的に用いられている診断法(顕微鏡および迅速診断キット)では感染が検出できない「無症候性マラリア原虫キャリア」が数多く存在することを発見しました。さらにラオス南部5県にある約160の医療施設から熱帯熱マラリア*2患者の血液検体を採取し、アルテミシニン耐性遺伝子変異の有無を調べたところ、検体の56%で耐性型変異が観察されました。さらに、隣国カンボジアから来たと思われる耐性原虫がラオス国内を北上していることも突き止めました。
また栄研化学が開発した感度が高く簡易で迅速に遺伝子診断ができる新しい技術(LAMP法)を、ラオスのマラリア流行地域3カ所に導入しました。
■アルテミシニン耐性のマラリアが ラオス内を北上して拡散

ラオス南部で原虫移動によるアウトブレイク、アルテミシニン耐性の急増と拡散
●その他の寄生虫症研究
住血吸虫症はヒトが河、湖、沼などの淡水に入って寄生虫に感染することにより引き起こされる慢性疾患です。この寄生虫はヒトの皮膚から侵入し体内の各所で炎症を引き起こし、流行地では社会経済的な損失をもたらす重要な問題となっています。
両研究グループは共同で、ラオスの公衆衛生上重要な寄生虫症であるメコン住血吸虫症、並びにタイ肝吸虫症の調査と分析、診断法の開発を行っています。新たに開発したメコン住血吸虫症に対する高感度診断法(ELISA)で従来の検査と成績を比較したところ、これまで罹患率が平均2.6%とされてきた地域で、実は32.4%もの人が陽性であることが分かりました。

展望

今後もマラリアおよび他の重要寄生虫症の実態調査を継続的に進め、開発した診断法のフィールドへの導入と検証を行っていきます。また研究によって得られた科学的エビデンスを用い、ラオス保健省に対し寄生虫対策に関する政策提言を引き続き行っていく予定です。

*1 PCR法:
DNAを増やす手法で、ごく微量のDNAでも検出できる 
*2 熱帯熱マラリア:
早期に適切な対応をしないと短期間で重症化し死に至るマラリア

最終更新日 平成30年11月15日