2018年度 研究事業成果集 丈夫かつ開閉可能なタンパク質ケージを開発

特異な形状と性質を有する網かご状のナノ粒子

筑波大学生存ダイナミクス研究センター(TARA)の岩崎憲治教授らの研究グループは、TRAPと呼ばれる11量体のタンパク質に変異を入れ金誘導体を加えたところ、非常に特異な閉じた網かご状のケージ形成に成功しました。このケージは、加熱や変性剤にも強い反面、還元剤を加えるとバラバラになります。このように丈夫な上に、開閉可能なケージはこれまでにはなかったもので、薬剤の輸送などへの応用が期待されます。

取り組み

天然には存在しないタンパク質から、閉じた網かご状の構造(ケージ)を人工的に作る試みは、研究者の興味をかき立ててきました。しかし、ここには二つ問題がありました。一つは、閉じた集合体を作るための幾何学的要件を満たしたタンパク質がなかなか存在しない点、もう一つは、ケージを作る多くのタンパク質が複雑な化学結合のネットワークを形成するため、その構造を予測したり、シミュレーションすることが困難な点です。そのため、ケージのデザイン自体が非常に難しい現状がありました。本研究グループは、これら二つの問題をクリアしたケージの開発に成功し、その構造を最新のクライオ電子顕微鏡*1を用いた単粒子解析*2によって明らかにし、ケージが有する類いまれな特性の仕組みを明らかにしました。

*1 クライオ電子顕微鏡:
ガラス状の氷に固定した試料を冷却したまま透過型電子顕微鏡で撮影する技法。
*2 単粒子解析:
精製した生体分子を透過型電子顕微鏡で撮影し、その画像(投影像)から元の分子構造を再構築する技法。数千から100万枚を超える多数の分子投影像を扱う。

成果

本研究グループは、金原子1個を“ホチキス”として使うことで、タンパク質ケージの開発の問題を克服しました。リング状の11量体を形成するTRAPと呼ばれるタンパク質のブロックを、ホチキスで留めることで直径22nmという非常に小さなケージを作製しました(図1)。このケージについて、クライオ電子顕微鏡で単粒子解析を行ったところ、非常に特異な五角二十四面体という正多面体を形成していることが分かりました。しかも、解析を進めていくとケージ構造が鏡像対称の関係にある、2種類の会合様式があることが判明し、双方の構造解析にも成功しました(図2)。

図1 金原子によるホチキス
図2 対称のケージ構造

さらに、このケージは「閉じたり、開いたりの開閉操作が可能」という特徴的な性質を持っていることが明らかとなりました。すなわち、いったんケージ形成されると95℃で3時間加熱しても壊れず、通常のタンパク質では変成してしまう7Mの尿素条件にも耐える類いまれな安定性を有する一方で、還元剤を加えるとバラバラになってしまいます。このようなタンパク質でできたナノ粒子の開発は、世界で初めてです。

展望

このようなケージは薬剤の輸送など、ナノサイズで開閉が必要なカプセル開発の基盤となる技術です。正多面体を形成しないと考えられていた形状のタンパク質を使って、ケージ作製に成功したということは、これまで検討されなかったタンパク質もケージを構成できる可能性があり、今後、薬剤の輸送などに適したケージの開発が期待されます。

最終更新日 令和2年6月23日