2018年度 研究事業成果集 早期肺がんを正確に切除する手術を可能にする医療機器の開発・販売

増え続ける肺がん、特に10mm以下の微小浸潤がんを正確に切除

京都大学の佐藤寿彦准教授(現・福岡大学臨床教授)らを中心とする共同研究グループは、RFID(非接触型無線通信技術)を応用した医療機器(SuReFInD™)の開発に成功し、2018年12月に高度管理医療機器として承認を受けました。日本人の死因の3分の1を占めるがんの治癒率向上および効果的ながん治療のためには、小さな病巣のうちに発見し切除することが必要ですが、このシステムを使えば肺の中の小さな病変を正確に同定し、確実に切除することが可能になります。

取り組み

肺がんは世界的に増加傾向にあります。また、年齢とともに発がんリスクが上昇するため、今後高齢者人口が増加する日本では20年間以上にわたり増加していくことが予想されています。日本や中国では近年CTやPETという画像診断機器の発展に伴い早期の微小浸潤がんが多数発見されるのですが、胃がんや大腸がんなど消化管の内面に生じるがんと違い、手術中に直接観察することができず、また肺は手術の際に大きく変形するために正確な部位を特定して切除することが困難です。

この問題を解決するために手術前に肺の表面に色素着色を行ったり金属コイルを肺の中に留置したりするマーキング処置を行い、手術中に目視あるいは蛍光内視鏡やX線透視装置による切除が行われています。研究グループが開発したSuReFInD™は、超小型無線タグ(以下、RFIDタグ)を気管支を通して病変の中、あるいは病変の近くに留置し、手術中に専用の小型アンテナを用いて病変箇所を正確に同定して切除するというものです(図1)。従来の色素着色では、色素の拡散や肺表面が炭粉沈着などを起こして確認できない、深さが分からないという問題が、金属コイルの留置では、手術中にX線透視装置の使用による外科医や手術室スタッフの被曝という問題がありました。また、X線透視像は2次元画像のため正確さに欠けるという問題もありました。RFIDタグは、一つ一つにID番号があり複数の留置が可能であることから、多発病変やある程度の広がりを持つ病変にも対応できます。低電力の無線システムの搭載により被曝の危険性もなく、装置もコンパクトで手術中に病変の位置を確認しながら切除が可能です(図2)。

図1 SuReFInD™️の仕組み
図2 実際の手術時画像

成果

生体内で伝播し得る周波数帯の決定、最適なアンテナ設計など基礎的な研究を行いました1)。さらに前臨床研究としてイヌを用いて肺の中に擬似病変を作成し、これに対してRFIDタグを留置、内視鏡手術を行い、計画通り正確に病変を切除できることを示しました2,3)。この結果をもとに、京都大学臨床研究総合センターの支援により産学連携体制を構成、2018年12月に高度医療管理機器として承認されました(承認番号:23000BZX00393000)。2019年9月に初めてヒトの肺がんに対してこの技術を用いた切除術が施行される予定です。

1) Takahata H, et al. Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc. 2012; 2012: 183-6.
2) Kojima F, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2014; 147: 1384-9.
3) Yutaka Y, et al. Surg Endosc. 2017; 31: 3353-62.

展望

RFIDタグは複数用いてもそれぞれを個別に識別することから複雑な肺手術中でナビゲーションが可能になると期待されています4)。またこの技術は消化管でも切除範囲が分かりにくい場合や微小な乳がんに対しても応用できることが分かっており5)、今後さらに適応が増えると期待されています。国内では何例かの臨床使用を重ねて安全性・有効性を検証した上で保険医療材料としての収載を目指し、特定臨床研究として企業および複数の医学研究施設と多施設共同研究を開始する予定です。

4) Yutaka Y, et al. Semin Thorac Cardiovasc Surg. 2018; 30: 230-7.
5) Kojima F, et al. Surg Endosc. 2014; 28: 2752-9.

最終更新日 令和2年6月23日