2018年度 研究事業成果集 ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業における先端ゲノム研究開発

生活習慣病等の疾病克服に向けたゲノム情報からのアプローチ

本事業では、複数の遺伝子多型が相互的に関係したり、環境要因(ライフスタイル・行動など)の影響を受けたりするなど、多因子が関わり得る一般的な疾患を対象とした研究を推進しています。ゲノム等の情報や環境要因が疾患の発症にどのように影響を及ぼしているかを解明し、バイオマーカー候補や治療技術シーズの探索・発見を通して、疾患発症の予測法の確立と、遺伝要因や環境要因を考慮した個別化医療(診断、治療および予防)の実現を目指します。

取り組み

本事業では10課題の研究テーマを実施しており、糖尿病や精神疾患などを対象とした疾患研究からゲノム解析手法の開発に至るまで、多方面からゲノム医療の実現に向けた研究を行っています(表1)。

また、本事業で得られたデータはAGD(AMEDゲノム制限共有データベース)などを通じて、積極的にシェアリングを行っています。

表1 実施中の研究開発課題(10課題)

成果

日本人集団の2型糖尿病に関わる新たな28遺伝子領域を発見

(東京大学・門脇孝特任教授)
20万人規模の日本人集団の遺伝情報を用いた解析により、2型糖尿病に関わる新たな28遺伝子領域を発見し(図1)、2型糖尿病の発症と関連を認めるバリアントを新たに同定しました。将来的には糖尿病の発症予測・発症前予防の応用につながることが期待されます。その一つが、糖尿病治療薬の標的分子であるGLP-1受容体のバリアントであり、個人ごとのインクレチン薬の薬剤反応性マーカーの開発につながる可能性があります。

図1 日本人集団の2型糖尿病の遺伝情報を用いた解析

パーキンソン病の新たな治療薬候補を同定

(東京大学・戸田達史教授)
ゲノム解析の結果と薬剤データベースやタンパク質間相互作用のデータベースを活用することで、パーキンソン病の新たな治療薬候補として悪性黒色腫の薬(ダブラフェニブ)を同定し、ダブラフェニブが培養細胞やマウスのパーキンソン病モデルにおいて実際に神経保護効果を示すことを、世界で初めて証明しました。今後、パーキンソン病の進行を抑制する研究が進むことが期待されます(図2)。

図2 パーキンソン病モデルマウスにおけるダブラフェニブの神経保護効果

37番目の新たなヒト血液型「KANNO」の特定

(国立国際医療研究センター・徳永勝士プロジェクト長)
血液型は血球の表面などにある抗原によって決まり、ABO血液型、Rh血液型など36種類の分類方法が認定されています。
今回、KANNO抗原という既知の血液型と一致しない血液を持つヒトの全ゲノム解析を行うことで、その血液型抗原の原因変異を同定し、KANNOが37番目の新たな血液型であることを明らかにしました。
これは日本の研究グループが原因を特定した初めての血液型であり、国際輸血学会から血液型「KANNO」として認定を受けました。

双極性障害におけるミトコンドリアとセロトニンの関係の解明

(理化学研究所・加藤忠史チームリーダー)
双極性障害患者の中に、ミトコンドリア病の原因遺伝子(ANT1 )に変異を持つ患者を見いだし、脳のみに本遺伝子の変異を持つマウスを作製・解析した結果、セロトニン神経細胞の活動が亢進していることを発見しました。これによって、双極性障害においてミトコンドリアの機能障害とセロトニン神経伝達の変化という、二つの病態経路をつなぐメカニズムを初めて解明しました。双極性障害の新たな診断法・治療法の開発への貢献が期待されます。

展望

多因子疾患研究においては、ゲノム情報だけでなくオミックス情報や詳細な臨床情報を含めた多種多様な情報から治療や創薬の標的分子を導き出すための技術開発が求められています。既存の枠にとらわれず自ら考案し自ら研究を率いる若手データサイエンティストの育成にも取り組みます。

最終更新日 令和2年6月23日