2018年度 研究事業成果集 固形がんに対して高い治療効果を示す免疫機能調整型「Prime CAR-T細胞」を開発

固形がんに対する画期的ながん治療法の開発に活用

山口大学の玉田耕治教授らの研究グループは、免疫機能をコントロールする能力を付与した次世代CAR-T細胞(PrimeCAR-T細胞)の開発に取り組んでおり、今回の研究では、IL-7と呼ばれるサイトカインとCCL19と呼ばれるケモカインの両方を同時に産生する能力を有するCAR-T細胞を新規に開発しました。

取り組み

研究グループは、免疫機能をコントロールする能力をCAR-T細胞に付与することで固形がんに対しても高い治療効果を発揮するという仮説に基づいて研究に取り組み、免疫機能調整能力を有する次世代型のCAR-T細胞である「Prime(Proliferation-inducing and migration-enhancing) CAR-T細胞」の開発に取り組んでいます。

今回のPrime CAR-T細胞の研究では、IL-7と呼ばれるサイトカインとCCL19と呼ばれるケモカインの両方を同時に産生する能力を有するCAR-T細胞(7×19 CAR-T細胞)を開発しました(図1)。

マウスモデルを用いた研究によって、7×19 CAR-T細胞は腫瘍内部にT細胞や樹状細胞の著しい浸潤を誘導し、投与を受けた宿主側のT細胞と協調して相乗的に極めて強力な抗がん作用を発揮することを証明しました(図2)。さらに7×19 CAR-T細胞の投与によって治療を受けたマウスには、がんに対する長期的な免疫記憶が形成されており、がんの再発を予防できる可能性も合わせて示されました。

これらの結果から、Prime CAR-T細胞を用いる技術は、固形がんに対する画期的ながん治療法になることが期待されます。

CAR-T細胞:
免疫細胞の一種であるT細胞を患者さんから取り出し、遺伝子医療の技術を用いてCAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なたんぱく質を作り出すことができるようにしたT細胞。CARは、がん細胞などの表面に発現する特定の抗原を認識し、攻撃するように設計されている。
図1 Prime CAR-T細胞療法の仕組み
図2 Prime CAR-T細胞のがん組織への集積

成果

7×19 CAR-T細胞は、IL-7の効果によりT細胞の生存と増殖を促進し、CCL19の効果によりT細胞や樹状細胞のがん局所への集積を刺激することによって、従来のCAR-T細胞では効果の得られなかったマウス固形がんモデルに対して強力な治療効果を示しました。

また、7×19 CAR-T細胞の治療効果には、投与したCAR-T細胞のみならず、投与を受けた宿主側の免疫細胞も協調して作用しており、がんに対する長期的な再発予防効果を誘導できることも明らかになりました(図3)。

研究グループは、7×19 CAR-T細胞のように、免疫機能を調整する能力を有する次世代型CAR-T細胞を「Prime CAR-T細胞」と命名し、固形がんに対する画期的なCAR-T細胞療法として、山口大学発のベンチャー企業であるノイルイミューン・バイオテック株式会社と協力して開発に取り組んでいます。また、この成果に基づく特許は日本を含めた世界各国に出願されています。

図3 Prime CAR-T細胞療法による宿主免疫反応の誘導

展望

従来のCAR-T細胞は、がん細胞を直接殺す機能ばかりに注目が集まっていました。しかし7×19 CAR-T細胞のようなPrime CAR-T細胞を用いる技術は、患者の体に元々備わっている免疫機能をコントロールして協調作用を起こす分子の「デリバリーシステム」としての役割も担っており、これまでのCAR-T細胞の概念を大きく変えるパラダイムシフトといえます。Prime CAR-T細胞を用いる技術は、これまで血液がんに限り有効性が認めらたCAR-T細胞療法の適応範囲を固形がんにまで拡大させる、画期的ながん治療法につながることが期待されます。

今後、7×19 CAR-T細胞を含むPrime CAR-T細胞を用いる技術が実用化されることが期待されます。そのために、研究グループは山口大学発のベンチャー企業であるノイルイミューン・バイオテック社と協力し、がん患者に対するPrime CAR-T細胞の治療効果や安全性を評価するための臨床試験を開始できるよう、研究開発を進めています。

最終更新日 令和2年6月23日