2018年度 研究事業成果集 タウリンによるMELAS脳卒中様発作の再発抑制療法が実用化

ミトコンドリア病に対する日本発の保険適用治療薬の誕生へ

川崎医科大学の砂田芳秀教授らの研究グループは、大正製薬株式会社と協力して行ったタウリンによる「MELASにおける脳卒中様発作の抑制」の新効能・効果および新用法・用量の追加に係る製造販売承認事項の一部変更承認申請について、2019年2月21⽇に厚⽣労働省より薬事承認を取得しました。

取り組み

ミトコンドリア病の代表的な病型の一つである MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群)は、ミオパチー(M)、脳症(E)、乳酸アシドーシス(LA)、および脳卒中様発作(S)を特徴とする疾患で、脳卒中様発作の発症から平均16.9年で死亡する難病です。その90%以上はミトコンドリアのロイシンtRNA遺伝子領域の点変異が原因であることが、国立精神・神経医療研究センターの後藤雄一メディカル・ゲノムセンター長らにより発見されましたが、基本病態については不明でした。順天堂大学の太田成男客員教授、東京大学の故・渡辺公綱教授および鈴木勉教授は、ロイシンtRNAのアンチコドンに正常では存在するタウリン修飾がこの点変異によって欠損するため、mRNAのコドン認識が障害されることを発見し、MELASは新しい疾患概念であるtRNA修飾欠損病であることを明らかにしました。川崎医科大学の砂田芳秀教授および大澤裕講師は、同大学の西松伸一郎准教授、帝京科学大学の萩原宏毅教授らと協力し、タウリン大量療法の医師主導治験を実施した結果、MELASの脳卒中様発作の再発抑制効果を証明し、基本病態であるミトコンドリアロイシンtRNAのタウリン修飾率が増加することを発表しました(図1)。

この研究成果に基づき、厚生労働省難治性疾患等克服研究事業およびAMED難治性疾患実用化研究事業の研究開発課題「タウリンによるMELAS 脳卒中様発作再発抑制療法の実用化」の支援のもと、川崎医科大学の砂田芳秀教授らによる医師主導治験が進められました。

図1 タウリン大量療法によるtRNA修飾欠損の改善効果

成果

医師主導治験では、既承認薬であるタウリン散によるtRNA修飾欠損の改善効果・脳卒中様発作再発防止効果を検証することができました(図2)。

この治験結果に基づき、日本神経学会から厚生労働省に未承認薬・適応外薬の要望書が提出され、2017年8月に「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の検討結果を受け、厚生労働省は大正製薬株式会社に、既承認薬タウリン散について難病MELASにおける脳卒中様発作の再発抑制を効能・効果とする開発要請を行いました。

2018年4月16日に「MELASにおける脳卒中様発作の抑制」の効能・効果および用法・用量の追加に係る一部変更承認申請が行われ、2019年2月21⽇に厚⽣労働省より薬事承認を取得しました。

タウリン散:
1987年に承認され、うっ血性心不全・高ビリルビン血症(閉塞性 黄疸を除く)における肝機能の改善、を効能・効果とする薬剤。
図2 タウリン大量療法による脳卒中様発作の再発抑制効果

展望

これまでミトコンドリア病MELASに対して保険適用されている薬剤はありませんでした。タウリンは日本で初めて、難病であるミトコンドリア病に対して保険適用された治療薬となりました。今後、糖尿病や心筋症など脳卒中様発作以外の症状に対する治療効果も期待されています。

最終更新日 令和2年1月29日