AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:招待講演① iPS細胞がひらく新しい医学(2)

(抄録)

招待講演➀ iPS細胞がひらく新しい医学

山中 伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所 所長)

iPS細胞を使った再生医療の研究

講演中の山中伸弥先生の写真

iPS細胞を使った再生医療の研究においては、日本が世界のトップを走っています。理化学研究所の髙橋政代先生のチームは、2014年9月、滲出型加齢黄斑変性に対する臨床研究として、患者さん自身の皮膚の細胞から作ったiPS細胞を使って網膜色素上皮の細胞を作り出し、移植手術を行いました。世界で初めての、iPS細胞を使った臨床研究です。 患者さんの経過は大変良好で、手術をした側の目は視力低下が止まり、安定しています。一方で、手術をしなかった側の目は、残念ながらどんどん視力低下が進んでいるそうです。

つい先日、この成果論文が「The New England Journal of Medicine」という世界の臨床医学雑誌の中でも権威ある雑誌に報告されました。 術後経過が良好な一方で、実用面での課題も明らかになりました。患者さんご本人の皮膚の細胞から網膜の細胞を作り出すのに約1年の時間がかかることと、iPS細胞の品質評価に数千万円、今回の治療全体で1億円くらいの費用がかかることです。この問題を解決するため、私たちはAMEDから支援を受けて、再生医療用のiPS細胞ストックを作製し、備蓄する事業を進めています。

さまざまな免疫タイプのiPS細胞をストック

説明図2枚目(説明は本文中に記載)
図2 再生医療用iPS細胞ストックの概要
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」は、いわば既製品としてのiPS細胞を何種類も作っておいて、それぞれの方に合ったiPS細胞をすぐ提供できる準備をして備蓄しておく事業です。

細胞移植の場合、拒絶反応を起こさないようにするためには、血液型のほかに、免疫のタイプを合わせる必要があります。免疫のタイプは何万種類もあり、今日会場にいらっしゃる1000人の方の中でも、免疫タイプが偶然一致するということは確率的にまずあり得ません。一卵性双生児以外は親子であっても兄弟であっても一致しないほど、免疫のタイプを合わせるのは難しいのです。

しかし、まれに免疫拒絶反応が起こりにくい、特殊な免疫のタイプの方がいます。分かりやすいように、その方たちのことをここでは「スーパードナー」と呼びます。このスーパードナーのうち、最も多くの日本人に適合する方と2番目に多い方の血液細胞から作製したiPS細胞だけで、日本人の約24%、約3000万人の方をカバーすることができ、再生医療に関して、大幅な時間短縮と費用削減が見込めます。

私たちは日本赤十字社の血小板献血、骨髄バンク、臍帯血バンクの協力を得て、既に10人以上のスーパードナーの同定に成功しています。CiRAにある高度に管理されたクリーンルームで、これまでに2人のスーパードナーの協力を得て再生医療用のiPS細胞を作製しました。十分な時間をかけて徹底的に品質を評価し、高い品質のものだけを各大学や企業に提供しています。

今年3月には、先ほどもご紹介した理化学研究所の髙橋政代先生が、世界で初めてiPS細胞ストックから作製した網膜細胞での移植手術を行いました。臨床研究の実施例は今年度中にさらに増える予定です。網膜以外でも角膜疾患やパーキンソン病、心不全、脊髄損傷、輸血用の血小板などでも臨床応用に向けた研究が進められており、iPS細胞でがんを攻撃する免疫細胞を作る研究も始まっています。

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最終更新日 平成29年10月16日