AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:招待講演① iPS細胞がひらく新しい医学(3)

(抄録)

招待講演➀ iPS細胞がひらく新しい医学

山中 伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所 所長)

iPS細胞を使った創薬研究

創薬分野でも多くの研究が進んでいますが、そのうちの1つとして、CiRAの井上治久教授がALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究に取り組んでいます。ALSは全身の筋肉が麻痺していく進行性の難病で、運動神経の異常が原因であることは分かっていますが、いまだに有効な治療法が見つかっていません。動物実験では有効な薬が見つかっていますが、それらはヒトに効きません。そこで、ヒトの運動神経を使った実験が必要なのですが、今までは、患者さんの細胞を大量に、長期間使用することは非常に難しいことでした。

井上教授は患者さん由来のiPS細胞から運動神経を作り出すことに成功し、研究を進めています。研究の結果、既にいろいろなことが分かってきています。例えば、ALSは非常にゆっくり進行する病気ですが、患者さんから作ったiPS細胞由来の運動神経は、健常な方から作ったiPS細胞由来の運動神経と比べて、細胞死を起こしやすいことが分かりました。iPS細胞を使って組織を作ることにより、病気を「in vitro」で再現でき、さらに患者さんの中では数十年かかることを数週間で再現できるようになりました。

白血病治療薬がALSに効果がある可能性も

説明図3枚目(説明は本文中に記載)
図3 iPS細胞を使った病気の再現と薬の開発
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

さらに井上教授は、iPS細胞から作製した大量の運動神経に対して、1000種類以上の既存薬の効果を試しました。すると、白血病治療で使われている薬が、ALSにも効果がありそうだということを発見しました。他の病気で使われている薬を難病などに転用するアプローチは「Drug Repositioning(ドラッグ リポジショニング)」と呼ばれています。既存薬は、既に臨床現場で使用され、安全性等が確立しているものが多いので、既存薬を他の病気の治療に転用できれば、薬の開発期間と費用が大幅に削減できると期待されています。井上教授の成果はまだ細胞レベルで、ヒトに対する安全性や効果の評価はこれからなのですが、研究成果を実際の患者さんに届けたいということで、井上教授は一生懸命努力をされています。

“学in産”の連携で、“死の谷”を乗り越え、研究成果を社会へ

講演中の山中伸弥先生の写真

iPS細胞のようなアカデミアの研究成果を社会に還元するためには、その成果を企業にしっかりと技術移転し、実用化してもらうことが必要です。米国ではベンチャー企業が両者をつなぐ役割を果たしていますが、日本ではまだ“死の谷”と呼ばれる深い溝が存在しています。 私たちはこの溝を乗り越えるべく、武田薬品工業と共同で「T-CiRA」という新しい取り組みを始めました。今までの企業との共同研究では、製薬企業の研究者がCiRAに来て研究を行っていましたが、T-CiRAはCiRAの研究者が武田薬品の研究所に出向き、社員の方とチームを組んで研究を行うという、今までとは180度違う方針を採っています。

アカデミアの研究者が、企業が持っている化合物ライブラリーや人材、研究開発のノウハウに直接アクセスできるため、開始からわずか1年で成果が表れています。“学in産”の連携スタイルで、死の谷を乗り越えるモデルとなるべく努力しています。

むすび

私たちは「一日でも早く、そしてできるだけ安価に患者さんに届ける」ことを目指して、iPS細胞の臨床応用を進めています。CiRAには今、600人以上の教職員、学生がいますが、一生懸命頑張っておりますので、今後とも御支援のほど、よろしくお願い申し上げます。本日は誠にありがとうございました。

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最終更新日 平成29年10月16日