AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:AMEDの現在と未来(4)

(抄録)

AMEDの現在と未来―グローバルなデータシェアリングによる研究開発の推進―

末松 誠(AMED理事長)

IRUDでは既に大きな成果が

IRUDでケースマッチングした最初の例は、出血傾向のある患者さんで、血小板の減少と指の変形や足が腫れるといった症状が出ていました。このフェノタイプを見た別の施設の先生からIRUDの診断委員会に、「同じタイプの患者を診たことがある」と申告があり、両患者のゲノム解析をした結果、2人には共通してCDC42という分子の先天的異常があることが分かりました。

説明図・4枚目(説明は本文中に記載)
図4 IRUD診療体制
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

希少疾患では、一人の医師が同じ症状の患者を複数診る可能性はほぼゼロです。そのため診療機関の垣根を越えた情報共有が欠かせません。IRUDはこの1年半の活動で12の新しい疾患が判明し、簡単なエクソーム解析で34%の診断確率が得られています。国内220の協力医療機関がネットワークを構築して、IRUDの診断委員会が情報共有を行い、半年以内に診断結果を回答できた例がまもなく500例に達します。国内だけでなく米国、オーストリアとのケースマッチも出てきています。

今年度からはさらにチャレンジしようということで「IRUD Beyond」をスタートさせました。3つのBeyondがあって、Beyond diagnosis、これは診断だけではなくて、日本が少し遅れているゲノム編集技術とか、遺伝子治療技術の基礎と応用の研究を推進するようなプログラムをやっていく。Beyond genotyping、ゲノム解析だけでは分からないことをきちんと補完をする。Beyond borders、国境を越えた臨床情報の共有に取り組んでいきます。難病未診断疾患をきっかけに、他の疾患でも国際協力を広げていくことが私たちの願いです。

患者さん一人ひとりのための医療という初心を忘れずに

AMEDのこの2年間の取り組みを紹介してきましたが、これからのことについてもいくつかお話します。

一つは、医療現場での手技や実際に患者さんを支援するプログラム、また看護師さんや薬剤師さんなど専門職の方のプロフェッショナルな技術によって支えられている部分の研究開発を強化することです。これをAMEDでは「メディカルアーツ」と呼んでおり、創薬と医療機器開発に次ぐ第三の柱として位置づけ、推進したいと考えています。

また、研究費について国からの補助金に加えて民間資金を活用していくことも極めて重要な課題です。

amedsympo2017_07_01

また、倫理審査委員会の中央化にも取り組んでいきます。医療研究開発は倫理審査委員会を通らないと進みませんが、現在はそれぞれの大学に倫理審査委員会があり、全部基準が少しずつ違っているという状態です。中央化を進め、治験のスピードを速めたいと考えています。

また、日本外科学会のデータベース(National Clinical Database:NCD)活用や、電子カルテの共有、あるいは医用画像診断を扱う3つの学会(日本医学放射線学会、日本消化器内視鏡学会、日本病理学会)のデータベースの基盤整備を初めから3学会合同で進めるなど、積極的にサポートしています。AMEDの重要な仕事の一つである提案書の評価についても、共通の物差しによる採択の仕組み作りを進め、全ての課題についてデータベースを作成しているところです。

冒頭で医療研究開発は、マラソンではなくて、駅伝だという話をしましたが、そのたすきを渡すところ、いたるところに障害物があります。それを一つひとつ、根気よく解いていくのがAMEDの仕事であると考えています。

“患者さん一人ひとりのための医療”、という初心を忘れずに、運営を進めていきたいと考えています。

本日は、お忙しい中、ご来場、ご清聴どうもありがとうございました。

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最終更新日 平成29年10月16日