AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:AMEDの現在と未来(3)

(抄録)

AMEDシンポジウム1日目(5月29日)AMEDの現在と未来―グローバルなデータシェアリングによる研究開発の推進―

末松 誠(AMED理事長)

若手研究者の育成にも力

(説明は本文中に記載)
図3 全研究課に「1課題1000万円」を原則にした若手育成枠を増設:応募件数の爆発的増加
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また、若手研究者の育成も大きな課題だと考えており、設立以降、採択課題に若手育成枠を設けることに取り組んでいます。

特別な予算はないので、シニアの先生方にお使いいただいている研究費を少しずつ削らせていただいて、そのお金で若手枠を作るというやりくりをしました。ベテランの先生方には申し訳ありませんでしたが、結果として、若手枠にたくさんの応募をいただくことができました。

そこで、昨年(2016年)度は、研究事業を担当する全ての部署で「1課題1000万円」を原則に、それぞれ10~20課題の若手枠を作りました。若手枠を設定する事業を、2015年度の7事業から14事業に増やしたところ、たくさんの若手研究者からの応募があり、応募数は対前年比で11.1倍。採択数は18件から81件と対前年比で4.5倍に増えました。応募が増えたために採択率は厳しくなり、16.5%という状態ではありますが、今後も若手研究者の育成に尽力していきたいと思います。

基礎研究についても同じです。次に示す図でHFSPと書いてあるのは、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムという非常に先鋭的な基礎研究のことです。異なる3つの国籍の若手研究者、3人の研究者が異なるフィールドの学際研究を行っている若手を集めて、先端的なハイリスクの研究を行うという基礎研究に対するグローバルなファンディングで、2019年に30周年を迎えます。協力している国の中で日本が最も多く拠出金を出している研究費ですが、最近日本の研究者の応募が非常に少なくなってしまいました。AMEDは、このHFSPの日本での運営支援を担当していますので、これをぜひ若手研究者の育成に、よりいい形で使いたいと考えています。

研究データの公開とデータシェアリング

写真(講演の様子)
写真(講演の様子)

データシェアリングも設立当初から力を入れ続けてきたことです。

研究者は、自分が集めたデータや成果を、論文が学術誌で出版されるまで公開しないというのが一般的なのですが、医療研究においてもデータシェアリングは非常に重要です。研究データを公開しないことが、ある医療の領域では決定的な問題になる可能性があります。昨年世界的に流行したジカ熱への対応では、まさにデータシェアリングに関する国際的な取り組みがなされました。

疫学研究、臨床研究、媒介する蚊の基礎研究も含めてジカ熱に関連する研究から得られる質の高いデータや成果を、論文を出す前に多くの関係者が利用できるように共有してもらい、その代わり世界のファンディング機関や学術誌出版社は、データを公開した研究者が論文発表に不利にならないように配慮するというものです。

「Cell」「Nature」「Science」「The New England Journal of Medicine」などの論文誌と世界の多数のファンディング機関がこの声明に署名しました。もちろんAMEDも署名しました。声明が出されてから1年たって、ワクチン開発がどこまで進んでいるかとか、患者さんにどういう合併症が起こるのか、その経過がどうなのかなどの情報が次々に開示され、共有されています。

特にデータをシェアしなければ患者さんを救うことができないのが、希少難病の領域です。教科書に載っていない病気や定義通りに診断できない病気はたくさんあり、その数は7000以上とも言われています。

AMEDの「未診断疾患イニシアチブ(以下、IRUD)」は、患者さんやご家族のゲノム情報を調べることによって診断をつけようとする取り組みです。ある患者さんのゲノム全体の1%のエクソーム解析をしたところ、遺伝子変異が10万通り以上見つかりました。この中でその方の病気の原因となっている遺伝子を一つ同定するのは大変なことです。しかし最近AMEDが別の事業で支援している東北メディカル・メガバンクが健常な日本人2049人の全ゲノム解析をもとにした日本人の全ゲノムリファレンスパネルについてデータシェアリングしたことにより、希少難病の原因となる疾患遺伝子の特定が非常に早くできるようになりました。

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最終更新日 平成29年10月16日