AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:成果報告② がん研究と若手育成(2)

(抄録)

成果報告➁ がん研究と若手育成

間野 博行氏(東京大学大学院医学系研究科細胞情報学分野 教授、国立がん研究センター研究所長)

がんのゲノム医療が始まる

説明図・2枚目(説明は本文中に記載)図2 産官学によるゲノム医療
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諸外国では既にがんのゲノム医療による治療を試みが始まっています。例えば、米国では、患者の組織のスライドを送ると、315種類の遺伝子の変異や融合を一度に調べて、その結果を病院にレポートするというサービスを行っており、英国やフランスでも同様のサービスが始まっています。日本でも、がんのゲノム医療を一刻も早く、正しい形で定着させるべきだと考えます。

がんのゲノムを調べて治療薬を選択することは医療行為ですから、制度の保障と責任が必要となり、安易に研究室で行うべきではなく、ある一定の基準に準拠した検査室で、標準手順書に基づいて行うべきです。また、検査結果から得られた知見を、日本の知財として確保することも極めて重要です。

しかし、これらを実現するためには非常に大きな知識データベースと広範囲の人材が必要となります。また、その結果をがん患者・家族に正しく伝えるためには遺伝カウンセラーという資格の人材も必要ですが、日本では極端に不足しています。

AMEDによる「臨床ゲノム情報統合データベース整備事業」で、2016年から東京大学で産官学連携のゲノム医療体制を構築しています。この中で、検査結果を知識データベースに当ててレポートを作成した後、その内容をエキスパートパネルで話し合い、患者にフィードバックするという活動が始まっています。

腫瘍のゲノム解析の結果見つかった遺伝子の変異が本当に病気の原因となっているかを調べるデータベースとして、がんゲノム医療用知識データベース「T-CanBase」を開発・運用しています。T-CanBaseでは、保険承認薬や治験薬に対し、遺伝子変異のさまざまな臨床的意義をひもづけして、情報を整理しています。

国も、こういったがんゲノム医療を保健医療の枠組でどのように国民に提供するべきかを議論するために、がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会で議論しました。

研究者の育成

説明図・3枚目(説明は本文中に記載)図3 次世代がん医療創世研究事業の若手育成枠
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がん研究に関しては、次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム「P-DIRECT」が2011年からスタートしています。2016年度からは「P-DIRECT」を引き継いで、次世代がん医療創生研究事業「P-CREATE」も始まりました。

P-CREATEでは若手育成枠を作り、若手研究者のサポートを始めました。39歳以下(女性は45歳以下)を対象に、年間1000万円を上限とする育成枠を設け、現在22人の研究課題が進行中です。

若手研究者を育成することを目的としたワークショップも開催しています。例えば一昨年には、P-CREATEと革新的がん医療実用化研究事業の若手研究者などを対象に「AMEDがん若手研究者ワークショップ」を開催しました。ワークショップでは権威ある研究者が架空で申請課題を提案し、若手が採点するという新しい試みを行いました。申請課題にはいくつか「穴」を設けてあり、それをきちんと見つけられるかを評価する、ベテラン・若手の双方にとって緊張する試みです。

この試みでベストポスター賞・ベストレフェリー賞を受賞した数名は、AMEDが費用を助成し、翌年にハワイで開かれた「日米合同癌シンポジウム」に参加しました。シンポジウムでもポスター発表し、さまざまな人との意見交換する機会としてもらいました。

昨年も第2回目のワークショップを開催して、第1回目と同様に若手による架空の申請課題の評価を行いました。採点の結果、優れた評価者だった数名は、カナダで開かれた「国際がんシンポジウム」にAMEDの助成により参加しました。シンポジウムでの研究発表に加えて、カナダのアルバータ州にある大学の研究室を訪問し、意見交換する機会も得ることができました。

がん研究はますます競争が激しくなっており、一方がん研究者になる人が少ない状況です。さまざまな対応策と取ることで、若手の意識を高め優れた人材を育成することで、がん研究がこれからもますます続いていくよう願っています。


参加者の方々は、分子標的薬ALK阻害剤が日本の基礎研究から生まれて異例のスピードで患者さんのもとへ届けられたこと、原因遺伝子を特定するゲノム医療の時代が幕を開けたことなどについて、熱心に耳を傾けていました。また、若手育成の取り組みに関する紹介で、間野氏が権威ある研究者が架空で申請課題を提案し、若手が採点するという新しい試みを紹介した際には、興味深い取り組みであると思われたのでしょうか、会場のあちこちでうなずいている方がいらっしゃいました。

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最終更新日 平成29年10月17日