AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:成果報告③ 国産技術による次世代バイオ医薬品製造技術基盤の開発(2)

(抄録)

成果報告➂ 国産技術による次世代バイオ医薬品製造技術基盤の開発

大政 健史氏(大阪大学大学院教授)

国産のCHO細胞株の新規樹立を達成

説明図・3枚目(説明は本文中に記載)
図3 日本で承認された細胞基材由来タンパク質性医薬品
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

既に多くの成果が上がっていますので、いくつか御紹介します。 まず、国産のオリジナルのチャイニーズハムスターの卵巣由来細胞(以下、CHO細胞)株を新規に樹立したことです。

抗体医薬の多くは動物由来の細胞を使っていて、代表的なものにチャイニーズハムスターの卵巣由来細胞(CHO細胞)があります。細胞は、体の外に取り出して培養すると、普通は何回か分裂すると死んでしまうのですが、まれに、非常に低い割合で、無限に増殖する細胞が得られます。これを細胞株と言って、この細胞の設計図を書き換えることによって、抗体医薬を生産しています。

これまで使っていたCHO細胞は、50年前にアメリカで分離された細胞株です。そのため非常に多額のライセンス料やロイヤリティーを払っています。そこで今回の研究課題では、まずオリジナルな国産のCHO細胞を作り、それを使った生産を進めています。

具体的には、チャイニーズハムスターの臓器を培養し、自然形質転換によって不死化、つまり無限に増殖できる細胞を作ります。これを技術研究組合で開発した特殊な培地を使って浮遊、馴化します。この培地を使うと早く成長し、生産性も上がります。現在、チャイニーズハムスターの卵巣由来のCHO、肺臓由来のCHL細胞、腎臓由来のCHK細胞の3つを構築していますが、今日は肺臓由来のCHL細胞についてご紹介します。

CHL細胞については肺組織から取り出した細胞を生体外で培養し、すでに500日以上継続して無限に増殖することができています。遺伝子を入れる効率も従来のものと同等で、実際の医薬品に使うための純度試験はすべて合格しています。

大きな特徴は、非常にすぐれた増殖能力です。従来の株と比較し、1.5倍ほど速く増えます。生き物、細胞、マウスを1.5倍速く増やすというのはこれまでできなかったことで、今までかかった開発期間を最大3分の2に短縮できるということです。抗体医薬は、1つの売り上げが何十億、何百億という非常に大きな製品であるため、生産の開発スピードが上がれば、非常に大きな効果があります。

スクリーニング用の多連培養装置

次にこの研究課題の成果としてご紹介するのは、スクリーニング用の多連培養装置です。

細胞にとって最適な培養条件を模索する上で、実験室スケールにまで小さくしたモデルを使い、条件をシミュレートすることは極めて重要です。そうしたものをスケールダウン技術といいますが、我々は海外の従来品に比べて3分の1の占有体積率で、生産用の培養装置と同一方式で細胞スクリーニング、培養条件最適化を行える培養装置を開発しました。

このほか、抗体医薬品に特化した迅速糖鎖分析法も開発しました。抗体は糖たんぱく質なので必ず糖鎖を分析する必要があり、糖たんぱく質の糖鎖分布は品質と抗体の活性に大きく影響します。今までは取り出してきた後に消化し、実際に標識して液体クロマトグラフィーを使って分析するため時間がかかりました。この工程を統合した要素技術開発し、従来2日かかっていたものが2時間で分析できるようなサンプル準備技術を開発しました。さらに、このキットを用いた糖鎖分析に関する標準作業手順と自動化装置も開発中です。

実際に試験製造ができる施設が稼動

説明図・4枚目(説明は本文中に記載)
図4 MABにおけるバイオ医薬品製造工程と研究開発項目
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

いくつかの開発成果をご紹介しましたが、この研究課題の大きな特徴は、こうしたものを有機的に結合させて、実際の製造で試すことができる施設を作っていることです。車に例えれば市場に出す前にまずサーキットで走らせるように、医薬品の製造も10年、20年と同じものを作り続けるための技術検証の場として実験センターを作る必要があります。しかしこれまでそういった施設はありませんでした。

そこで神戸大学の統合研究拠点、アネックス棟内に神戸市、神戸大学のご協力をいただき、製造拠点となる技術開発の研究施設「神戸GMP施設」を開設しました。ここではGMP製造に対応できる技術の実証を目指し、我々が開発したメソッドをさまざまなところに移植できるような体制を整備しています。

この設備には、施設の実際の動線など、技術的なことがら以外に、非常に多くのノウハウも詰まっています。これを各社一体となって共同開発することで、人間の動きの最適化なども開発できると期待しています。この施設には見学通路を設け、どなたでも見学できます。

先ほども触れましたが、この分野の技術で日本は個別には非常にレベルの高いものを持っているのですが、全体を組み合わせてデザインする力が足りません。製造プロセスも、個々のプロセスだけではなく全体として統括し、開発し、最適化していくことが重要です。その意味で全体を見回す人材の育成が必要です。

今回の研究課題では、各社の競争領域でないところでは、一致団結して、しっかりした技術的な解明の上に、細胞株や培地、培養方法の開発や生産物の品質管理などの一体とした基盤整備を行いました。今後も抗体医薬製造に関連するさまざまなプロダクションに関わるサイエンス/エンジニアリングの研究開発を進めていきます。

以上の開発においてはオールジャパンでオープンイノベーションを進めていくという目標の下、多数の製薬企業様にさまざまな御助言、御協力、サポートをいただいたことをお礼申し上げます。


国産のバイオ医薬品の製造基盤を構築するため、産学官35以上の団体の参加による日本の英知を結集しての取り組みは、多くの参加者の関心を引きました。講演後には大政氏のもとに質問や意見交換をするため、多くの人が列を作っていました。アンケートでは「目立たないがとても重要な取り組みである」というご意見もいただきました

【前ページ】はじめに

「AMEDシンポジウム開催レポート」トップページに戻る

最終更新日 平成29年10月17日