AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:成果報告⑤ コミュニケーションロボットの効果(5)

(抄録)

成果報告⑤ コミュニケーションロボットの効果

大川 弥生氏(産業技術総合研究所 招聘研究員)

「環境・操作反応型」のロボットのクロスオーバー試験

クロスオーバー試験を20組以上で行ったロボットの組み合わせは9種類であり、そのうちクロスオーバーをおこなった2種類のロボット間で改善率に著しい差が認められた例を紹介します(3施設28組)。

用いられたロボットは、一つは中型で持ち運びは可能ですが、車椅子で外出するような時は運ぶのが難しくほとんどデイルームなどに据え置いたロボットと、小型で持ち運ぶことができるロボットです。中型は改善率は10.7%に対し、小型は35.7%と大きな差が出ました。これは、被介護者がロボットを携帯して一緒に移動することで生活が活発化し、生活の中で行う活動項目が増えています。

さらに小型のロボットを、介護者が特に介入せずに被介護者がただ携帯するだけ(非随時支援プログラム)だと改善率は20.2%ですが、介護者がさまざまな場面でいろいろな活動項目を促しながら被介護者が使用した場合(随時支援プログラム)は53.8%という高い改善率になっていました。このことから携帯が可能であるロボットとしての効果だけではなく、介護プログラムの影響も大きいと考えられます。 費用対効果は、介護現場への導入に大きく影響しますが、この中型ロボットと小型ロボットの比較では安価な小型ロボットの方が、効果が大きいといえました。

介護者負担への影響

説明図・5枚目(説明は本文中に記載)
図5 介護者負担への影響
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

介護者の負担について、同一施設の別々のユニットで3種類のコミュニケーションロボットを用いた場合について、介護記録(含:カンファレンス記録)に記載されている内容から介護者の負担に関係する内容を抽出して調べました。

被介護者の改善率では「状況検知対応型」が最も高くなりましたが、介護者の負担感について見ると、「環境・操作反応型」や「代替プログラム実施型」で介護者の負担は軽減されていました。

負担が軽減された内容を聞いたところ、「ロボットが相手をしてくれるので別の仕事ができる」「ロボットが指導してくれるから自分たちは指導しなくても済む」などが多くなっています。

一方、「状況検知対応型」は、介護プログラムを考えていくことに時間を要するため負担の軽減につながっていないという結果になっていますが、被介護者が改善するのでやりがいがある、という意見も多くありました。このように、介護負担の軽減のみが介護者にとってのプラスの効果であるとはいいきれないと考えられます。

コミュニケーションロボットに要求される機械的要素

今回の調査の目的の一つである、コミュニケーションロボットに要求される機械的な要素について、以下にまとめました。

まずコミュニケーションの「手段」として利用できるための要素が求められていること。 ソフトウエアとしては、個々の「活動(生活行為項目)」、「参加」への働きかけと、生活の活発化を実現できること、 次に、介護手段として「促し」を有効に行えるプログラム設計が必要であり、その効果を維持できるためには促し等の対応の内容が多様であること。

そして時間的余裕のない実際の現場で使っていただくためには、プログラムの選択や調整が容易であることも求められます。 ハードウェアとしては、被介護者の反応が記録されて、その効果の状況から働きかけの変更が容易にできるということも重要な観点になると思います。 また介護での使用を想定した機械的な安全性、これはまだまだ検討すべきことがたくさんあります。

最後に、音量、音というのはコミュニケーションにおいてとても大事なことで、高齢者では配慮が必要ですが、この調整がより適切に可能なことが必要です。これらの要素が満たされることによって、非常に大きな発展の可能性があるのではないかと考えています。

結論

説明図・会場の様子(説明は本文中に記載)

結論として、「コミュニケーションロボットの効果」についてまとめます。まず、コミュニケーションを目的とするだけではなく、手段として用いることの効果は大きいといえます。

次に、被介護者の自立向上すなわち活動項目の改善だけではなく、生活の活発化についても改善の効果が認められました。

そして、ロボット単独ではなく、「よくする介護」として活用する介護プログラムの影響は大きいと考えられました。 以上、コミュニケーションロボットは「よくする介護」を実践する「物的な介護手段」として今後開発すること、また、それを活用する介護プログラムの綿密化が、期待されると考えます。

御静聴ありがとうございました。


今回の報告は、AMEDが手掛けている研究とは毛色の違い、AMEDが掲げるLifeの一つ「生活のクオリティー」を向上させるための研究成果として、関心が高かったものです。実証実験では、介護現場におけるコミュニケーションロボットを1000台規模で介護現場に導入し、科学的にデータを取ってその効果を客観的に検証するということで、大きく注目されてきました。今回、速報という形で結果を発表させていただくということで、ご来場者が大変真剣にかつ熱心に傾聴されていたのが大変印象に残りました。

最終報告書を掲載しています(外部サイトにジャンプします)


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最終更新日 平成29年10月17日