AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:成果報告⑤ コミュニケーションロボットの効果(4)

(抄録)

成果報告⑤ コミュニケーションロボットの効果

大川 弥生氏(産業技術総合研究所 招聘研究員)

コミュニケーションロボット活用例 

説明図・3枚目(説明は本文中に記載)
図3 状況検知対応型
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コミュニケーションロボット使用の具体例の紹介もかねて、この施設では具体的にどんなことをしていたのか、ご紹介します。

まず使用した「状況検知対応型」ロボットですが、人形型の発話部分とセットになってセンサー部分があり、被介護者のベッドの上につけられています。このセンサーの映像(図3)、被介護者がベッドに寝ているとか起きて座っているという状態は介護者もスマホ等で見ることができ、またロボットが被介護者への「促し」の声かけをした時は知らされます。

このセンサーで被検者の状況を検知して例えば、昼間30分以上ベッドで横になっていたり、腰かけている時間が30分以上になると、「そろそろ起きたらどうですか」「外に出ませんか」といった内容の「促し」をするのです。この「促し」がかなりの効果がありました。介護とは、介護者が被介護者に直接手を添えて何かをやってあげるものというイメージがあるかもしれませんが、それだけではなく、実は「促し」が介護の手段として非常に重要だという結果を示したものです。

このようにロボットが部屋の外に行くように促しますが、大事なのは部屋を出た後に部屋の外でいろいろな活動項目を行い、生活が活発になることです。そこで、この施設では部屋を出た後に「すること」を増やすように工夫しました。例えばデイルームで行う活動項目をいくつか作りました。テーブルを整頓したり、座って行うことがふえるように本や雑誌を置いたり、自分でお茶を入れて飲めるようにお茶道具を置いたりしました。このように居室棟全体の介護プログラムを変更しこの環境を用いての被介護者個別へのきめ細かな対応も行われるようになりました。部屋の外で「すること」がなければ居室に戻ってきやすいのです。

このような結果4割以上という「活動」の「量」の向上である「生活の活発化」を生むことにつながりました。ただしロボットだけで効果を生むものではなく、ロボットが介入して初めて効果を実現できたのです。

また、このロボットを導入して介入が始まったことによって、居室以外での介護プログラムも大きく変わり、これらも含めて効果があったと言えます。 この施設の88歳の女性の改善例を紹介します。サービス付き高齢者住宅入所時からロボット使用直前までは日中もベッドで臥床しているのがほとんどで、座位は食堂でのみ。移動は車椅子、また、整髪や更衣なども一部介助という状態でした。この方にコミュニケーションロボットによる介入を行ったところ、2週間後にはロボットが「促す」だけで自ら車いすへの移乗動作を行うようになり、3週間後には自立して車いすへ移乗し、食堂やデイルームに移動するようになり、「生活の活発さ」は、日中はほとんど車いす座位で食堂とデイルームにいる時間も増えました。4週後では整髪や更衣などが自立し、見守りながら歩行器歩行をしているようになりました。8週後にはさらに自立度が上がり、移動は食堂・デイルームまで歩行器で自立となり、生活の活発さもさらに向上しました。

介護プログラムによる効果の差

説明図・4枚目(説明は本文中に記載)
図4 コミュニケーションロボットが効果を生む機序
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このように、今回の実証試験では、介入内容として介護内容も重視しました。 その前提として、コミュニケーションロボットの効果を生む要素として、ロボット自体の直接的な効果だけを考えるのではなく、それ以外にも影響するものが少なくないと考えます。

コミュニケーションロボットは「物的介護手段」であり、ICFの「生活機能モデル」(図1)では、「環境因子」として生活機能に影響するものと位置付けられます。「環境因子」にはコミュニケーションロボット以外にも様々な要素があり、そしてそれらが相互に関係しあって生活機能に様々な影響を与えていると考えることが重要です。

なかでも、被介護者に働きかける「人的な介護」とサービスとしての「介護プログラム」(これらはいずれも環境因子)が重要であり、これらが「物的介護手段」としてのコミュニケーションロボットとともに相互作用しつつ、「人」の生活機能に影響を与えるのです。 そのような「人的な介護」の質や「介護プログラム」の質の違いが(同じロボットを使ったのにも拘わらず)上記のような結果の大きな差を生んだと考えられます。

“ロボットを「使いこなす」”という表現が少なからずなされますが、最大限の効果をあげるためにはロボットの直接的な使い方だけでなく、介護プログラムの中に位置づけて、具体的活用法を明確にすることが重要と考えています。

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最終更新日 平成29年10月17日