AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:ワークショップ① 8K高精細画像技術は治療現場に何をもたらすか(1)

(抄録)

ワークショップ① 8K高精細画像技術は治療現場に何をもたらすか

千葉 敏雄氏(カイロス株式会社代表取締役会長)
金光 幸秀氏(国立がん研究センター中央病院大腸外科科長)
伊藤 崇之氏(NHKエンジニアリングシステム専務理事)
若林 俊彦氏(名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学教授)
北野 正剛氏(大分大学学長)

人間の視力で4.27に相当するという8K内視鏡カメラは、高精細な術野画像を見られるだけでなく、ズームしても画質が劣化しないため、術野を広く使えるというメリットがあります。8K技術の医療応用としては、大腸がんの内視鏡手術、遠隔病理診断、脳腫瘍のシリンダー手術など幅広く、従来の治療法よりも高い治療成績が期待できます。今回のワークショップでは、8K技術の治療現場における利活用の可能性について、現在AMEDが支援中の課題の研究者が北野先生のモデレートのもと、熱く語りました。

モデレーターの北野 正剛氏(大分大学学長)

8K高精細画像技術は治療現場に何をもたらすか 

千葉 敏雄氏(カイロス株式会社代表取締役 会長)

従来の内視鏡カメラの16倍の解像度を持つ8K内視鏡カメラは、ピクセル数にして3300万の超高精細画像で、人間の視力に換算すると4.27に相当します。高精細画像による内視鏡手術は、従来の内視鏡手術にはないさまざまな特長があります。

一番の特長は、圧倒的な高解像度画像で、微細な血管や神経まではっきりと見ることができるようになることです。デジタルズームの性能、感度ともに向上しているため、画像を拡大しても画質が劣化せず、直径2.5㎛のPM2.5や直径20㎛の肝細胞まで見ることができます。

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説明図・1枚目(説明は本文中に記載)
図1 “8K内視鏡”手術では操作空間が拡大
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

内視鏡手術の中でも外科手術に使われる硬性鏡では、よりクリアな術野画像を捉えるためにカメラをギリギリまで近づけなければなりませんが、近づけ過ぎれば手術器具とぶつかってしまいます。その点8K内視鏡は、離れた位置からのズーム撮影で高精細な画像を見ることができるため、手術スペースが広くなり、器具の扱いや交換がスムーズになります。また、引いた位置から見られる分視野が広くなり、周囲の出血などにも気づきやすいというメリットがあります。

手術室の環境も大きく変わります。ラットの腸間膜の血管内を流れる赤血球の一つひとつまで見ることができる8Kデジタル顕微鏡を用いた眼科手術では、85インチの巨大ディスプレイに術野の様子を写し出しながら手術を行い、手術室内の全スタッフで観察画像を共有しました。 医用画像の進化は8Kがピークだといわれており、それ以上高解像度になっても人間の目には差が分かりません。さらなる進化としては、現在の8K映像の「立体感」を超える、究極の3D画像を開発中です。

8Kスーパーハイビジョン技術を用いた新しい内視鏡(硬性鏡)手術システムの開発と高精細映像データの利活用

写真(金光 幸秀氏)
説明図・2枚目(説明は本文中に記載)
図2 安全性、根治性、機能温存を含めた
治療成績の向上に期待
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

金光 幸秀氏(国立がん研究センター中央病院大腸外科 科長)

2016年からスタートした8Kスーパーハイビジョン技術を用いた研究プロジェクトでは、8K技術を用いた新しい内視鏡システムを開発中です。3カ年計画の中で試作機を完成させ、人を対象とした臨床試験を行い、その有用性を科学的に評価するところまでを研究目標として設定しています。

大腸がんは比較的予後の良いがんで、ステージⅠの5年生存率は90%を超えます。しかし、ステージⅢ以降は下がり、ステージⅢbでは60%と、治療成績は十分とはいえません。更なる治療成績の向上が求められています。大腸がんに対する治療法の中では、外科治療が最もコストパフォーマンスが高く、その技術は大きく進歩し、2000年代に入ってから大腸がんに対する腹腔鏡下手術が年々増えており、2013年には大腸がん全体における割合が60%を超えました。

カメラ画像をモニターで写しながら行う腹腔鏡下手術はカメラ画像の画質に左右される部分が大きく、術中合併症の問題など、安全性を不安視する声も聞かれています。従来の腹腔鏡手術システムは市販の2Kハイビジョンが使われており、30°程度と視野が狭い上に、二次元的で空間認識が難しく、術中操作の制限もあります。また、腹膜播種というがんの取り残しが開腹手術に比べて1.5倍も多いというデータもあります。対して研究開発中の8K内視鏡システムでは、100°という視野の広さを確保し、腹腔鏡と手術器具の衝突が避けられるようになるなど、手術による根治性、安全性の向上が期待できます。

研究では、8K高精細データを診断などに利活用する具体的方策も検討しています。高精細映像データを活用することで病理診断の精度を高めたり、高精細画像を蓄積したデータベースとAI活用による画像診断学を組み合わせることで治療成績を向上させることも可能なのではないかと考えます。

【次ページ】8K技術の医療応用に向けて

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最終更新日 平成29年10月17日