AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:ワークショップ① 8K高精細画像技術は治療現場に何をもたらすか(2)

(抄録)

ワークショップ① 8K高精細画像技術は治療現場に何をもたらすか

千葉 敏雄氏(カイロス株式会社代表取締役会長)
金光 幸秀氏(国立がん研究センター中央病院大腸外科科長)
伊藤 崇之氏(NHKエンジニアリングシステム専務理事)
若林 俊彦氏(名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学教授)
北野 正剛氏(大分大学学長)

8K技術の医療応用に向けて―8K硬性内視鏡システムを中心に―

写真/3枚目伊藤 崇之氏
説明図・3枚目(説明は本文中に記載)
図3 平成28年度に試作した8K硬性内視鏡手術システム
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伊藤 崇之氏(NHKエンジニアリングシステム 専務理事)

高精細で高い実物感を感じさせる8K映像は様々な分野でその応用に期待が寄せられています。特に医療分野では、遠隔医療や医学教育、手術での高精細映像利用等の検討が進められています。私たちは、撮影機器の開発や顕微鏡下脳外科手術の撮影、心臓外科、食道外科、肝臓外科の開腹手術の撮影等を通して、8K映像の医療分野での有効性検証を進めてきました。

さらに平成28年度には総務省の「8K技術を活用した遠隔医療モデルに関する実証」事業を請け負い、8K技術を活用した遠隔病理診断と遠隔診療支援の両モデルについて、医学的効果及び技術的課題を検証しました。

遠隔病理診断モデル実証実験では、離れた病院間で8Kの顕微鏡映像を伝送し8K映像による病理診断を行った結果、顕微鏡像の目視による診断との一致率が99.5%と非常に高いこと、従来の遠隔病理診断システムでは困難なピロリ菌や血液疾患などの症例も診断できることがわかりました。

遠隔診療支援においては、専門医のいない離島の病院で皮膚科患者の患部を8Kカメラで撮影・伝送し、大学病院の皮膚科専門医が8K映像を見ながら診断する実験を行いました。その結果、直接診断と高い一致率が得られるうえ、微細な病変観察が可能なので緊急治療や精密検査の必要性が早期に判断できる、等の専門医のコメントが得られました。

AMEDの支援による8K硬性内視鏡手術システムの研究開発においては、8Kカメラの小型化・高感度化、ズーム機能の開発などに取り組みました。共同研究先の開発による8K硬性鏡と組み合わせることにより、約3600TV本の解像度が得られ、硬性鏡とカメラそれぞれの性能向上により従来の8倍の高感度化が実現できました。撮影した8K映像では、非常に微細な血管や腸間膜の重なり、血管の立体的なふくらみなどが観察でき、従来の硬性鏡システムでは見られない画期的な映像が得られることがわかりました。また8K硬性鏡で腹腔内を俯瞰する映像を撮影し、ズーム機能を利用して必要部分をクローズアップする手法の有効性も確認できました。今年度からは8K映像の収集・保管・流通についての検討と実験もスタートします。

8K技術の医療への応用で期待される新展開

写真/4枚目若林 俊彦氏
説明図・4枚目(説明は本文中に記載)
図4 外視鏡
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若林 俊彦氏(名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学 教授)

通常の脳外科手術では、頭蓋骨を広く開け、脳を持ち上げて作った隙間から手術用顕微鏡で観察しながら、手術器具を挿入して腫瘍を取り出します。対して神経内視鏡手術では、顕微鏡手術よりも小さな開頭範囲で済み、内視鏡で直接腫瘍を見ながら摘出することができます。開頭部分が少ないことで脳の露出を最小限にでき、脳の圧拝による損傷も最小限に抑えられます。

特に、脳深部にできた腫瘍では途中の脳の損傷を極力抑えることが重要で、最近では脳手術経路に細い管(シリンダー)を差し込んで行うシリンダー手術が行われています。神経内視鏡であればシリンダーの中での操作でも視野を確保しつつ、腫瘍を摘出することができます。

最近になって4K内視鏡が導入されましたが、それでも解像度や色の再現力で顕微鏡に劣り、色合いや柔らかさなど術者の色覚に頼る脳腫瘍手術では難しいところもありました。そうした問題は8Kの超高画質内視鏡でクリアすることができ、より肉眼初見に近づき、視野が広がることで、手術成績が向上することが期待できます。

将来的には内視鏡にとどまらず、外視鏡(エクソスコープ)が実現すれば、安全に微細な深部脳神経疾患まで治療が可能になり、術後の合併症などのリスク軽減も望めるのではないでしょうか。


写真/6枚目

壇上の大きなスクリーンに映し出される8Kの手術映像に、客席の参加者たちも見入っていました。

ワークショップ終了後は多くの人が展示スペースを訪れ、3Dの8K画像の鮮明さに感嘆の声を挙げていました。

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最終更新日 平成29年10月17日