AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:ワークショップ④ オレンジプランを生かした認知症レジストリとその活用(1)

(抄録)

ワークショップ④ オレンジプランを生かした認知症レジストリとその活用

鳥羽 研二氏(国立長寿医療研究センター理事長)
佐治 直樹氏(国立長寿医療研究センターもの忘れセンター 副センター長)
島田 裕之氏(国立長寿医療研究センター予防老年学研究部長)
近藤 和泉氏(国立長寿医療研究センター副院長)

2015年に策定された「新オレンジプラン」、2016年に構築された「オレンジプラットフォーム」と、日本では国を挙げての認知症対策が進んでいます。AMEDは、2016年度から5年間の予定で「適時適切な医療・ケアを目指した、認知症の人等の全国的な情報登録・追跡を行う研究」(研究代表者:鳥羽研二・国立長寿医療研究センター理事長)を開始、認知症研究のための全国規模のレジストリを立ち上げました。この大規模なレジストリを利用して既にさまざまな研究が始まっています。今回のワークショップでは、国立長寿医療研究センターで行われている心房細動と認知症の関係に着目したコホート調査「ストロベリー研究」、認知症予防対策としての運動療法「コグニサイズ」、傾聴ロボットなどのロボット開発について御紹介しました。

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新オレンジプランの一層の進展に資する研究としての進捗

写真(鳥羽 研二氏)
説明図・1枚目(説明は本文中に記載)
図1 New Orange Plan
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

鳥羽 研二氏(国立長寿医療研究センター理事長)

認知症を巡っては、2013年に英国キャメロン首相(当時)のリーダーシップにより開催された「G8認知症サミット」に始まり、2014年の「G7認知症後継イベント」、2015年の「WHOジュネーブ大臣級会合」、2017年の「Gサイエンス学術会議」と、各国政府やアカデミアによる議論が重ねられてきました。こうした議論を通じて、今後世界が取り組むべき認知症研究の重点領域として「バイオマーカー」「細胞・動物モデル」「予防臨床研究」「介護負担軽減新技術創出」という4つが決められました。

これらの議論を受けて、日本では2015年に新オレンジプラン(認知症試作推進総合戦略)が策定されました。新オレンジプランの7つの柱のうちの一つである「認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進」に向けて、2016年にAMEDの支援により構築されたオールジャパンでの研究体制が「オレンジプラットフォーム」です。

日本における認知症コホート研究は横断調査(朝田班)のみで、年齢調整罹患率のコホートは久山町という限られた地域のものしかありません。そこでオレンジプラットフォームでは、全国規模の実態調査を行うだけにとどまらず、伸展危険因子としての生活習慣や生活習慣病を層別化し、薬や生活習慣の介入に資するようなプラットフォームを構築中です。さらに、新オレンジレジストリを活用した心房細動と認知症の相関調査、地域包括ケアの中の一つとしてロボットなど新しい技術と認知症ケアの統合といった研究分野を推進しています。

オレンジレジストリを用いた心房細動の認知機能に及ぼすインパクトの研究(ストロベリー研究)

写真(佐治 直樹氏)
説明図・2枚目(説明は本文中に記載)
図2 オレンジレジストリ研究
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佐治 直樹氏(国立長寿医療研究センターもの忘れセンター 副センター長)

2004年の国民生活基礎調査によると、要介護の原因として最も多いのは脳血管障害で、次いで高齢による衰弱、認知症となっていました。その後、ロコモティブシンドロームや虚弱(フレイル)の啓発・研究が進み、有効な脳卒中治療薬や抗血栓薬が開発されたことから現在の要介護の原因は脳血管障害と認知症が同程度になりました。しかし、依然として脳血管障害は大きな問題です。

脳卒中の3割程度が脳出血などで、残り7割が脳梗塞です。脳梗塞の中でも心原性脳塞栓症は突然発症して重症化するなど予後が悪いことから注目されていますが、この心原性脳塞栓症の多くの原因が心房細動です。また、脳出血についても心房細動による抗血栓薬が危険因子となることもあります。さらには、脳卒中を発症して認知症になる人がいることも分かってきました。海外では心房細動と認知症の関係についての調査もすでに開始されています。

オレンジ研究を母体とするストロベリー研究は、全国20施設で約400人の患者さんを対象に、通常の認知症研究で行う心理検査や頭部MRIなどを使ったイメージングなどに加え、心房細動という新しい視点から認知症に関する調査をします。現時点では認知症と心房細動の関係やメカニズムは詳しく分かっていませんので、オレンジ研究の枠組を用いて、健常者、軽度認知障害、認知症、脳卒中に対してシステマティックな評価をしていきます。具体的な検査内容としては、心電図、心臓超音波検査、頭部MRI検査などを予定しています。

もう一つ、難聴と認知症の関係を示す研究も注目されつつあり、研究テーマの一つとして取り組むことを検討中です。このように認知症研究は裾野が大変広く、さまざまな視点から研究を進めていくことができる興味深い領域です。これからも、国立長寿医療研究センターでは認知症の制圧に向けて研究を進めて参りたいと考えています。

【次ページ】認知機能低下に資する非薬物療法研究(運動、コグニサイズなど)

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最終更新日 平成29年10月17日