AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:ワークショップ④ オレンジプランを生かした認知症レジストリとその活用(2)

(抄録)

ワークショップ④ オレンジプランを生かした認知症レジストリとその活用

鳥羽 研二氏(国立長寿医療研究センター理事長)
佐治 直樹氏(国立長寿医療研究センターもの忘れセンター 副センター長)
島田 裕之氏(国立長寿医療研究センター予防老年学研究部長)
近藤 和泉氏(国立長寿医療研究センター副院長)

認知機能低下に資する非薬物療法研究(運動、コグニサイズなど)

写真(島田 裕之氏)
説明図・3枚目(説明は本文中に記載)
図3 コグニサイズの脳賦活効果
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島田 裕之氏(国立長寿医療研究センター予防老年学研究部長)

今、認知症は世界的な課題とされており、3秒に1人の割合で認知症を発症し、20年ごとに認知症者数が倍増します。日本では高齢者の15%が認知症だとされていますが、加齢に伴って有病率が高まることから、今後ますます認知症の問題は大きくなると考えられます。

2020年までにある程度の認知症予防対策が整備をされたと仮定して、現状より2年間発症を遅らせたとき、2050年時点での患者数がどこまで減るかを試算した研究があります。その試算によれば、2年間の発症遅延により約20%認知症患者が減り、5年間発症を遅延できれば43~49%の方を認知症から救うことができるという結果が出ています。となれば、一刻も早く認知症予防に取り組まなければなりません。しかも、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパクの蓄積は発症の20年前から始まっていますから、個人レベルで見た場合の認知症予防対策もかなり早めに始める必要があるかもしれません。

そういった予防対策を実現するための取り組みが「オレンジレジストリ」です。オレンジレジストリは、毎年2000人規模の健常者、前臨床期ADの登録コホート研究であり、臨床試験や将来の治験に備えていきます。また、前臨床期を経て軽度認知障害(MCI)であっても正常に回復できる可能性があることから、早期に認知障害に気づき、速やかに予防の取り組みを始められるようにすることが重要だと考えます。一見すると元気な高齢者を検査すると、21%がMCIであるという結果が出ており、元気に暮らす高齢者の5人に1人は今すぐにでも認知症予防の対策が必要と考えられます。

具体的な予防対策としては、成人期に至るまでの教育、中年期の生活習慣病の関連因子への対処などがありますが、後期高齢期での老年期症候群の予防が特に重要です。人口あたりの影響度でみるとアルツハイマー病のさまざまな危険因子の中で、身体的不活動がもっとも大きく影響しており、運動不足解消が特に重要な予防対策になります。アメリカの修道院で行われた研究では、病理的にアルツハイマー病だと診断されるほどのアミロイドの蓄積があっても、脳内の海馬の神経細胞が大きく保たれた人は認知症の症状が見られなかったとされています。そのように海馬を良好な状態に保つのに運動はとても有効で、認知症予防対策としても運動は重要だといえます。

認知症予防を目的に運動処方をする場合には、脳を使いながら運動をすることが大変有効です。そこで私たちは「コグニション(認知)」と「エクササイズ(運動)」を組み合わせた「コグニサイズ」という言葉を作り、広げようとしています。コグニサイズを実践することで、認知機能の低下抑制や、脳の萎縮の進行抑制が確認されており、さらに効果期な方法を探しているところです。

ロボットを用いた認知症医療研究(傾聴ロボットなど)

写真(近藤 和泉氏)
説明図・4枚目(説明は本文中に記載)
図4 開発中の傾聴ロボット
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近藤 和泉氏(国立長寿医療研究センター副院長)

高齢者の生活支援ロボットの開発を中心に行うロボットセンターでは、夜間トイレに行く高齢者に付き添うようなロボットの開発や、高齢者の虚弱(フレイル)を予防するためのバランス訓練ロボットを使った研究などを推進しています。

そのような中、認知症に関わる研究として進めているのが指タップ研究です。人差し指と親指を打ち合わせるだけの指タップであっても、認知機能の低下に伴って難しくなることが分かっています。そこで私たちは、日立が開発した磁気センサーで指タップを計測する器械「UB1」を使って患者さんの指タップ対応を記録。その記録パターンから抽出した44のパラメータを参考に、MCIの患者さんと同年齢の対照群の方との比較、認知機能のMMSEスコアとの相関などを調べました。指タップ自体は簡単な評価方法ですから、将来的に健康診断などに導入して、MCIのリスク評価などに役立てられるのではないかと期待しています。

また、認知機能が低下するときには、早期から運動機能の低下が見られるというデータが多数あることから、運動異常の検出にも取り組んでいます。私たちは簡便な評価方法として歩行に着目し、特殊なトレッドミルを使った検証をスタートさせたところです。

もうひとつの認知症対策技術に「傾聴ロボット」があります。認知症対策ロボットとしてこれまでに開発されたものはロボット自身がしゃべるロボットばかりでしたが、傾聴ロボットは相手の話を聞いたり、薬の時間を伝えたりします。また、認知症患者のせん妄は覚醒レベルの低いときや眠いときに起きるといわれているので、ロボットと話をすることで覚醒レベルを上げ、せん妄が起こらないようにしようという考えもあります。

無限の記憶容量を持つロボットは回想法(過去を語ることで精神が安定して認知機能の改善が期待できる心理療法)のパートナーとしても有効ですし、多少のわがままを言われても傷ついたりしません。さらに、ロボットの完成度が低いこともメリットのひとつで、人にお世話をしてもらう必要があるという点で高齢者の認知機能改善につながるのではないかと考えています。

【前ページ】新オレンジプランの一層の進展に資する研究としての進捗

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最終更新日 平成29年10月17日