AMEDシンポジウム2019開催レポート AMEDシンポジウム2019開催レポート(1日目):講演

(抄録)

グローバルな人口遷移下の医療研究開発の方向性
―データシェアリング:日本が明るくこれからの未来を乗り切るために―

末松 誠(AMED 理事長)

はじめに

基調講演の様子

我が国の100歳以上の高齢者は7万人を超え、110歳以上の超長寿者は2010年に150万人に1人でしたが、2015年には80万人に1人と、わずか5年の間に2倍になっています。ところが、人口当たりの110歳以上の割合で見ると、地方による差はなく、過疎地に少なく都市部にはそれだけ多いことがわかっています。

本日のタイトルに用いた「人口遷移」とは、元厚労省医系技官の長谷川敏彦先生が研究された内容で、それによると我が国の50歳以上の人口組成は、1868年の明治維新のころは5人に1人と、4人は50歳以下というとても若い世の中でした。この割合が1970年代半ばから上昇し2040年まで上昇が続くと予測されています。

これを世界で見ると、2060年ごろにはサハラ砂漠の南側とインド以外は、我々が経験したこともないような超・超高齢社会、少子化社会に進むことになります。

健康長寿を実現するために国家として必要な4要素

2018年11月および2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(通称:ドバイ・ダボス会議)で、米国医学アカデミーのVictor Dzau総裁と共に”Human Enhancement and Longevity”という評議会で共同議長をする機会に恵まれました。そこでは健康長寿を実現するための4つの重要な要素を提出しました。

①Global data sharing and linkage:
データを世界で共有し、それをつなげて患者さんを救済する医療を行うこと。
②Development of“Silver Market”:
20年後の世界の人口組成を頭に描いて、そのときに世界で必要とされる研究開発のプロダクトを日本が発信すること。
③Equity and Ethics:
そのプロダクトの恩恵は平等かつ倫理的にあること。
④Building human capitals:
健康長寿に関わらず超高齢・少子化社会の宿命である、労働人口を増やす、あるいは生産性を向上させる、あるいは両方を高めること。

このうち最初の「Global data sharing and linkage」は、超高齢・少子化社会でなくても、医療の実現のためにさまざまな解決につながる考えだと捉えています。AMEDのミッションとして掲げている「一分一秒でも早く患者さんに医療研究開発の成果を届ける」にも通じる考えです。

未曾有の人口遷移が起ころうとしていますが、未知の事象に対して世界がどうなるかを知る専門家や学識経験者は存在しません。そのような状況下では特定の研究者に大きな研究開発費を集中投資するのではなく(Moonshot型)、小さくて一見クレイジーなアイデアをたくさん若手から集めて(Loonshots型)、丹念に拾っていくことが極めて重要だと考えます。

AMED創設第1期の成果

① JEDI:“画像兄弟”プロジェクト


図1 臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業「JEDI(画像兄弟)」
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AMEDの創設から5年間で創薬研究において良い成果が出てきています。最も大きなチャレンジとしては、広域から情報を集め分散統合し、それを有用データとしてフィードバックすることでした。その成果の一つが「臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業」JEDI(Japan Excellence for Diagnostic Imaging)という“画像兄弟”プロジェクトです(図1)。

本プロジェクトでは、日本病理学会、日本消化器内視鏡学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会、日本皮膚科学会、日本超音波医学会の6学会(兄弟)の画像データを基盤にして人工知能(AI)開発のための共通プラットフォームを構築しています。

日本病理学会での成果の一例を挙げると、福島県の医療機関で協力し、福島県立医科大学の病理の先生方のご協力で、病理医が一名であることからダブルチェックができない機関に対し、国立情報学研究所の病理診断支援アプリケーション(AIエンジン)を病理診断に活用し、実臨床において専門病理医が最終判断するダブルチェックにつながっています。また、日本眼科学会では鑑別診断で緑内障の予後を予測するAIが開発されつつあります。このようにデータを1カ所に全て集めて、全国の医用画像診断のチームがアクセスしてデータベースを発展的に大きくしつつ、アノテーションのためのソフト等を共有することによって、AI技術を活用した診断・治療支援を推進しています。

②未診断疾患イニシアチブ(IRUD)


図2 未診断疾患イニシアチブ(IRUD)
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もう一つの成果として、未診断疾患イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases:IRUD)があります(図2)。

これは、診断が付かない患者さんの情報を集め、表現型という複数の症状セットやゲノムの変異情報のマッチング作業を行って患者さんの確定診断を行い、患者さんとご家族に「答え」を返す取り組みです。国内6つの国立高度専門医療専門センター(ナショナルセンター)や都市部の大学病院だけではなく、全国の病院から患者さん情報を集めて活用ができるか、また、その情報を海外のデータベースとも共有して診断が付けられるか、海外の患者さんにも自国の患者さんにも恩恵をもたらせるかに挑戦し、数年の間に大きな成果を出しました。

現在、IRUDでは全国418の協力病院が連携し、このネットワークによるデータベースで実際に診断が付いた患者さんが380名に上りました。さらに、AMEDが協定を結んでいるEUのデータベースを併用することによって、診断効率が高まり、現在まで425名に診断が付きました。なお、IRUDへ最初に情報提供した病院の73%は地域の中核病院であり、大きく貢献しています。

おわりに

AMEDは創設して5年ですが、これからも若手研究者をサポートして研究開発を進めていくことが重要だと考えています。患者さんにインフォームドコンセントをいただき、企業などでもデータを構築していく仕組みにする必要があると考えます。

あと5年、10年、20年かかるかもしれませんが、超・超高齢社会が訪れる前に、我が国の国民のデータをつなげて、どのような医療行為を受けた国民がどのようなクオリティー・オブ・ライフを持っているのかを追跡し次の研究課題を見つけていくようにできればよいと考えています。

講演動画

当日行われた講演の様子を公開しました。以下のリンクをクリックすると、動画ページへ移動します。
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最終更新日 令和3年1月13日