イベント 開催日:令和元年7月9日 HFSP30周年記念式典を開催しました

開催報告

令和元年7月9日、一橋大学一橋講堂(東京・千代田区)において「HFSP※130周年記念式典」を開催し、各国から集まったHFSP受賞者、運営支援国の関係者、招待された日本の高校生を含め約400名の方にご来場いただきました。

式典の第1部は、長田重一HFSPO※2会長の挨拶から始まり、「中曽根康弘首相が提唱して創設されたHFSPが、30年間で参加国がG7各国から15カ国に拡大し、28名のノーベル賞受賞を輩出した。これまでの各国政府の貢献に感謝する」と述べられました。

来賓の柴山昌彦文部科学大臣からは、「HFSPの特徴として独創性、国際性、若手研究者支援の3つを上げ、基礎研究の振興と人材育成への貢献として、引き続き支援をする」と挨拶がありました。磯崎仁彦経済産業副大臣は、「グローバルイノベーションの促進、分野融合、産官学連携をHFSPに期待する」と述べられました。

中曽根弘文参議院議員からは「父の中曽根康弘は101歳だが、元気であり、式典に出席できないことを大変残念に思っていた。現在もHFSPへの関心を持ち続け、その発展を喜んでいる」とお話をいただきました。 続いて、ワーウイック・アンダーソンHFSPO事務局長からHFSP中曽根賞※3の紹介があり、中曽根弘文参議院議員からスイス・バーゼル大学のマイケル・ホール博士に賞が贈られました。ホール教授は1991年に細胞の成長を制御する「TOR」を発見し、その後のがん、メタボリック、2型糖尿病等の研究発展に大きな貢献をしました。

  • 長田重一HFSPO会長
  • 柴山昌彦文部科学大臣
  • 磯崎仁彦経済産業副大臣
  • 中曽根弘文議員
  • 左から長田重一会長、マイケル・ホール博士、中曽根弘文議員、ワーウイック・アンダーソン事務局長

式典の第2部では、日本の高校生約100名も参席し、末松誠AMED理事長の司会のもと、HFSP研究グラント受賞経験者でもあるトーステン・ヴィーゼル博士、本庶佑博士、ジュール・ホフマン博士、アダ・ヨナス博士ら4名のノーベル賞受賞者の講演会が行われました。

トーステン・ヴィーゼル博士は「HFSP - a model program for international science(HFSP―国際科学研究のモデルプログラム)」と題した講演を行い、HFSPの理念である「生体の持つ複雑な機能の解明」を具体化するため、当日の伊藤正男HFSPO会長と「予備データは求めない」、「年齢や性別を選考基準にしない」「異分野の研究者が一堂に会する機会を設ける」といったHFSPの運営モデルを作り上げたこと、その結果、国境を越えた多くの科学者のコラボレーションを促進し、大きな成果を生むことにつながったとお話がありました。

本庶佑博士の講演では、「Serendipities of acquired immunity(獲得免疫の驚くべき幸運)」と題し、これまでの抗体遺伝子のクラススイッチ組換え機構に関わる研究や免疫制御に関わるPD-1/PD-L1についての説明がありました。会場の高校生から質問「なぜ研究者になったか」には、「自分のやりたいことができるから」と回答し、会場は盛り上がりました。

ジュール・ホフマン博士の講演では、「Innate immunity: from insects to humans(自然免疫:昆虫からヒトまで)」と題して、ショウジョウバエを用いたToll遺伝子に関する研究の紹介がありました。

アダ・ヨナス博士の「From basic science to advanced medicine(基礎科学から応用医学へ)」題した講演では、リボソームの構造解析について、クリップが正しい形状をしていないと機能しないことに例え、会場の高校生にもわかりやすく説明があり、大変有意義な講演となりました。

※1 HFSP(ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム)は、1987年のヴェネチア・サミットにおいて、中曽根康弘首相(当時)が提唱して発足したライフサイエンス分野の国際的な基礎研究支援プログラムです。2019年は、このプログラムの30周年の記念の年に当たり、日本で記念式典を開催しました。

※2 HFSPO:国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム推進機構(HFSPO) 1989年にこの事業の実施のため、フランス・ストラスブールにHFSPOが設置されました。

※3 HFSP中曽根賞(Nakasone Award):生物学にとってブレイクスルーとなる顕著な研究成果を上げた研究者を称える賞として、HFSP創設20周年を記念して制定されました。この賞は、HFSP受賞者だけではなく、あらゆる研究者を受賞候補としています。

  • 末松誠理事長
  • トーステン・ヴィーゼル博士
  • 本庶佑博士
  • ジュール・ホフマン博士
  • アダ・ヨナス博士
  • 会場の様子

講演者のプロフィール

トーステン・ヴィーゼル Torsten Wiesel

(ロックフェラー大学 名誉学長 President Emeritus, The Rockefeller University)

元HFSPO事務局長(在任期間 2000 - 2009)
1981年ノーベル生理学・医学賞 「視覚系における情報処理に関する発見」(デービッド・ヒューベルとの共同受賞)
1981 Nobel Prize in Physiology or Medicine
David H. Hubel and Torsten N. Wiesel “for their discoveries concerning information processing in the visual system”.

ノーベル賞受賞研究の概要
視覚は、ヒトの網膜上に多数存在する視細胞が光を受けることから始まります。視細胞から電気的な信号に変換された光の情報は、いくつかの神経細胞を経由して脳の後ろの方にある大脳皮質(視覚野)に送られます。その後脳内で情報処理され、私たちは視覚として認識しています。この脳での変換プロセスを1960年代にネコを使った実験から明らかにしたのがトーステン・ヴィーゼルとデービッド・ヒューベルの2人でした。彼らは、視覚野で光のコントラストや、パターン、動きなどの処理が細胞ごとに割り当てられており、脳に届いた信号はそれぞれの細胞で順番に変換されていることを見つけました。また、この能力が生まれて間もない小さいこどものうちに発達し固定されていくということも2人が発見したことです。

本庶 佑 Tasuku Honjo

(京都大学 Kyoto University)

1990年HFSP研究グラント受賞
Regulation of DNA Rearrangement and Lymphocyte Differentiation (DNA再編成の調節とリンパ球の分化)
2018年ノーベル生理学・医学賞 「免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用」(ジェームズ・P・アリソンとの共同受賞)
2018 Nobel Prize in Physiology or Medicine
James P. Allison and Tasuku Honjo “for their discovery of cancer therapy by inhibition of negative immune regulation”.

ノーベル賞受賞研究の概要
毎年何百万人もの人が亡くなるがんは、人類の最大の課題のひとつです。生物の免疫システムは、自分の体内に侵入した他者や異物を攻撃し排除する能力ですが、このシステムを自らの体内で発生したがん細胞の攻撃に使うという、これまでとは全く異なるがん治療法を確立したのが本庶佑博士とジェームズ・P・アリソン博士です。1992年、本庶博士は免疫細胞の表面に存在する不思議なタンパク質を発見、のちにこのタンパク質が免疫システムにブレーキをかける役割をもっていることがわかりました。この発見をもとにしたがん治療法は極めて有効であることが証明されています。

ジュール・ホフマン Jules A. Hoffman

(ストラスブール大学 University of Strasbourg)

1995年HFSP研究グラント受賞
“Phylogenetic Perspectives of the Innate Immune Response (自然免疫応答の系統学的展望)”
日本人共同研究者:名取 俊二 博士(東京大学、のち理化学研究所)
2011年ノーベル生理学・医学賞 「自然免疫の活性化に関する発見」(ブルース・A・ボイトラーとの共同受賞)
2011 Nobel Prize in Physiology or Medicine
Bruce A. Beutler and Jules A. Hoffmann “for their discoveries concerning the activation of innate immunity”.

ノーベル賞受賞研究の概要
私たちの身体がバクテリアやウイルス、その他の微生物の攻撃を受けると免疫システムが作動します。免疫システムには自然免疫と獲得免疫という2種類がありますが、ジュール・ホフマン博士はブルース・ボイトラー博士とともに自然免疫がどのように活性化するのかを解明することに貢献しました。体内に侵入した微生物などは、いわゆる受容体というものに検出され、自然免疫が活性化されます。1996年、さまざまな遺伝子変異を起こさせたショウジョウバエを用いた研究により、ショウジョウバエの免疫システムにとって決定的に重要なその受容体が発達するには、「Toll遺伝子」と呼ばれる遺伝子が活性化していなければならないことを発見したのがホフマン博士です。

アダ・ヨナス Ada Yonath

(ワイツマン科学研究所 Weizmann Institute of Science)

2003年HFSP研究グラント受賞
“Novel functional RNAs and drug design by a multidisciplinary theoretical/experimental approach (複合的な理論的・実験的アプローチによる新規機能性RNAと創薬)”
日本人共同研究者:田中 勲 博士(北海道大学)
2009年ノーベル化学賞 「リボソームの構造と機能の研究」(ヴェンカトラマン・ラマクリシュナン、トマス・A・スタイツとの共同受賞)
2009 Nobel Prize in Chemistry
Venkatraman Ramakrishnan, Thomas Arthur Steitz and Ada E. Yonath "for studies of the structure and function of the ribosome".

ノーベル賞受賞研究の概要
生物の機能を管理しているのはさまざまな種類の大きくて複雑なタンパク質分子です。タンパク質分子は、細胞内のリボソームという小器官で「メッセンジャーRNA(mRNA)」からの遺伝情報に基づき、アミノ酸が多数つながってできあがります。アダ・ヨナスは多くの共同研究者とともに1970年代からリボソームの立体構造をX線結晶構造解析によって解析しはじめ、2000年についに何十万もの原子からなるリボソームの構造をつきとめました。
このことは抗生物質の製造など様々な用途に応用されています。

最終更新日 令和2年3月18日