プレスリリース 骨髄異形成症候群におけるクローン進化の解明―急性白血病を起こす2ステップの遺伝子異常のパターンを発見―

平成28年12月20日プレスリリース

国立大学法人京都大学
国立大学法人東京大学医科学研究所
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

概要

急性骨髄性白血病(AML)[1]は代表的な血液がんの一つであり、血液のもとになる造血細胞のゲノム[2]に異常が生ずることによって発症するとされています。近年ゲノム異常を解析する技術が飛躍的に進歩したことに伴い、白血病細胞の詳細なゲノム解析によって、その発症に関わる遺伝子変異の全体像が明らかにされつつあります。しかしながら、白血病が診断される前にゲノム解析を行うことが通常は難しいため、白血病発症に至るまでどのゲノム異常が、どのような順番で起こるかに関しては、これまでほとんど理解されていません。

一方、骨髄異形成症候群(MDS)[3]は、高齢者に多い血液がんの一つであり数年にわたって慢性の造血障害[4]を起こしたのち、急性骨髄性白血病を発症することが知られています。いったん急性白血病を起こすと急激に進行し早期に死亡します。したがって、骨髄異形成症候群の慢性の経過中に急性白血病の兆しを検出しその発症を早く予測することは、できるだけ白血病細胞が少ないうちに白血病に対する治療を開始することにつながり、治療効果が高まることが期待されます。

説明図・1枚目(説明は本文中に記載)図1.骨髄異形成症候群から急性白血病進行への2ステップ

今回、京都大学腫瘍生物学講座 小川誠司 教授、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 宮野悟 教授、独国ミュンヘン白血病研究所 Torsten Haferlach 教授、米国クリーブランドクリニック Jaroslaw P. Maciejewski 教授を中心とする国際共同研究チームは、2,250例の骨髄異形成症候群の患者さんに対して、次世代シーケンサー[5]および理化学研究所に設置された世界有数のスーパーコンピュータ「京」[6]を用いた大規模な遺伝子解析を行い、慢性の骨髄異形成症候群から急性白血病を起こす遺伝子異常を、これまでになく詳細に明らかにしました。今回の研究の主な成果は以下の点です(図1)。

  1. 骨髄異形成症候群が急性骨髄性白血病へ進行する際に、2つのタイプのゲノム異常が細胞に蓄積し異常クローン[7]が増大する。
  2. 低リスク骨髄異形成症候群に「タイプ2ゲノム異常」が起こると白血病リスクの高い状態(高リスク)に移行し、「タイプ1ゲノム異常」が起こると急性白血病が起こる。

1.背景

急性白血病の原因は、血液のもとになる骨髄細胞におきるゲノム異常と考えられていますが、具体的にどの異常が原因になっているのか、またそれらが起こるタイミングなどはこれまで判っていません。これまでの研究では、1)解析症例数が少なかったこと、2)解析遺伝子の数が不足していたこと、3)時系列で複数回解析される例が少なかったことなどが原因で、本件に関しては十分な成果が得られていませんでした。

今回の研究では、急性白血病の前がん病変である骨髄異形成症候群と、そこから発生する二次性の急性白血病を、1)これまでになく多数例において、2)網羅的な遺伝子解析を、3)時系列で複数回行うことによって、急性白血病の原因となる遺伝子異常を明らかにしました。

2.研究手法・成果

われわれは、骨髄異形成症候群および二次性急性白血病699例において、ゲノム上の全ての遺伝子領域(およそ2万遺伝子)、あるいは60あまりの重要遺伝子を対象に次世代シーケンサーにより異常を発見し、そのうち、122例では時系列で複数の検体を採取し解析しました。さらにすでに報告されたデータベースより変異情報を入手し、合計2,250例を解析しました。

結果

  1. 一症例で平均10個の遺伝子変異が認められ、変異の数・異常クローンのサイズ・変異遺伝子の種類は、病期が進行するにつれ、経時的に増加する傾向にありました。
  2. そこで、病期進行に伴いどの遺伝子変異が起こるのかを調べたところ、高リスク骨髄異形成症候群症例から二次性白血病に進展する際に高頻度に認められるタイプ1異常(FLT3, PTPN11, WT1, IDH1, NPM1, IDH2, NRAS遺伝子変異)と、低リスクから高リスクに骨髄異形成症候群が進行する際に起こるタイプ2異常(TP53, GATA2, KRAS, RUNX1, STAG2, ASXL1, ZRSR2, TET2遺伝子変異)が判明しました(図1)。また、この解析により、非常に興味深いことに、逆に白血病進展を起こしにくい遺伝子変異も見つかりました(SF3B1遺伝子)。
  3. 時系列での解析の結果、タイプ1異常は経過中に新たに獲得されるか、もともとある異常クローンのサイズが増加する傾向が著明であることも解りました。
  4. 生存期間を解析しますと、タイプ1異常をもつ症例は最も短期間で白血病進展を起こし、早期死亡することが判りました。一方、タイプ2異常は、タイプ1異常に比較すると白血病進展までの期間は長めでしたが、タイプ1あるいはタイプ2異常のない症例に比較すると白血病進展は有意に短期間で起こることも解りました(図2)。一方、SF3B1変異陽性症例は、タイプ1、タイプ2異常を持たない場合、ほとんど白血病を発症しませんでした。
説明図・2枚目(説明は本文中に記載)図2.タイプ1とタイプ2の遺伝子異常の臨床的意義
今回の研究により、世界で初めて、2,000例以上の骨髄異形成症候群および二次性急性白血病において網羅的遺伝子解析を行い、白血病発症には遺伝子変異の蓄積が必須であることを明白に証明し、白血病進展に重要な2つのタイプの遺伝子群を明らかにしました。

3.波及効果、今後の予定

これらの遺伝子異常は、骨髄異形成症候群の低リスクから高リスク症例への進行、および二次性急性白血病進展を予測するマーカーとしてスクリーニングに用いられることが期待されます。具体的には、タイプ2の遺伝子をシーケンスし骨髄異形成症候群の高リスクへの進行を予測し、タイプ1の遺伝子を確認し急性白血病への移行を予測します。白血病進展を予測するマーカーが明らかとなれば、臨床応用により早期に白血病を発見し治療を開始し、治療効果を高められる可能性があります。そのためには、今回の後ろ向き研究の結果をもとに前向き臨床研究を行う必要があります。

4.研究プロジェクトについて

本研究は下記の支援を受けました。

  • 日本学術振興会 科学研究費補助金
  • 日本医療研究開発機構(AMED)研究費(次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)、革新的がん医療実用化研究事業、ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業)
  • 文部科学省ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題に関するアプリケーション開発・研究開発
  • US National Institutes of Health (NIH)
  • AA & MDS International Foundation
  • Scott Hamilton CARES
  • The Robert Duggan Charitable Fund
  • Edward P. Evans Foundation

論文タイトルと著者

タイトル:Dynamics of clonal evolution in myelodysplastic syndromes.
著者:Hideki Makishima, Satoru Miyano, Seishi Ogawa, et al.
掲載誌:Nature Genetics
DOI: 10.1038/ng.3742

注釈

[1]
造血幹細胞が機能障害を起こし分化に異常を来すことにより、芽球と呼ばれる未分化な細胞が腫瘍性に増殖する疾患。正常な造血が阻害され、また腫瘍性に増殖した白血病細胞が様々な臓器に浸潤することで臓器障害などの症状を引き起こす。我が国での年間発症率は10万人あたり約5人。高齢者では骨髄異形成症候群からの移行例が多い。
[2]
ある生物のもつ全ての遺伝情報、あるいはこれを保持するDNAの全塩基配列。タンパク質のアミノ酸配列をコードするコーディング(エクソン)領域とそれ以外のノンコーディング領域に大別される。
[3]
造血幹細胞が機能障害を起こし、血液細胞の減少と形態の異常を認める。産生された血球細胞は末梢血中に移行する前に細胞死を起こし、末梢血中の血球は減少する。高率に急性骨髄性白血病に移行し、前白血球病的性質を持っている。高齢者で頻度が高く、我が国での年間発症率は10万人あたり1~2人。
[4]
骨髄幹細胞の機能の障害により赤血球・白血球・血小板の3種類の血液細胞のうち、すべてあるいはいずれかが減少すること。
[5]
DNAを構成するヌクレオチドの塩基配列を決定する手法。次世代シーケンサーの登場により、大量の塩基配列を短時間で決定することが可能となり、癌における遺伝子変異の知見が飛躍的に進歩した。
[6]
科学技術計算を主要目的とする大規模コンピュータである。生物学の分野では次世代シーケンスなどの大規模データ解析に用いられている。
[7]
同一の起源(一つの細胞)由来の均一な遺伝情報を持つ、異常に増大した細胞集団。

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京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座 講師 
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最終更新日 平成28年12月20日