プレスリリース 腎集合管のもとになる組織を大量に作製することに成功

令和2年7月29日プレスリリース

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
日本医療研究開発機構(AMED)

ポイント

  • 尿管芽注1)は将来腎臓内の集合管から膀胱の一部にまでなる重要な胎生期の組織で、生体内では多数の枝分かれを繰り返して成熟していく。
  • ヒトiPS細胞から分岐構造を繰り返しつくる能力を持った尿管芽オルガノイド注2)を作る方法を見出した。
  • 尿管芽オルガノイドから先端部細胞を取り出し、増やしてから再度尿管芽オルガノイドを再生することに成功した。
  • 尿管芽オルガノイドを集合管様オルガノイドへと分化させることができた。
  • この技術を使って多嚢胞性異形成腎注3)の病気の状態を再現することに成功した。

要旨

京都大学の前 伸一特定拠点助教(CiRA増殖分化機構研究部門)および兩坂 誠研究員(CiRA同部門)、長船 健二教授(CiRA同部門)らの研究グループは、複数の分岐構造を形成する能力をもつ尿管芽組織(オルガノイド)をヒトiPS細胞から作製する方法を見出し、さらにその尿管芽オルガノイドの中の単一の細胞を増やしてから再度尿管芽オルガノイドを再生することと、その尿管芽オルガノイドを使って先天性腎疾患である多嚢胞性異形成腎のいくつかの症状を再現することに成功しました。今回開発した手法は、尿管芽が分岐を繰り返すメカニズムや集合管に分化するメカニズムの解明、先天性腎疾患の疾患モデルの作製に貢献できると期待できます。

この研究成果は2020年7月29日0時00分(日本時間)に「Cell Reports」で公開されます。

研究の背景

哺乳類の成体の腎臓(後腎)は、2つの前駆組織である後腎間葉と尿管芽の相互作用によって数百万ものネフロン注4)が形成されて出来上がります。尿管芽は先端部(tip)細胞と幹部(trunk)細胞から構成され、先端部細胞は分裂を繰り返し新しい先端部細胞と幹部細胞を作ります。幹部細胞が集合管の細胞へと分化します。尿管芽は枝分かれを繰り返して成熟することで、集合管、尿管、膀胱の一部を形作り、数百万ものネフロンから作られた尿を集めて排泄する役割を担います。

先天性腎尿路異常(CAKUT:congenital anomalies of the kidney and urinary tract)は、腎尿路の発達異常によっておこる病気の総称で、集合管のもとになる尿管芽における異常によるものも多く含まれます。CAKUTは、少なくとも500人に1人の割合で発生すると推定されており、腎臓自体が形成されないような重度のものから、尿流の逆流や停滞が起こりやすくなる程度の軽度のものもあります。多嚢胞性異形成腎(MCDK:multicystic dysplastic kidney)はCAKUTの一種で、通常は2つの腎臓のうちの一方に嚢胞が多数みられて機能しなくなり、残った腎臓が大きくなって機能を補います。

これまでCAKUTの研究を行うためには実験動物のモデルが使われてきましたが、最近ではiPS細胞から作られる腎臓のオルガノイドを使うモデルが、疾患メカニズムの解明や、新規治療法の開発のためのツールとして期待されています。こうした研究を行うためには、ヒトiPS細胞やES細胞から分岐構造をもつ尿管芽を作り、集合管へ分化させる方法の確立が重要です。CiRAの長船研究室ではこれまでにヒトiPS/ES細胞から尿管芽構造を作る方法を報告してきました(参考:CiRAニュース 2017年11月29日「ヒトiPS/ES細胞から効率よく尿管芽組織を作製することに成功」、2013年1月23日「ヒトiPS細胞を用いて腎臓の一部構造を再現 Nature Communicationsに掲載」)。しかし、枝分れを繰り返すような能力を持った尿管芽を作ることや、そのような尿管芽を継続して大量に作ることはできていませんでした。

研究結果

1.繰り返し分岐構造を作る尿管芽オルガノイドの作製

これまでに報告されていた尿管芽への分化方法を改良し、尿管芽系の細胞の分化を促すことが知られているレチノイン酸を与える期間を延長し、細胞の足場となるマトリゲルの含有量を減らすことで、内腔を持つ尿管芽オルガノイドができるようになりました。こうしてできた尿管芽オルガノイドから先端部を分離して培養すると、分岐構造が作られました(図1、図2)。

図1 尿管芽オルガノイドの先端部からの分岐構造形成
iPS細胞から作製された尿管芽オルガノイドから分離された先端部(0d)を、3日間(3d)および7日間(7d)培養した様子。先端部から多数の分岐構造が作られることがわかる。スケールバー:100mm
図2 分離後14日間培養した分岐構造を蛍光染色した様子
分岐構造の先端部分にRET陽性の先端部細胞が多く存在していることがわかる。
青:PAX2(尿管芽の細胞に分化したことを示すマーカー)
緑:RET(先端部細胞を示すマーカー)
赤:CK8(先端部細胞と幹部細胞を示すマーカー)
スケールバー:100μm

2.端部細胞の拡大培養

尿管芽オルガノイドの細胞を1つ1つの細胞までバラバラにして培養することで、ほぼすべての細胞を先端部細胞に分化させることに成功し、それらの先端部細胞がコロニーをつくることを見出しました。また、このコロニーから尿管芽オルガノイドを再生させることにも成功しました。つまり、1つの尿管芽オルガノイドから大量の尿管芽オルガノイドを作ることができるようになりました(図3)。

図3 1つの尿管芽オルガノイド由来細胞から再生された尿管芽オルガノイド(培養開始後18日目)
スケールバー:100μm

3.集合管様オルガノイドの作製

先端部細胞のコロニーから再生した尿管芽オルガノイドを集合管様オルガノイドに分化させる方法を見出しました(図4)。

図4 尿管芽オルガノイドから分化させた集合管様オルガノイド
集合管様の管状の構造が形成されていることがわかる。
白:FOXA1(幹部細胞を示すマーカー)
赤:AQP2(集合管細胞を示すマーカー)
緑:GATA3(尿管芽系の細胞を示すマーカー)
スケールバー:100μm

4.CAKUTの研究に使用する疾患モデル細胞の作製

iPS細胞にゲノム編集を行い、MCDKの原因遺伝子の1つであるHNF1β遺伝子に変異を加えると、そのiPS細胞から作った尿管芽オルガノイドは、遺伝子変異を加えていないiPS細胞から作った尿管芽オルガノイドと比較して、分岐が少なくなりました。また、他にもMCDKモデルマウスで見られるような細胞の頂底極性注5)に関する遺伝子や尿管芽系のマーカー遺伝子の発現減少を確認することができ、尿管芽オルガノイドがCAKUTの疾患モデルとして利用できる可能性を示しました(図5)。

図5 MCDK疾患モデルの作製
WT:正常なiPS細胞由来の尿管芽オルガノイド
HNF1β+/-:ゲノム編集でHNF1β遺伝子に変異を加えたiPS細胞由来の尿管芽オルガノイド
スケールバー:100μm

まとめ

これらの結果から、ヒトiPS細胞から分岐構造形成を繰り返す尿管芽オルガノイドを大量につくることができるようになりました。またこの尿管芽オルガノイドがCAKUTなどの疾患のモデル作製に使用できることも示しました。それらを応用し、疾患の状態を再現する尿管芽オルガノイドを大量に作製することができれば、治療薬の探索を行う研究に発展させることが可能となると予想されます。また現状では、尿管芽オルガノイドから分化した集合管は胎生期のものですが、更に分化条件を最適化することで、腎臓が出来上がってくる過程や多くの先天性腎疾患の理解に役立つと期待されます。

論文名と著者

論文名
“Expansion of human iPSC-derived ureteric bud organoids with repeated branching potential”
ジャーナル名
Cell Reports
著者
Shin-Ichi Mae1*, Makoto Ryosaka1*, Satoko Sakamoto2, Kyoko Matsuse1, Aya Nozaki1, Maiko Igami1, Ryotaro Kabai2, Akira Watanabe2 & Kenji Osafune1** *筆頭著者 **責任著者
著者の所属機関
1.京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
2.京都大学大学院医学研究科 メディカルイノベーションセンター

本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  • 大塚製薬株式会社
  • 日本学術振興会  科研費(18H02826、17K15546)
  • iPSアカデミアジャパン株式会社(iPSアカデミアジャパン研究助成  2018年度)
  • AMED再生医療実現拠点ネットワークプログラム
    技術開発個別課題、iPS細胞研究中核拠点、疾患特異的iPS細胞の利活用促進・難病研究加速プログラム
  • AMED難治性疾患実用化研究事業

用語説明

注1)尿管芽
胎生期の腎臓前駆組織の一つで、生体内では多数の枝分かれを繰り返して成熟し、将来尿の排泄路である集合管、下部尿路系などに分化する。
注2)オルガノイド
3次元的に試験管内で作られた小さな臓器のこと。
注3)多嚢胞性異形成腎(multicystic dysplastic kidney:MCDK)
腎臓に多数の嚢胞(液体が貯留した袋状の構造物)が形成される先天性疾患。後腎間葉や尿管芽の分化の異常によって引き起こされる。基本的に腎臓として機能しない状態。出生4,300例に1例程度の頻度でおこり、先天性腎尿路異常の中では頻度が高い。
注4)ネフロン
腎臓の基本的な単位。ヒトの場合、左右の腎臓合わせて約200万個のネフロンから成る。血液をろ過する糸球体と、尿の成分調節を行う尿細管を合わせた構造の名称。
注5頂底極性
細胞内の成分は均一に分布しているのではなく、偏り(極性)を持っている。そうした極性の中でも、体表面や管の内側を覆う細胞で見られる、表面側の頂側膜(apical)側と基底膜(basal)側とに分かれるような極性のこと。極性がなくなるとうまく管が作れず、多数の尿細管などが集まってできている腎臓はうまく形成されない。

お問い合わせ先

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
国際広報室 和田濵 裕之
TEL:075-366-7005 FAX:075-366-7185
Email:media”AT”cira.kyoto-u.ac.jp

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
再生・細胞医療・遺伝子治療事業部 再生医療研究開発課
〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目7番1号
TEL:03-6870-2220 FAX:03-6870-2242
E-mail:saiseinw”AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

最終更新日 令和2年7月29日