2017年度 研究事業成果集 医療研究開発の成果を一刻も早く患者さんに届けるために
研究開発成果の最大化に向けたマネジメントの実現
AMED全体の取り組み
国際レビューアによる課題評価、10段階共通評価システムなどを導入
AMEDは、医療研究開発から創出される成果をより大きなものとし、患者さんやその家族に迅速に届けることを目指し、設立以来、研究の質の向上や研究に集中していただける環境づくりに取り組んできました。2018年度も引き続きAMEDの研究開発のマネジメントについてさまざまな取り組みを開始しました。
AMEDのミッションと3つの戦略
AMEDは2015年度の設立以来、「医療研究開発の成果を一刻も早く実用化し、患者さんやそのご家族のもとにお届けする」ことを使命としてさまざまな取り組みを進めてきました。
医療研究開発のスピードを加速するため、予算を一元化し、重点的・戦略的に配分、基礎から実用化まで切れ目なくつなぎ、成果をより大きいものとすることを目指しています。
設立以来、より良い医療研究開発の仕組みを作るために力を入れていることが3つあります。
- ①各研究者が持つ研究データのシェアリングの仕組みづくり
- ②次世代を担う人材育成の推進
- ③医療研究開発推進のための横断的機能連携の基盤づくり
この成果集で紹介している研究開発課題の優れた成果を生み出す基盤としての、これら3つの戦略について主な取組を紹介します。
研究データシェアリングの仕組みづくり
●未診断疾患イニシアチブ(IRUD)
国内430以上の協力病院の連携のもと、診断がつかない日本全国の患者さん約3400家系を登録し、遺伝子解析とマッチング作業を行い、800人以上の患者さんに登録後半年以内に診断を返すことができました(2018年4月現在)。この中には希少難病で、外国の患者さんとのマッチングが成立したケース6件も含まれています。
また、IRUDはグローバルデータシェアリングを加速するため、未診断疾患に関する国際的な症例比較プラットフォームであるMatchmaker Exchange(MME)に2017年12月付で正式に参加しました。
●産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業(SCRUM-Japan)
国立がん研究センター東病院を中心に取り組むSCRUM-Japanは、全国250施設と製薬企業16社との共同研究で、肺・消化器がんを対象に、腫瘍組織の遺伝子解析結果に基づいて希少なドライバー遺伝子異常等に適合した開発治験などへの登録を促し、新薬の活性化に貢献しています。
●院内感染対策サーベイランス(JANIS)の強化・海外展開
院内感染対策サーベイランス(JANIS)は、我が国の院内感染の概況を把握し医療現場への院内感染対策に有用な情報の還元などを行うことを目的に2000年から国が実施するデータベースで、現在2150の医療機関が参加しています。AMEDでは、日本の実態を正確に把握し、海外とも比較できるシステムを構築するために、既存のJANISを強化し、国内外から求められる薬剤耐性に関する情報の集計手法開発を推進。またWHOが推進する世界標準の薬剤耐性に係るグローバルサーベイランスに準拠した集計システムの研究開発を支援しています。
●臨床ゲノム情報統合データベース MGeNDの整備と公開
疾患名・年齢・性別などの臨床データと遺伝子変異データを統合的に扱う国内の複数の疾患領域にまたがる医療機関から、臨床・遺伝子変異データを収集、日本人の特徴を反映したオープンアクセスのデータベース「MGeND」を整備し、2018年3月に公開しました。
●データサイエンティストの育成
データ管理・解析を推進していく上で、データサイエンティストの確保は必須です。AMEDは後述する「データマネジメントプラン」に、データサイエンティストの記載を必須とすることでデータサイエンティストの育成を支援しています。
次世代を担う人材育成の推進
AMEDは、若手研究者・女性研究者が能力を最大限発揮できるよう、さまざまな支援の取り組みを行っています。
- 若手研究者が代表者となる課題の公募などを支援。若手育成枠の課題数は、2017年度には設立年度から3.1倍に増加しました。
- 次世代を担う日本の若手研究者が世界各国の若手研究者とチームを組み、メンターの指導の下、国際的かつ学際的な視点から医療分野における革新的新規シーズを創生する「Interstellar Initiative」を2017年に試行開始し、2018年度より新規事業化しました。
Photo courtesy of the New York Academy of Sciences. Photographer: Matt Carr
- がん研究課では、第3回目となる「がん若手ワークショップ」を開催。 2017年度はバイオデザインセミナーを開催しました。ファシリテーターの指導のもと17人の若手研究者がグループワークを行いました。
- 感染症研究課では、感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)の若手研究者8人が英国オックスフォード大学などを訪問。英国の感染症研究者とのワークショップでディスカッションを行い、具体的テーマを定めて国際共同研究を開始しました。
- 若手科学者の国境を越えた研究活動を支援する「ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)*1」の日本からの運営支援を2016年度からAMEDが文部科学省および経済産業省と共に実施しています。
医療研究開発推進のための横断的機能連携の基盤づくり
●国際レビューアによる課題評価の導入
課題評価の質の向上を目指し、2018年から国際レビューア(AMEDレビューア*2)による課題評価の導入を、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」や「革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)」などの新規領域の一部の事業で開始しました。評価プロセスを一部英語化し、海外の研究機関に所属する研究者が事前査読の過程で参加します。今後段階的に増やしていきます。
●10段階共通評価システムによる課題評価を実施
課題評価においては、これまで各事業で異なっていた評価手法の共通化を図り、2016年度に10段階の共通評価システムを導入、 2017年度から各事業で実施しました。(図1参照)
総合評価に10点の共通スケール導入→評価手法の共通化、AMSに蓄積し俯瞰と分析
●医薬品における研究マネジメントチェック項目の作成・運用開始
医薬品の研究開発に関し、個別の課題の進捗評価を重要なステージゲートにおいて、より適切に行えるよう研究開発マネジメントチェック項目を作成し、2018年度に開始する課題から運用を開始しました。2019年度以降、再生医療や医療機器でも同様の取り組みを開始する予定です。(図2参照)
■ 医薬品開発の研究マネジメントチェック項目(図2)
●データマネジメントプラン提出の義務化
研究データの統合的活用に向けた土台づくりとして、「データマネジメントプラン」の提出を義務づけました。
●AMED研究開発課題データベース(AMEDfind)の公開
AMEDが推進する研究開発課題の情報を検索・閲覧できる「AMED研究開発課題データベース(AMEDfind)」の開発を進め、2018年6月から公開しました。
■ AMEDfindのトップ画面
●AMEDの医療研究開発に関する窓口の開設
「AMEDのどの事業に応募すればよいか分からない」という研究者の声に応えるため、事業・部署間を横断する総合的な質問を受ける窓口として「AMED Research Compass(AReC)」を開設しました。
●研究費の機能的運用の充実
AMEDでは研究機関の事務負担軽減のため、機器、旅費・消耗品の合算購入や、年度をまたいだ物品の調達・共同使用を可能にするなど、研究費の機能的運用を推進しています。2018年度は、事前に申請が必要だった「機構委託費人件費対象者」を申請不要とし、予算内の人件費の分配を各研究機関の裁量で行えるようにしました。
- *1 ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP):
- 1987年に創設された、ライフサイエンス分野における革新的な国際共同研究を推進する国際プロジェクト
- *2 AMEDレビューア:
- 国外の施設に在籍する外国人または日本人専門家で、世界水準の研究を理解し、海外FAの課題評価を実施している方
- *3 研究開発タグ:
- 研究の性格や対象疾患など、AMEDが特定の視点から俯瞰(ふかん)や抽出することを目的に、各研究開発課題に付加しているもの
- *4 HTS:
- 膨大な種類の化合物から構成される化合物ライブラリーの中から、自動化されたロボット等を用いて、創薬ターゲットに大して活性を持つ化合物を選別する技術
関連リンク
最終更新日 平成30年11月15日