2017年度 研究事業成果集 医療研究開発におけるデータシェアリングの重要性

医療研究開発におけるデータシェアリングの重要性

基盤研究事業部 バイオバンク課/臨床研究・治験基盤事業部 臨床研究課/戦略推進部 難病研究課

ゲノム情報を用いた個別化医療の早期実現に向けて研究を加速

研究で得られた正確な臨床・検診情報が付加されたゲノム情報等を共有・利活用(データシェアリング)することは、ゲノム個別化医療推進のために重要で、研究成果を一刻も早く患者さんに届けることにつながります。AMEDは2016年度にデータシェアリングポリシーを定め、一部の事業でデータシェアリングを原則として義務付けています。ここでは、データシェアリングにより研究開発を強力に推進する最先端の取り組みを2つご紹介します。

取り組みと成果

産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業(SCRUM-Japan)

[SCRUM-Japanの取り組み]

国立がん研究センター東病院の大津敦院長が代表を務める「産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業(SCRUM-Japan)」は、全国約260の医療機関と17社の製薬企業が参画し、アカデミアと臨床現場、産業界が一体となって、がん患者さんそれぞれの遺伝子異常に合った治療薬や診断薬の開発を目指す取り組みです。

■SCRUM-Japanが治療薬や診断薬の開発に寄与

希少な肺がん(LC-SCRUM-Japan)、消化器がん(GI-SCREEN-Japan)の遺伝子解析を医療機関と患者さんの協力のもと大規模に行い、2015年2月から2018年5月末時点まで9590症例(肺4309、消化器5281例)がデータベースに登録されました。

解析データは共同研究契約をした製薬企業にも提供、治療薬や診断薬の開発に役立てられています。2018年5月末で42の治験(企業治験30、医師主導治験12)への参加者の登録に活用され(17試験は登録終了)、さらに有効性が証明された2剤が製造販売承認を受け、1剤が承認申請準備中という大きな成果を挙げています。

SCRUM-Japan登録例での遺伝子解析結果では、日本人の大規模な分子疫学データとしてデータベース化され、参加製薬企業やセキュリティの確保された81の医療機関に共有、2017年6月から2018年2月の間に9667件のアクセスがあり、385件ダウンロードされました。新薬の非臨床・臨床開発のさまざまな段階で活用され、がん研究成果の加速や成果の最大化に役立てられています。

未診断疾患イニシアチブ(IRUD)

[未診断疾患イニシアチブ(IRUD)の取り組み]

希少難病は7000疾患以上ある一方、それぞれの疾患の患者数は10万人に1人などと大変少ないため、同じ症状の患者さんが見つかりづらいという問題があります。そこでAMEDが主導するIRUDでは、患者さんの症状を整理番号(標準化臨床情報)に置き換えてデータベース(IRUD Exchange)に登録することを義務付け、全国の拠点病院、協力病院と共有する仕組みを構築しました。IRUDは既存の難病の診断が難しく、長い間未診断状態に置かれていた多くの患者さんの福音になるとともに、疾患そのものの記載やメカニズムが不明とされる疾患の発見にもつながる、大きな成果を上げました。IRUDによって発見された新規疾患のうち6件は外国の患者さんとの間での症例マッチングによるものであり、データシェアリングは国境を越えて成果を上げつつあります。

さらにAMEDは、国際的な未診断疾患患者の症例共有を図るためのコンソーシアムであるマッチメーカー・エクスチェンジ(MME)に2017年12月に加盟しました。MMEへの参加によりアジア人の未診断疾患の症例のデータシェアリングが国際的に行われ、患者さんの診断の確定にさらに貢献することを期待しています。

■ IRUD Exchangeのセキュリティ

展望

SCRUM-Japanの取り組みでは、遺伝子解析結果に基づいて一人ひとりのがん患者さんに適切な診断・治療薬を早期に届けるための研究が一層加速し、がんの個別化医療が進展することが期待されます。今後は海外のデータを統合することも展望されています。一方、IRUDはこれまでの約3年間で14以上の新しい疾患を発見しましたが、MMEに参加し国際的なデータシェアリングが行われることで、診断はもちろん、疾患の原因解明などに関する新たな成果が得られることが期待されます。

最終更新日 平成30年11月15日