2017年度 研究事業成果集 多発性骨髄腫に対する「CAR-T細胞療法」

がん免疫療法「CAR-T細胞療法」を用いた多発性骨髄腫に対する新たな治療法を開発

戦略推進部 がん研究課

がん治療第4の柱-がん免疫療法による治療を目指し医師主導治験へ

大阪大学の保仙直毅准教授を中心とする研究グループは、 血液のがんの一つである多発性骨髄腫に対して、 免疫力を高めて治療する技術「CAR-T細胞療法」を活用した治療法を開発しました。骨髄腫細胞の表面に活性型構造のインテグリンβ7というタンパク質が特異的に高発現していることを発見、この活性型インテグリンβ7を目印として骨髄腫細胞を攻撃するCAR-T細胞を作製しました。現在、AMEDの支援により医師主導治験を準備中です。

■CAR-T細胞療法の概要

取り組み

血液がんの一つである多発性骨髄腫は、血液細胞中の形質細胞*1ががん化することで発症します。日本での患者数は約1万8000人といわれ、プロテアソーム阻害剤や免疫調整薬を用いた薬物療法が行われますが、再発を繰り返すなど治癒が難しい病気です。

大阪大学大学院の保仙直毅准教授らは、多発性骨髄腫のがん細胞(骨髄腫細胞)の目印となる活性型インテグリンβ7というタンパク質を突き止め、この活性型インテグリンβ7ががんの新しい治療法として注目されている「CAR-T細胞療法」の標的となりうることを見いだしました。

■ 活性化した状態のインテグリンβ7を標的としたCAR-T細胞療法

「CAR-T細胞療法」は、患者さんの免疫細胞の一種であるT細胞を取り出し、がんを攻撃する能力を高めるように遺伝子操作して体内に戻すがん免疫療法の一つで、海外では、急性リンパ性白血病で実用化され、劇的な効果を挙げています。

成果

多発性骨髄腫でCAR-T細胞療法を実施するためには、そのがん細胞に対してだけ発現する抗原(タンパク質)を見つける必要があります。そこで、大阪大学の研究グループは、正常血液細胞には結合せず骨髄腫細胞にのみ結合するMMG49という抗体を探し出し、抗体が結合するタンパク質がインテグリンβ7であることを明らかにしました。興味深いことに、インテグリンβ7は正常リンパ球表面にも存在し、細胞外の基質や他の細胞との接着役を果たしているはずであるのに、MMG49は正常な血液細胞のインテグリンβ7には結合しませんでした。そこで、さらに詳しく解析を行ったところ、活性化した形のインテグリンβ7だけがMMG49に結合すること、そして骨髄腫細胞では常にインテグリンβ7が活性化しているということが分かりました。そこで、MMG49を元に骨髄腫細胞のみを認識するCAR-T細胞を作製しました。作製したCAR-T細胞を用いたマウスの実験で、正常細胞を傷つけることなく、骨髄腫細胞のみを攻撃することが証明され、高い抗腫瘍効果が認められました。

展望

この研究成果は多発性骨髄腫に対する有望な新規免疫療法として期待されており、AMEDの支援により医師主導治験の準備を進めています。

また、この研究により、がん特異的に発現するタンパク質でなくても、立体構造ががん特異的であれば免疫療法のターゲットとなることが分かったことから、他のがん種に対しても同様の治療標的を同定する研究が発展していくものと考えられます。

*形質細胞:
血液細胞の一つで、特定の抗体を大量に作り出す細胞

最終更新日 平成30年11月15日