2017年度 研究事業成果集 iPS細胞の創薬応用で臨床試験を世界に先駆けて開始

iPS細胞の創薬応用で臨床試験を世界に先駆けて開始

戦略推進部 再生医療研究課/創薬戦略部 医薬品研究課

疾患特異的iPS細胞を活用し、筋骨格系難病FOPの骨化抑制法解明

京都大学 ウイルス・再生医科学研究所/iPS細胞研究所の戸口田淳也教授らのグループは、進行性骨化性線維異形成症(FOP)という希少難病に対して、iPS細胞を活用した創薬研究として世界に先駆けて医師主導治験を2017年9月から開始しました。現在、4つの医療機関で20例を目標に臨床試験が実施されており、早期の薬事承認を目指しています。

■iPS細胞を活用した創薬

背景

iPS細胞の医療への応用には、細胞移植による再生医療と並んで、患者さん自身の細胞から作成するiPS細胞を用いての病態解明および創薬への応用が大きな柱として注目されています。

FOPは筋肉や腱、靭帯などの軟部組織の中に「異所性骨」と呼ばれる骨組織ができてしまう病気で、200万人に1人程度、国内の患者さんは約80人といわれている希少難病の一つです。子供の頃に発症し、手術をすると手術自体が刺激となって骨の形成を促進してしまうため治療が困難とされ、最終的に死に至る可能性のある病気です。

すでにこの疾患の原因が、骨を形作るBMPという因子の受容体のアミノ酸置換変異であることは判明していましたが、その変異受容体がどのようにして骨を形成するシグナルを伝えるのかは分かっておらず、有効な治療法がない状態が続いていました。

取り組みと成果

京都大学 ウイルス・再生医科学研究所/iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)の戸口田淳也教授を中心とするグループは、大日本住友製薬株式会社との共同研究によって、まずFOPの患者さんから提供を受けた細胞を用いてこの病気の情報を持つiPS細胞を作り、培養皿の中で病気を再現することに成功しました。骨化が進む環境でiPS細胞を培養すると、FOP患者さんの細胞から作ったiPS細胞はより骨化が進行する性質を持つことが分かりました。次にFOPはACVR1という遺伝子の突然変異によって引き起こされることが分かっていますが、そこに「アクチビンA」という物質の刺激が加わると異所性骨を形成する引き金となることを突き止めました。また、FOPにおいてどのようにして異所性骨が形成されるのかを調べ、そのメカニズムも明らかにしました。さらに、有効な薬剤を見つけるために、FOPを再現したiPS細胞の培養皿に、約7000種類の薬の候補となる物質を加えて試したところ、現在、免疫抑制剤などに用いられている既存薬「シロリムス」がアクチビンAの働きを阻害し、骨化を抑える薬として有効である可能性が分かりました。この研究結果を基に、京都大学などで「シロリムス」の多施設共同医師主導治験が2017年9月から開始されました。

■既存薬「シロリムス」が治療薬として有力に(マウスでの異所性骨形成の様子)

展望

iPS細胞を創薬に応用し、人に投与する治験に至った初めての研究です。iPS細胞が開発されてから10年余りが経過し、創薬応用の分野でも大きく一歩を踏み出しました。患者さん自身の細胞から病気の情報を持つiPS細胞を作り、培養皿の中で新薬の候補となる成分を作用させることで、迅速かつ効果的に有効な候補を絞り込むことができます。

最終更新日 平成30年11月15日