2017年度 研究事業成果集 感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)

ジカウイルス感染と小頭症との関連性を東南アジアで初めて確認

戦略推進部 感染症研究課

長崎大学がベトナムでジカウイルス感染と小頭症の関連を論文報告

長崎大学の長谷部太教授の研究グループは、感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)のベトナム拠点において、WHO、ベトナム国立衛生疫学研究所(NIHE)との協力の下、ベトナムでのジカ熱疑いのある症例を調査し、東南アジアで初めてのジカウイルスへの感染であることを突き止めました。さらに東南アジアにおけるジカウイルスと小頭症の関連性を血清診断で明らかにしました。

■ 現地での感染調査

取り組みと成果

AMEDの感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)は、感染症が流行するアジア・アフリカに日本の大学等の研究拠点を置き、日本人研究者が常駐して現地の研究機関と共に感染症の解明や制御を目指した研究を進めています。

ジカ熱の原因となるジカウイルスは、デング熱の原因であるデングウイルスと同じフラビウイルス科に属し、両ウイルスは、ネッタイシマカなどの同じヤブカ類によって媒介されます。ジカ熱は2015年にはブラジルやコロンビアを含む南米大陸で大流行し、ジカ熱に感染した妊婦から小頭症児が多数産まれ、WHOが緊急事態を宣言しました(2016年11月に解除)。

2016年3月にベトナム南部のホーチミン市とニャチャン市でジカ熱の疑いのある症例が見つかりました。NIHEとJ-GRIDベトナム研究拠点の長谷部太教授らのグループで検体中のウイルス遺伝子を解析したところ、ジカウイルス遺伝子が検出され、ベトナム初のジカウイルス感染例であることが確認されました。ジカ熱はベトナムで毎年流行を繰り返しているデング熱と症状が似ており、また、起因ウイルスが非常に近縁のため通常の血清診断法では鑑別することが困難です。そこで、長崎大学熱帯医学研究所のMoi Meng Ling(モイ・メンリン)准教授のグループはWHO、およびNIHEとの協力の下、2016年8月にデング熱とジカ熱を鑑別診断できる、ジカウイルス特異的IgM酵素標識免疫測定法とプラーク減数中和試験の研修を、ベトナム国内の主要な感染症診断施設のスタッフを対象に実施しました。その2カ月後にダクラク省Krong Buk地区で小頭症患児が見つかり、患児の血清を分析したところジカウイルスに感染していたことが確認されました。11月には家族の聞き取り調査や周辺住民からも採血を行い、血清疫学調査を開始。小頭症患児の母親は妊娠中期にデング熱様症状を発症しており、同居家族全員がジカウイルスに感染していたことが確認されました。なお同症例は、診断データを添えて英国医学誌「The Lancet Infectious Diseases」に2017年に報告されました。

■ベトナム初のジカウイルス感染による小頭症例の報告(2016年10月)

■小頭症児の家族全員がジカウイルス感染していた

展望

今回感染が確認されたベトナムダクラク省の同地区以外でもジカウイルスへの感染や流行が発生しているのかどうか、さらに範囲を広げて調査を続けています。J-GRIDは、さまざまな感染症の我が国への侵入リスクや疾患の重篤度などを考慮し、研究の必要性が高い感染症について、現地と協力して対応していきます。

最終更新日 平成30年11月15日