AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:パネルディスカッション「AMEDに期待すること」(1)

「AMEDに期待すること」

モデレータ
泉 陽子(AMED 統括役)
パネリスト
畑中 好彦氏(日本製薬工業協会会長)
昌子 久仁子氏(テルモ株式会社取締役顧問)
小林 信秋氏(認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク会長)
東嶋 和子氏(科学ジャーナリスト)

 ここからは4人の有識者の方々とともに、「AMEDに期待すること」というタイトルで、議論を行ってまいります。私は、本セッションの進行役を務めます、AMED統括役の泉陽子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

AMEDは、設立以来、「1分1秒でも早く、患者さんや国民の方々に必要な医療を届ける」というミッションを掲げ、研究を支援してまいりました。このためにさまざまな改革や新しい取り組みを行ってきたところです。

このセッションでは、AMEDの2年間をさまざまな立場から見守ってくださいました4人の方々とこれからのAMEDのあり方について考えてまいります。 それでは、パネリストの方々に、それぞれお一人15分程度ご講演をいただき、その後ご講演を踏まえて、幾つかのポイントについて、議論を進めていきたいと考えております。 それでは、まず畑中様にご講演をお願いいたします。

産学官連携の大きな取り組み

写真(畑中 好彦氏)
説明図・1枚目(説明は本文中に記載)
図1 AMEDへの期待
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

畑中 好彦氏(日本製薬工業協会会長)

近年、製薬産業を取り巻く環境は、急速に変化しています。高齢化の進展など医療環境の大きな変化に伴い、世界的に医療費をコントロールする動きがあり、製薬産業の収益性は低下しています。また、新しい薬の開発はますます難しくなっています。

創薬環境の変化に対して私どもは、一企業単独での自己完結型創薬サイクルではもう限界だと認識しており、外部に活路を見いだすオープンイノベーションへ、舵を大きく切っています。

例えば製薬協の会員会社による共有化合物ライブラリーのコンソーシアム(J-CLIC)を立ち上げたり、製薬企業間の化合物相互利用並びに企業の化合物の大学への提供を行うオープンソース型の取り組みを行ったりしています。

一方で、国のイノベーション促進の動きも活発化し、AMEDによる産学官の連携のための大きな取り組みが開始されていますが、ここでは代表的な2つの例をご紹介します。

まず一つ目は、「産学共同スクリーニングコンソーシアム(DISC)」です。AMEDが目利きをしたアカデミア発の創薬シーズに対して、製薬企業22社が提供した合計20万の化合物を使ったハイスループットスクリーニングが実施されます。その結果をもとに、企業が導出の判断を行うことを可能とする取り組みです。このプロジェクトにより、アカデミアの優れた研究成果が企業へ橋渡しされる仕組みが構築されました。

私ども企業側から見たDISCの魅力は、①ハイスループットスクリーニングの機会が拡大されるため、自社化合物の新たな作用を特定できること、②他社ライブラリーのヒットの状況によって自社ライブラリーの質の把握ができること、③AMEDのよく練られた導出スキームにより企業側が十分な情報に基づいた導入判断ができること、が挙げられます。

もう一つは「GAPFREE」です。この取り組みによって、アカデミアが持つ有益な臨床情報に企業がアクセスできる仕組みが構築されました。企業から見たGAPFREEの魅力は、①AMEDにアカデミアと企業のマッチング支援をしてもらえること、②AMEDと参画企業が共同で研究費を拠出し研究規模を確保できること、③複数の企業が同一疾患で産産連携をすることも可能であること、などが挙げられます。

その他の取り組みとして、生物統計家の人材不足に対応し、製薬企業からの寄附金と国の研究資金を合わせて、AMEDで生物統計家育成支援事業を実施中です。

創薬現場で重要と認識している今後の課題としては、創薬標的の複雑化への対応、創薬シーズに求められるプロファイルの高度化・多様化への対応があります。また、AMEDのバックアップが必要な課題としては、①疾患レジストリの整備、②種々の医療データを企業が利用できる仕組み、③高品質で管理されたヒト生体試料の産業利用の3点が挙げられます。

これらの課題を踏まえたAMEDに対する期待の一点目は「AMEDの規模拡大」です。予算の拡充、企業ニーズに合致した新規AMED事業の継続的なインプットなどを期待します。

二点目は「ヒトPOCの早期取得に向けた研究推進体制の強化」です。3独法が保有する設備、技術の活用や、ARO機能を有するアカデミアとの連携などを期待しています。

三点目は「網羅的なアカデミアシーズ情報集約と利活用」です。情報収集対象を全国の大学に拡大、より多くのアカデミアに創薬研究をしていただくよう、AMEDからアカデミアへのプロモーションを期待しています。

 それでは次に、テルモ株式会社取締役顧問の昌子久仁子様にご講演をお願いいたします。

医療機器業界の大きな課題

写真(昌子 久仁子氏)
説明図・2枚目(説明は本文中に記載)
図2 医療機器業界の会社規模
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昌子 久仁子氏(テルモ株式会社取締役顧問)

これから医療機器業界が取り組むべき大きな課題は、平均寿命と健康寿命の差をいかに縮めるかというところだと思います。

これは医療機器業界のグローバルな企業の売り上げ規模を示したものです。日本企業ではオリンパスさんが11位、私どもテルモが12位ですが、それを示したいのではありません。10位以内はアメリカの企業が圧倒的で、トップの会社の売り上げ規模は私どもの5倍から6倍もある巨大企業だということをお伝えしたいのです。世界に伍して我々が戦っていくために何が必要なのか、メガ企業の開発力やパワーにどうやって我々が対抗し、日本発の医療機器をつくって、世界に提供していくのかということが、今、まさに問われていると思います。

トップ企業との規模や開発力のギャップを埋めていくためにも、AMEDのオールジャパン体制、基礎から臨床までの一体開発支援、研究支援と研究環境の整備の一体整備が、我々の研究開発をエンカレッジし、大きな一歩を進ませてくれるものと理解しています。

「AMEDに期待すること」としては、大きく3つ挙げたいと思います。

まず一つ目、企業の努力だけでは開発が進まない希少難治性疾患への開発支援及び未診断疾患イニシアチブ(IRUD)への取り組みをさらに進めていただくことです。成果が少しずつ出ていると聞いていますけれども、さらに一つでも多くの未診断疾患の診断が確定し、治療に向けた取り組みを企業ともに進めていただくことを期待します。

二つ目は、AMEDが開設した海外事務所を海外の公的機関や海外の企業と連携ができる足がかりにして、世界の技術を日本で展開する支援をしていただくことです。さらにイノベーションの源泉といわれるイスラエルとか米国カリフォルニアなどの地域に、シーズ探しのための拠点を設置していただければと思います。日本初の技術の育成はもちろん大切ですけれども、いわゆるイノベーション先進国の技術が日本でうまく展開することによって、アンメットメディカルニーズを満たすシーズをいち早く探せる可能性もあると思います。

また、日本だけではなく世界の技術へファンディングをして、いち早く世界の技術を日本に取り込んで展開する。日本で得られた成果を世界へどんどん広げていく、このような取り組みができると日本での開発の促進が図られていくのではないかと思います。

三つ目です。現在、AMEDは「CiCLE」という、イノベーティブな製品の開発に前づけでファンディングをする事業を立ち上げています。この仕組みを使って新しい技術が芽生えることを期待しています。さらに一歩進めて開発した製品が成功した場合に、何らかのインセンティブを与えるようなスキームも考えていただければと思います。CiCLEのような事業を作っていただいたことによって、新しいもの、イノベーティブなもの、皆様のお役に立てるものをAMEDとともに開発を進めることができると思います。

 それでは次に、認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク会長の小林信秋様、お願いいたします。

小児の難病で期待すること

写真(小林 信秋氏)
説明図・3枚目(説明は本文中に記載)
図3 小児の難病の特徴
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小林 信秋氏(認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク会長)

こんにちは。「難病のこども支援全国ネットワーク」は、難病の子供たちと家族をサポートする活動をしています。今から29年前に、難病の子供の親と治療に当たっている心ある医師たちが集まって、活動を始めました。相談を受けたり、キャンプを開いて交流活動したり、難病の子供を持つ親の会が60団体参加して、互いに連携しています。

スライドに子供の難病の特徴を6つ書きました。①患者数が少ないために、診断が遅れたり、治療法の周知が不十分だったりします。同じ病気の患者や家族と会うこともできず、抱えている問題を医療や福祉、社会に伝える力も弱いです。また、②患者は子供ですから成長発達します。さまざまな年齢に応じた患者の成長発達を支える保育、教育、医療などの仕組みが必要ですが、日本はとても遅れていると感じます。③親たちは病気の子どもにかかりっきりとなりますが、多くの場合には幼い兄弟がいて、その配慮が重要です。④親が若いために経済的な負担が大きいのも問題です。医療費だけではなく、遠方の病院を受診する場合、宿泊費や交通費などもかかります。⑤先天的な疾患が多く、誤解や偏見によって傷つく患者や家族が少なくありません。例えば学校にその子が入学すると、クラス全体の勉強が遅れると指摘されたりします。入院していた子が在宅に変わると、近所の人から病気が移るのではないかと言われたりします。⑥たくさんのさまざまな困難を若い両親の家族だけで乗り越えるのは大変難しいです。
このために、私たちのような支援団体や患者家族会が、いろいろな活動をしています。国や地方自治体などの行政や研究者の皆さん、親の会や民間組織や社会の人々、さまざまな助けが必要です。

今、医療がどんどん進歩して、以前なら助からなかった子供たちが助かるようになっています。けれども医療の進歩に教育も社会も福祉もついていけていません。命を取り留めて、長い入院生活から家庭に帰ってきたのに、学校が子供さんを受け入れない、保育園が受け入れないという報告をたくさん耳にします。是非患者家族の思いをご理解いただき、立場の違いを越えて連携させていただきたいと思っています。

AMEDに期待することということで、幾つか挙げさせていただきました。①個々の患者さんたちが望んでいる多種多様な願いを研究開発に取り込んでほしい、②患者数が少ない希少難病への取り組みも一定の割合で進めてほしい、③患者は病気とともに暮らしていますので、研究開発には生活者の視点を忘れないでほしい、④新しい治療薬、新しい医療機器・補装具などを一刻も早く患者に届けてほしい、⑤際限のない高額な医薬品などのコストダウンにも取り組んでほしい、⑥既存薬の効能拡大も積極的に進めてほしい。最後に、⑦研究者と患者たちの架け橋になる役目も期待をしたいと思っております。

ご清聴どうもありがとうございました。

 それでは最後に、科学ジャーナリストの東嶋和子様、お願いいたします。

「伝える、見せる、つなぐ」

写真(東嶋 和子氏)
説明図・4枚目(説明は本文中に記載)
図4 リスク削減対策の効率を比べる
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東嶋 和子氏(科学ジャーナリスト)

私は以前新聞記者をしており、現在はフリーランスでサイエンス分野の取材、執筆をしています。私がAMEDに期待する点を3つお話させていただきます。一点目は、伝えるということ、二点目は、見せるということ、三点目は、つなぐということです。

まず、第一の「伝える」について。末松理事長は医療分野の研究成果を一刻も早く実用化し、患者やその家族に届けることがAMEDの使命であるとおっしゃっています。この強い意志を、資金配分、優先順位づけ、研究の評価を通じて、繰り返し国民、医療者、研究者、政策決定者に伝えていただきたいと思います。医療者、研究者、企業の要望は必ずしも国民や患者さんや御家族の要望とは一致しません。患者さん御家族の声にも意識的に、積極的に耳を傾けて、大切にすべきものがぶれないようにしていただきたいです。また世論やマスコミが追いがちな目新しいその場の流行に惑わされず、正当なリスク認知と適切な対策を貫いていっていただきたいと思います。

第二は「見せる」。どの分野の、どんな疾患、どんな研究に、どの程度の資金が投入され、見通しはどうなのか、といった情報が国民に開示され、有効に利用されなければなりません。事業の透明性を確保するとともに、知財の保護に留意しつつ、さまざまな立場の方の評価を受けて政策に反映するというPDCAサイクルを回していただきたいです。

第三に「つなぐ」。ITを活用し、垣根を越えた連携で、埋もれた情報を先制医療や難病の治療につなげてほしいです。日本には、妊娠したときから、母子保健情報、学校健診、成人後の健診、人間ドック、レセプト情報、電子カルテ、介護が必要になれば、要介護認定調査情報など、まさにゆりかごから墓場までのライフコース・データがありますが、この宝の山が有効活用されていません。これらを活用すれば、科学的根拠に基づいて、発症前に病気を予測し、介入することで発症を防いだり、遅らせたりする先制医療が可能になります。ビッグデータ、リアルワールドデータと呼ばれる医療健康情報を、医療の評価や予防、研究開発に役立てていただくための基盤を構築してほしいと思います。 既にAMEDが進めているIRUDに関してはさらに全国規模に広げ、国際連携を広げることで、疾患の診断、解明、治療へ道筋をつけていただきたいと思います。 省庁間の連携はもちろん、国民、患者さん御家族、医療者、あるいは異分野の研究者、政策決定者など、さまざまな層をつなぐ車輪の軸となっていただきたいと思います。

【次ページ】ディスカッション

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最終更新日 平成29年10月16日