AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:招待講演③ 抗感染薬の発見に向けて(3)

(抄録)

AMEDシンポジウム2日目(5月30日)招待講演➂ 抗感染薬の発見に向けて

大村 智氏(北里大学特別栄誉教授)

ピンポイントで作用する抗生物質

説明は本文中に記載図3 マクロライド抗生物質
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従来の微生物創薬研究では、できるだけ抗菌スペクトルの幅が広く、あらゆる細菌に作用する薬を作ろうとしてきました。しかし、病原菌の迅速検定法が発達した現代ではそれほど幅広く作用する必要はなく、その病原菌に合う抗生物質を投与すればいいということになります。古くから使われている抗生物質についても、ピンポイントで作用するような新たな作用機序が見つかっています。また、私たちも耐性菌に有効なマクロライド抗生物質を開発する研究を重ねています。

病原菌を殺さずに感染を防ぐ

説明は本文中に記載 図4 腸管病原性大腸菌(EPEC)の
上皮細胞への感染モデル
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抗生物質が効かなくなる大きな原因の一つに、病原微生物が作る酵素による抗生物質の不活化があります。耐性菌の中には、抗生物質の構造を変えて、活性をなくしてしまう酵素をつくるものがあるのです。そこで、私たちは世界に先駆けてペニシリンを不活化するペニシリナーゼという酵素を阻害する物質を報告しました。

さらに別のアプローチとして、感染菌が入り込んでも感染を成立させない方法を考えました。それまでの研究では、耐性のメカニズムを克服して微生物を殺そうとしてきましたが、そのやり方では永遠に人類と病原微生物とのイタチごっこを終わらせることができませんから、病原微生物を殺さずに、感染することをやめさせることにしました。

その1つとして、腸管病原性大腸菌やO-157などの細菌が毒素を宿主の細胞に打ち込んで感染を成立させる仕組みを阻害するような化合物を探し、動物実験を行うなど研究を重ねているところです。この研究については、かすかな光明を見出すことができたといえます。

新しい概念で病原菌と立ち向かう

写真/2枚目 講演の様子

今後も、新しい作用機序を持つ抗生物質や、耐性菌に有効な抗生物質を開発することは必要です。しかし、それだけでは、いずれ人類が病原菌に負けてしまうときが来るのではないかと懸念しています。そうなってしまう前に、新しい概念により病原菌と立ち向かっていくということが重要であるということを、皆さんにお伝えしたいと思っています。


会場は、ノーベル賞受賞者ということもあり、満席でした。抗感染薬の新戦略確立に向けて、今なおチャレンジし続ける大村先生の熱い思いが伝わってくる講演でした。いくつになっても研究者として先頭に立ち続ける姿に、その場にいた研究者たちは大いに刺激を受けたことと思います。

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最終更新日 平成29年10月17日