AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:成果報告④ 大規模ゲノムコホートとデータシェアリング(1)

(抄録)

成果報告④ 大規模ゲノムコホートとデータシェアリング

山本 雅之氏(東北大学東北メディカル・メガバンク機構長)

東北大学東北メディカル・メガバンク機構は、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構とともに、東日本大震災の被災者の方々の健康と医療に貢献し、同時に個別化医療を推進するためのゲノム解析を始めとした未来型医療の推進に取り組んでいる組織です。東北大学東北メディカル・メガバンク機構とその最新の取り組みについて、山本雅之機構長にご講演をいただきました。日本人特有の遺伝子変異に関するデータを解析した、リファレンスパネルなどについてもご紹介いただきました。

amedsympo2017_13-02

未来型医療のためにはゲノム解析が中心に

東北大学東北メディカル・メガバンク機構は、未来型医療を築いて震災復興に取り組むことを目的に設立された組織で、「未来型の医療を東北から始めよう」という目標の下に活動しています。AMEDの支援の下、東北メディカル・メガバンク計画は、宮城県での運営を東北大学が、岩手県での運営を岩手医科大学が担っています。私たちが理想とする未来型医療は、個別化予防・個別化医療の実現で、そのためには、体の設計図であるゲノム情報の解析が重要です。

基礎研究の基盤強化、特にコホート研究や複合バイオバンク、ゲノム情報の活用促進、電子カルテ、ICTインフラなどがそろって、初めて個別化医療・個別化予防にアプローチできます。より健康で豊かな「健康長寿の国」を創ることは国家目標ですが、それに加えて東北地方の再生と創造的復興を実現したいと願っています。

ゲノムコホート研究とは

「ゲノムコホート研究」について少しご説明します。「コホート研究」とは、たくさんの個人の生活習慣を含む環境要因を調べ、さらに長期にわたり追跡することで、その後の病気の発症と環境要因との関連を調べる研究のことです。例えば、東北地方は寒いので、しょっぱいものをたくさん食べるのですが、食塩の摂取量が多いと高血圧が多い。ハワイの日系人は、肉を食べるので、胃がんではなくて大腸がんが多い。こういうことを科学的に証明できたのは、コホート研究の成果です。ただ、コホート研究で「関連性」は分かるのですけれども、原因と結果を明らかにするのはなかなか難しいことだと思います。

これに対して、遺伝子解析も取り入れたゲノムコホート研究は、原因と結果まで見据えた研究が可能であり、体質に合わせた予防医療の中心課題となると思います。

地域住民コホートは8万人、三世代コホートは7万人

説明図・1枚目(説明は本文中に記載)
図1 東北メディカル・メガバンク計画における
地域住民コホート・3世代コホート
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

東北メディカル・メガバンク計画で行なっているコホート研究について皆さんにご紹介します。私たちが行っているコホート研究は2つあり、「地域住民コホート研究」と「三世代コホート研究」です。

地域住民コホート研究は、東日本大震災後の被災地域住民の健康を見守ることを目的にした長期健康調査で、宮城・岩手両県の方々の健康状態の把握と病気の早期発見・早期治療を目指しつつ、いただいたデータを個別化予防・医療研究に役立てようとするものです。

津波被害を受けた沿岸部を中心に、宮城県で5万人、岩手県で3万人の計8万人以上の成人にご協力いただくことを目標に実施し、昨年参加者数が8万40000人に到達して新規募集を打ち切りました。

三世代コホート研究は、宮城県・岩手県に住民票登録のある妊婦さんや生まれてくる赤ちゃんを中心に、そのきょうだいやご主人、祖父母、ご親戚まであらゆる年齢のご家族に参加をいただき、お子さんに比較的多くみられるアレルギー性疾患・自閉スペクトラム症などの病気や、大人の方に多い生活習慣病の両方に対して遺伝要因・環境要因がどのように関わっているかを研究します。遺伝要因・環境要因を家族間で三世代にわたって比較することで、どんな要因がどの程度病気や症状に関わっているかを調査することができます。

こちらも募集は終わっていて、約7万3000人になります。東北メディカル・メガバンク機構の出生からの三世代コホートは、世界最大で、一番質の高いものになっていると思います。 二種類のコホート研究は、参加者が合計で15万人という目標を達成しました。

検査結果は説明して返却、早期がんが見つかった例も

今回のコホート調査は「前向きコホート」であり、病気が現れる前から追跡を始めるため、その後どんな病気があらわれても追いかけるわけですが、重点的な対象疾患として、統計的に多く、さらに被災地ということを考慮してストレスで増えてきた疾患、具体的には心血管・糖尿病・PTSD・鬱病・認知症・呼吸器疾患、さらに妊婦さんやお子さんも多いので妊娠高血圧症・アトピー性皮膚炎・自閉症スペクトラムなどを解析することにしています。

また、調査のために東北大学では県内7か所に地域支援センターを設けました。 検査の結果は、参加者の健康づくりに役立てられるよう郵送でお返ししています。また、県内の市町村に赴き、健康調査結果報告会を開催しています。全員にピロリ菌の検査を実施しましたが、感染が判明した人に内科の受診を促したところ、内視鏡検査で早期の胃がんが見つかった例もあります。今後は長期の健康調査、追跡調査を行う予定です。

580万本を保冷・保管できるバイオバンク

説明図・2枚目(説明は本文中に記載)
図2 バイオバンクとは
※画像をクリックするとPDFファイルが表示されます

ここで話を変えて、東北メディカル・メガバンク計画のバイオバンクについてお話します。 バイオバンクは、人体に由来する試料と情報を匿名化して、体系的に収集・保管・分配するシステムで、先進国に必須のインフラです。

私たちは「複合バイオバンク」と呼ばれるバイオバンクを持っており、当機構には580万本の保冷・保管能力を持つ自動保管倉庫があります。生体試料の枯渇を防ぐには解析センターが必要で、血液と尿からはメタボロームやプロテオーム、DNAやRNAからは、ゲノムやトランスクリプトームを解析し、通常はデータの形で分譲します。先進的、革新的な解析であれば、生体試料も分譲する方式です。

また、Laboratory Information Management System(LIMS)や作業の自動化によって、エラー率が低いバンクを作り上げることに注力しており、ISO9001とISO27001を取得し、維持しています。

【次ページ】スパコンを活用した複合バイオバンク

「AMEDシンポジウム開催レポート」トップページに戻る

最終更新日 平成29年10月17日