2016年度 研究事業成果集 骨髄異形成症候群の患者さんの大規模遺伝子解析
骨髄異形成症候群から急性白血病を起こす遺伝子異常のパターンを発見
戦略推進部 がん研究課/基盤研究事業部 バイオバンク課
骨髄異形成症候群の患者約2000人の大規模遺伝子解析を実施
高齢者に多い血液がんである「骨髄異形成症候群」は、正常な血液細胞が作りにくくなり、数年にわたって慢性の造血障害を起こした後、急性骨髄性白血病を発症することが知られています。京都大学の小川誠司教授らの国際共同研究チームは、骨髄異形成症候群の患者に大規模遺伝子解析を行い、急性白血病を起こすリスクが高い遺伝子異常のパターンを発見しました。
取り組み
血液中には、白血球、リンパ球、赤血球、血小板など機能の異なる血液細胞があります。白血球、赤血球、血小板は、骨髄の造血幹細胞が増殖し分化して作られています。この造血幹細胞に異常が起きた疾患を「骨髄異形成症候群」(MDS)といいます。ただし、この段階では全てが急性骨髄性白血病になるわけではありません。昨今の遺伝子解析技術の飛躍的な進歩によって、造血幹細胞から正しい血液細胞になる過程でゲノム異常、すなわち遺伝子変異が起きて白血病を発症することが詳細に解明されようとしています。京都大学の小川誠司教授ら国際共同研究チームは、MDSの患者2250例の遺伝子を、次世代シークエンサーとスーパーコンピュータ「京」(理化学研究所)を使って解析し、これまで解明されていなかったMDSの遺伝子異常がどのようにして急性白血病を起こすのか、その仕組みを解明しました。
研究成果
- MDSが白血病へ進行する際、「タイプ1異常」と「タイプ2異常」の2つのタイプの遺伝子異常が細胞に獲得・蓄積され、ゲノム異常を持つ細胞集団(異常クローン)が増大することが明らかになりました。
- 白血病リスクの低い段階のMDSに「タイプ2異常」が起こると、白血病リスクの高い状態になり、高リスクMDSに「タイプ1異常」が起こると、白血病を発症する可能性が高いことも明らかになりました。
解明された骨髄異形成症候群から急性骨髄性白血病への移行ステップ
白血病に進行する期間と遺伝子異常との関係
- 白血病になりにくい遺伝子異常(SF3B1遺伝子)の存在も分かりました。
展望
これらの遺伝子群を骨髄異形成症候群においてスクリーニングすることにより、急性白血病への進行を予測して早期に治療を開始することができ、治療成績の向上が期待できます。
白血病の早期発見、早期治療のための予測マーカーとして、また、患者の遺伝子に「どのタイプの異常」があるのかに応じて、白血病の発症を防ぐために最も適した医療を選択するなど、個々の患者に合った「ゲノム個別化医療」の実現につないでいくことができます。
最終更新日 平成30年1月15日