GEM Japan GEM Japan Workshop “Global Career Advancement of Genome and Health Data Scientists” が開催されました

報告:AMED科学技術調査員 秦千比呂

2019年8月23日、GA4GH ChairのEwan Birney氏を招聘し、AMED事業に関連する日本のデータサイエンティストの活動紹介を通じてゲノム医科学の未来について議論することを目的とした「GEM Japan Workshop “Global Career Advancement of Genome and Health Data Scientists”」がAMEDにて開催されました。

GEM Japan Workshop参加者

午前の部では、冒頭でAMEDの末松 誠理事長が世界に先行して超高齢化社会を迎える日本においてデータサイエンティストの果たす役割やそれに対する期待について述べたのに続き、Ewan Birney氏がゲノムおよびヘルスケア情報の共有に関する世界の現状と課題、情報共有を促進するためのGA4GHの取り組み、さらにはGA4GH のビジョンや活動内容を紹介しました。特にデータ共有を取り巻く様々な場面で互恵的な「橋」を築くことの大切さを強調されました。

  • 末松 誠理事長のOpening Remarks
  • Ewan Birney氏のKeynote Speech

続いて、GEM Japanから荻島 創一氏(東北大学)が難病・希少疾患の情報共有プラットフォームであるIRUD(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)ならびにHuman Phenotype Ontology の日本語対応やバイオバンク横断検索システムについて紹介されました。徳永 勝士氏(国立国際医療研究センター)は、免疫に中心的な役割を果たしているHLA遺伝子のアレル同定、人種毎のリファレンスゲノムデータ整備によるインピュテーション精度向上の重要性について講演されました。

  • 荻島 創一氏(東北大学)
  • 徳永 勝士氏(国立国際医療研究センター)

午後の部では、9名の日本人研究者が日本人患者集団の解析による疾患関連遺伝子の特定、変異解析のためのツールやプラットフォーム開発等の活動を紹介し、 Ewan Birney氏と活発に議論されました。
藤本 明洋氏(東京大学)はロングリードデータを活用した構造多型検出、加藤 護氏(国立がん研究センター)は今年度保険収載されたがんパネル検査、鎌谷 洋一郎氏(東京大学)は難病のデータシェアリングや二次利用のための新しい情報統合基盤プラットフォームであるRADDAR-J、西尾 信哉氏(信州大学)は先天性難聴の患者を対象にした研究とデータベース、西田 奈央氏(国立国際医療研究センター)はウイルスと肝臓がんに関する統合データベース、八谷 剛史氏(岩手医科大学)はGWAS SNPを用いたPolygenic Risk Scoreモデルの開発、中谷 明弘氏(大阪大学)は認知症患者のゲノムと臨床情報の共有拠点である認知症データストレージの紹介とLDscanを用いた解析結果、Branko Aleksic氏(名古屋大学)は自閉症スペクトラム障害と統合失調症の患者を対象とした疾患関連遺伝子同定、豊岡 理人 氏(NBDC)は日本人を含むバリアント情報ポータルであるTogoVarと日本人1万人全ゲノムのバリアント解析について発表されました。
多くの講演において GA4GH で推進されている世界標準の利用やプラットフォームとの連携が紹介されました。

最後に行われたパネルディスカッションは「健康医療情報を共有するための技術開発」をテーマとし、Ewan Birney氏、中川 英刀氏、荻島 創一氏、徳永 勝士氏、鎌谷 洋一郎氏が、健康医療情報共有の現状、DTC(Direct-to-Consumer)の現状と今後、長期間フォロー情報の必要性、EHR(Electronic Health Record)活用の今後の展開、などについて討論されました。立場の異なる臨床医と研究者、ウェットとドライ研究者の間にある隔たりが障害となっており、お互いの立場を尊重して多くの議論を交わすことが成果を導くという意見が表明されました。

  • パネルディスカッション
  • 中川 英刀氏(理研)

最後にGEM JapanのChampionである中川 英刀氏(理研)が、GA4GHとの連携をさらに強化していくことのメリットと必要性を述べ閉会となりました。

今回のワークショップは日本のデータサイエンティストのゲノム医科学分野における取り組みを紹介するとともに、国際標準に準拠したデータ共有と利用の課題についても議論する良い機会となりました。

最終更新日 令和元年8月30日