GEM Japan Swiss Personalized Health NetworkのMichael Baudis氏がAMEDを訪問し、日本人研究者との会合が開催されました

報告:AMED科学技術調査員 秦千比呂

2019年10月8日、GA4GHのDriver Projectの一つSwiss Personalized Health Network(SPHN )のDriver Project ChampionであるMichael Baudis氏(チューリッヒ大学、Swiss Institute of Bioinformatics)がAMEDを訪問し、日本の研究者との交流を深めることを目的とした会合が開催されました。会合では、主にがんのCopy Number Variation (CNV) の検出・解析、疾患発症の機能解明、さらにはデータ共有などに関する最新の研究状況について活発な議論が交わされました。

開会にあたりGEM JapanのDriver Project Championである中川 英刀氏(理研)は、CNV collaborationとの表現を用いてGEM JapanとSPHNの相互連携を深めていきたい、と挨拶しました。

Michael Baudis氏は、GA4GH発足時の初期メンバーであり現在はDiscovery Work StreamのLeadでもあるとの自己紹介に続いて、公表されている CNV データをユーザーが使い易いように解析・加工し関連情報と共に提供するプラットーフォーム「Progenetix」「arrayMap」や、欧州のバイオインフォマティクス基盤統合を推進するELIXIRの「h-CNV community」などCNV研究に関する最新情報を紹介しました。さらには、CNVを含む構造変異の検索を可能にしたツール「GA4GH Beacon」や、共通のデータモデルを定義する取り組み「GA4GH SchemaBlocks」について紹介しました。

ディスカッションの様子

日本からは4名の研究者がAMED事業に関連するCNVの研究成果を紹介しました。

  • 池内 健氏(新潟大学)は、APP遺伝子に認められるCNVがアルツハイマー型認知症を引き起こす研究成果について紹介しました。また、脳特有の体細胞変異が脳疾患発症の一因と考えられていることから、脳におけるCNVモザイク変異が認知症の発症理解に重要であると述べました。
  • 寺尾 知可史氏(理研)は、バイオバンクジャパン(BBJ)のデータを用いたCNVやモザイク変異の検出について発表しました。BBJとUK バイオバンクのデータを比較した結果、免疫関連遺伝子で欠損している割合の高い遺伝子群が人種毎に異なることを明らかにしました。さらに、DNA修復関連遺伝子であるNBN, MRE11, CTU2遺伝子における新規のcopy number neutral LOH(Loss of heterozygosity)の同定についても述べました。
  • 白石 友一氏(国立がん研究センター)は、がんゲノムの構造変異解析パイプラインであるGenomon SVを用いてTCGAのエキソームデータから構造多型検出を行い、がん遺伝子とがん抑制遺伝子において構造変異と一塩基変異の分布パターンが同じであることを示す成果を紹介しました。また、Genomon SVは従来の手法では同定が難しい、リードの部分領域が複数の場所にアライメントされるようなAmbiguous SVと呼ばれる複雑な構造多型も検出できることを紹介しました。
  • 松本 直通氏(横浜市立大学)は、ロングリードシーケンスを駆使したCNVの検出について発表しました。ロングリードシーケンスのための解析ツールとパイプラインを構築し、家族性神経核内封入体病(NIID)の家系からNOTCH2NLC遺伝子領域において GGC repeatが増加していることを明らかにし、孤発性のNIIDにおいても同様であることを示した結果を紹介しました。また、GGC repeatのコピー数だけではなく塩基配列組成も疾患に重要な影響を与えることを示す結果を紹介しました。
末松理事長とのランチ(左から中川氏、寺尾氏、白石氏、池内氏、松本氏、Baudis氏、末松理事長)

いずれの発表においてもMichael Baudis氏を交えた活発な質疑応答が行われ、技術的な議論のみならずCNVデータを共有することの重要性についても共通の理解が得られました。

最終更新日 令和元年10月17日