バイオバンク連絡会 第4回 連絡会テーマ 試料に付随する情報の取扱い事例をもとに試料管理について考える

開催概要

開催日時

平成30年6月9日(土)13時30分~17時30分

会場

読売新聞ビル20階 201会議室(東京都千代田区大手町1-7-1)

趣旨

これまでのバイオバンク連絡会のアンケートにおいて、例えば

  • バイオバンクでの情報(医療情報)の収集と取扱いについて
  • 試料に付随する情報のQCについて
  • データ管理、試料とデータの紐付けの検討
  • 試料の必須情報(バックグラウンド情報)のルール化

といった「試料に付随する情報」に関するテーマを取り上げて欲しいとの声を頂戴しています。
今回は、実際にどのような方法や手順で試料に付随する情報を取り扱っているのか、について幾つかの バイオバンクより話題提供として事例紹介をしていただくこととしました。

演題/内容・講師

演題

第3回バイオバンク連絡会の振り返りと第4回バイオバンク連絡会のテーマについて

テーマ趣旨・論点説明

国立精神・神経医療研究センターの事例紹介
座長:国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部室長メディカル・ゲノムセンターバイオリソース管理室 室長 服部 功太郎

第1部 試料の品質に関わる付随情報と標準化

  1. ToMMoの事例紹介(LIMSを使った試料付随情報の管理)
    東北大学東北メディカル・メガバンク機構 教授 峯岸 直子
  2. バイオバンク・ジャパンの事例紹介
    東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 松田 浩一
  3. バイオバンク試料の付随情報の標準化動向:SPREC,MISBIS,BRISQ
    岡山大学医歯薬学総合研究科クリニカルバイオバンクネットワーキング事業化研究講座 准教授 森田 瑞樹

第2部 試料に付随する臨床情報

  1. 国立国際医療研究センターの事例紹介
     理事長特任補佐 情報基盤センター長、センター病院医療情報管理部門 部門長 美代 賢吾
  2. 国立長寿医療研究センターの事例紹介
     メディカル・ゲノムセンター データ管理部長、臨床研究推進部 医療情報室長 渡辺 浩

総合討論

開催結果

質疑録

※下記、SlideShareからもご覧いただけます。

座長(服部先生)による趣旨説明とご発表

今回のテーマを設定した趣旨として、バイオバンクによって医学研究の効率化(1.試料の有効利⽤、2.解析の早期開始、3.研究再現性の向上)が図られたが、再現性向上に必要な、試料および付随情報の品質向上に課題があると示され、これについて議論の場を設けたと説明された。
そして、疾患・バイオリソースごとに、必要とされる付随情報の内容、情報の集め方が異なるという問題を提起した。

その後、NCNP MGCでの取り組み*が説明された。
NCNP内のバイオリソースでも、筋疾患の凍結筋組織は研究で行う病理解析結果が最も重要な付随情報であること、精神疾患の血液・脳脊髄液については、バイオバンクのスタッフが行う診断面接、症状評価が重要であること、神経内科疾患では電子カルテ由来の情報が基本になるものの、診断確定まで半年以上かかることも多いことなど説明された。
また、課題として1)病名決定の難しさ、2)データベース構築方法 の2点が挙げられた。
*NCNP MGCの取り組みついて紹介した、ゲノム医療研究支援サイト「バイオバンク最前線」も、併せてご覧ください。

質疑概要

【テーマ趣旨・論点説明、国立精神・神経医療研究センターの事例紹介 議論総括】

  • ユーザが求めるデータ(どこまで深いデータを要望しているのか)については、公開するDB(検体があるかどうかを調べるためのカタログレベル)と詳細な深い情報の付いたDBは分けて考えるべき。

【ToMMoの事例紹介(LIMSを使った試料付随情報の管理) 議論総括】

  • 測定前過程で、どういう条件で放置したらどういう結果が出たかというトライアルで検討したデータが各機関にあるのではないかと思う。「あるものを集めた」検討結果の一覧表を共有して欲しい。測定前過程で結果が決まってくる。プレアナリシスがとても重要。NGSの分析妥当性の必要要件に書き込みたい。

【バイオバンク・ジャパンの事例紹介 議論総括】

  • 配付までを3ヶ月以内に目指す過程は大きく以下の3つ:
    1. 試料の選択の段階を早めた。お試しで使いたい人向けのパネルを用意。
    2. Web審査へ移行予定。NBDCの審査に2週間を参考に1ヶ月以内を目指す。
    3. 配布手続き、契約を迅速化。1ヶ月以内、トータル3ヶ月以内を目指す。
  • 毎年の採取時に臨床情報も収集している。
  • 臨床情報提供の費用は、プロセッシングや人件費の費用として1件20万円(アカデミア:10万円)。

【バイオバンク試料の付随情報の標準化動向:SPREC, MIABIS, BRISQ 議論総括】

  • SPREC、MIABIS、BRISQの利用は日本ではほとんど無し。
  • SPREC(Standard PREanalytical Code)は、試料採取から凍結保管するまでの時間、遠心条件、処理温度等の情報を階層化して共通のコードにしたもの。品質を考慮したコードであるが、コードと実際の品質との相関はほとんど調べられていない。
  • BRISQ(Biospecimen Reporting for Improved Study Quality)は、研究報告の質を高めるための枠組みで、研究報告に含める項目が決まっているが、記述方法が決まっていない。
  • MIABIS(Minimum Information About BIobank data Sharing)は、バイオバンク情報を共通化するための最小データ項目。最小と言いつつ項目が多いが、どの項目もあくまでRecommendationであり、必須とはされていない。

【国立国際医療研究センターの事例紹介 議論総括】

  • 名寄せの倫理的問題は、各病院で同意を取る時に承諾を得ることで解決できるのではないか。医療等IDが今後検討されていく予定であり、これを統一IDとして利用できる可能性がある。
  • 各医療機関が厚生労働省の定める標準コードを使っていれば、それで横断検索、横串刺が可能。今のところ、医療機関側には標準コードを使うインセンティブがなく、労力のみが発生するため導入が進んでいない。標準コードを使う理解が進んでいない。
  • 文字情報の取扱いについては、2つの流れがある。
    1. テキストデータから自然言語処理で解析して項目抽出
    2. テンプレートとして構造化
  • J-Dreamsはテンプレートで構造化してカルテを抜き出すので、BBに必要なカルテ情報が、取り出して使いやすくなる。

【国立長寿医療研究センターの事例紹介 議論総括】

  • BBの仕組みを作る時にはmoduleを作って、単一機能毎に小さなプログラムを作ってUpdateを繰り返す。割と小さなmoduleについては、仕様を確定しやすい。複雑なワークフローを作る時はmoduleを組み合わせる事によって大きな仕組みにしている。ある程度、内製化してもDocumentを残しやすい。永続性を担保しやすい。ただし、製品(Filemaker)のversionの問題、OSの問題が非常に厄介。Documentと仕様を確定した上で、メーカーと共同して作った方が良い。
  • DB、プログラムを作る場合は、内製か外注かの以前に、要件設定と基本設計とのマッチングを図ることが重要。文書を残す事については基本的には同じ。

【総合討論 議論総括】

  • ToMMoでは、受付から出庫するまでがLIMS。輸送は別の会社に外注して管理。
  • SPRECやBRISQでバンク間のデータのメタアナリシスをするには、解析を意図したコードでは無いので適用は限定的。
  • 試料を有する病院等にAPI経由でクエリを投げて匿名化した情報をユーザに返す仕組みやAPIの共通化については、技術的問題よりどこまで外部に公開するかの決めの問題。公開範囲を決めるのが大変。例えば、希少疾患は検査項目を見ただけでも個人が特定され得るため、除外等の操作が必要。
  • フレッシュサンプルの研究利用ニーズに関して、オンデマンド型の提供の実施例は以下、
    • 岡山大:オンデマンド型の前向き収集も行っている(複数の対応例あり)。共同研究が基本。
    • NCGM:オンデマンドの前向き収集、依頼を受けてから倫理審査、MTA締結、その間に試料収集、配布を実施で以前対応。今は一旦中止。特定企業への配布であれば個別同意が必要。
    • NCNP:包括的同意にAdd onの同意もいただいた上で動いている。オンデマンドで利用することあり。
    • 筑波大:何件か動いている。同意に関しては、他と同じで+αの同意書を取る。または個別の同意書をBBで作り、某企業が研究で使う、という同意を取る形。基本的には分譲という形を取るが、共同研究か分譲かはケースによって違う。検体は、通常ホルマリンで固定する。アルコールで固定とか、新鮮(生の組織)にも対応。要望のあったものを、要望のあった状態で提供する形。他の研究にも使えるように同意は2つ取得。
  • 付随情報の外部提供、価格設定、倫理委員会審査要否の考え方についての事例は以下、
    • BBJ:審査は科学的な妥当性のみ。倫理的な部分は利用者施設で審査。価格は実費相当。DNA、血清は、1万円/検体(企業)、5千円/検体(アカデミア)。知財は放棄。共同研究では提供していない。情報の数に制限無し(有償提供の場合)。科学的に妥当な、研究目的に合致する範囲でとしている。最初は5項目に制限。ただし、妥当性があれば制限無し。たくさん必要な場合は必要な根拠を示していただく。情報だけの場合は20万円(企業)、10万円(アカデミア)という設定。
    • 筑波大:情報は有償。性別、疾患名、年齢等の最低限の5項目ほどは試料に(無償で)付けて出す。臨床情報は項目も多く、労力もかかるので有償。20項目毎に幾ら。さらに追加で20項目毎に幾らと加算する形。
    • NCNP:付随情報を出す時にスタッフが2時間程かけて詳細に調べた症状評価が約2万円/回と設定。実費相当。患者1人分の実費というよりは、使われる試料が全部取った内の何%か、最終的に得るためにかかるコストを逆算。病院の電子カルテ由来の情報は、各診療科から許可を得た内容について新たに抽出にかかる時間の費用をいただく。さらに深い診療情報については共同研究として個別相談が基本。保険診療の中で得た情報でも深く評価するための努力を払う場合は、各担当科の先生方との共同研究。個別相談で価格設定するのが基本。
    • ToMMo:課金は個人情報に関わるものはスパコンに入って、スパコン利用料として貰う。SEがある程度取りまとめて提供して出せるようなものは、何時間かかったかで計算。
  • 「倫理委員会審査要否の考え方について」は、基本的に日本では全てヒト試料を使った研究では倫理委員会審査を通す。
  • 検体の海外での利用、海外への提供について、各BBの方針については以下、
    • BBJ:分譲は国内に限定。制限公開でゲノムデータを公開しているが、それは海外からでも利用可能。それに付随する臨床情報も国内に限る方針。
    • NCNP:海外ユーザであっても、そこで出た成果が日本人の健康増進につながることであれば全然問題なし。海外利用は基本制限なし。実際に提供している。一方、個人情報、特にゲノム情報については慎重に審査する。
    • 岡山大:同意を取る時に『海外に出す』と書いているので出せる状況だが、「倫理指針の要件を満たす委員会で承認を得ている研究に提供する」としているので、日本の倫理指針が適用されない海外の場合には同等の基準をどう設定するかをまだ検討できておらず、検体を日本で使わないのであれば現状では出せないと回答。
    • NCVC:海外に出すところは十分議論して、同意書もしっかりしているが、契約書の英訳時間や海外とのやり取りで苦労する。ルールが見えやすいと現場が対応しやすい。
  • 国内だけで需給が成り立つのは多分日本くらい。小さい国、お金のない国でも医療に貢献しようとBBを海外に提供しているのに、リッチで科学技術にも進んでいる日本は、金に任せて海外の試料を買ってばかりというところもある。
  • 海外企業が日本で治験する時は付随研究として試料を集めるという形で大量に海外に持ち出している。説明同意文書には『米国に持って行って、USルールに従って、無くなるまで使う』、『この同意書に同意する事によってあなたの情報は、この後ずっとフォローされる』と書いてある。海外だから出さないという時代ではなくなってきている。
  • 海外という考え方が駄目。他の国では、大阪くらい移動したら他の国。それを問題にしているのがおかしい。そのために標準化がある。
  • 中国は中国人のDNA情報を海外に出すのは違法。多様な世界が始まる。Globalは全て美しく、我々は恥ずかしいという意識が180°変わる可能性あり。そういう事もあると考えないといけない。

お問い合わせ先

宛先 バイオバンク連絡会事務局
Tel 03-6870-2228
E-Mail genome-support“AT”amed.go.jp
備考
アドレスは“AT”の部分を@に変えてください。

最終更新日 令和元年12月24日