疾患基礎研究課 「新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)」 令和5年度終了課題の事後評価結果について
令和5年度「新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)」の事後評価結果を公表します。
事後評価
1.事後評価の趣旨
事後評価は、課題等について、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開および事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査・ヒアリング審査にて事後評価を実施しました。
2.事後評価委員会
開催日:令和6年7月25日
3.事後評価対象課題
開始年度 | 終了年度 | 公募 | 研究開発 代表者名 |
所属機関名 | 役職 | 研究開発課題名 |
---|---|---|---|---|---|---|
2021 | 2023 | 一次 | 石井 誠 | 名古屋大学 | 教授 | 新型コロナウイルス感染症後遺症の病態生理の多分野融合による解明 |
2021 | 2023 | 一次 | 大澤 匡範 | 慶應義塾大学 | 教授 | 感染症の原因PPIを標的とする合成中分子阻害剤の合理的設計プラットフォーム |
2021 | 2023 | 一次 | 鈴木 忠樹 | 国立感染症研究所 | 部長 | 空間的・シングルセル遺伝子発現解析による重症熱性血小板減少症候群の発病機構の解明 |
2021 | 2023 | 一次 | 高橋 弘喜 | 千葉大学 | 准教授 | 集団機能ゲノミクスによる病原真菌の適応機構の解明と遺伝子を標的とした新規治療法の開発 |
2021 | 2023 | 一次 | 南保 明日香 | 長崎大学 | 教授 | 1分子解析技術に基づくエボラウイルス粒子形成機構の解明と新規治療法の開発 |
2021 | 2023 | 一次 | 見市 文香 | 長崎大学 | 教授 | リピドミクスのメタデータに基づく赤痢アメーバ脂質代謝解析―赤痢アメーバの生化学・生理学と創薬標的・リード化合物の提供― |
2021 | 2023 | 二次 | 案浦 健 | 国立感染症研究所 | 室長 | 治療と根治を両立する革新的マラリア制圧戦略の分子基盤に関する研究開発 |
2021 | 2023 | 二次 | 石澤 啓介 | 徳島大学 | 教授 | 医療ビッグデータ解析、臨床薬理学と細菌学の融合による薬剤耐性細菌感染症に対する新規治療法開発プラットフォームの構築 |
2021 | 2023 | 二次 | 石野 智子 | 東京医科歯科大学 | 教授 | マラリア原虫感染阻止ワクチン開発に向けて、皮膚内のスポロゾイト移動を阻害する新規CSPモノクローナル抗体の作出と流行地株に対する効果測定系の確立 |
2021 | 2023 | 二次 | 黒田 大祐 | 国立感染症研究所 | 主任研究官 | 感染症B細胞レパトア解析のための計算・情報基盤の構築 |
2021 | 2023 | 二次 | 佐藤 好隆 | 名古屋大学 | 准教授 | ウイルス感染後に感染細胞の核内に出現する構造体の時空間的解析 |
2021 | 2023 | 二次 | 高島 英造 | 愛媛大学 | 准教授 | 臨床応用にむけたIgMを基盤とするマラリア防御機構の網羅的解析 |
2021 | 2023 | 二次 | 舘野 浩章 | 産業技術総合研究所 | 研究グループ長 | 新型コロナウイルスーヒト糖鎖受容体相互作用の解明と中和抗体の開発 |
2021 | 2023 | 二次 | 中釜 悠 | 大阪公立大学 | 准教授 | ヒトiPS心筋を用いたシャーガス病モデリングによる宿主-病原体相互作用解析と創薬プロセス変革 |
2021 | 2023 | 二次 | 仲宗根 秀樹 | 自治医科大学 | 教授 | 多分野融合によるHLA Class1拘束性HTLV-1特異的T細胞療法開発と最適化 |
2021 | 2023 | 二次 | 長崎 幸夫 | 筑波大学 | 教授 | サイトカインストームを制御する分子組織化抗酸化薬の設計と評価 |
2021 | 2023 | 二次 | 南宮 湖 | 慶應義塾大学 | 専任講師 | 人工知能とゲノム創薬による肺非結核性抗酸菌症の新規治療戦略の創出 |
2021 | 2023 | 二次 | 西増 弘志 | 東京大学 | 教授 | CRISPRを利用したRNAウイルス感染症抑制テクノロジー |
2021 | 2023 | 二次 | 美田 敏宏 | 順天堂大学 | 教授 | 医学、進化学、情報科学の融合研究による耐性化しない抗マラリア薬の創薬にむけた基盤技術の開発 |
2021 | 2023 | 二次 | 森脇 健太 | 東邦大学 | 准教授 | 制御性ネクローシスから挑む感染防御機構と感染症発症機構の真の理解 |
(敬称略 50音順、所属機関・役職は事後評価実施時点の情報を記載)
4.事後評価委員
氏名 | 所属・役職 |
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祝迫 惠子 | 同志社大学 生命医科学部 医生命システム学科 教授 |
川名 敬 | 日本大学医学部 産婦人科系 産婦人科学分野 主任教授 |
倉根 一郎 | 国立感染症研究所 名誉所員 |
齋藤 昭彦 | 新潟大学 大学院 医歯学総合研究科 教授 |
笹川 千尋 〇 | 千葉大学 真菌医学研究センター センター長 |
鈴木 幸一 | 帝京大学 医療技術学部 臨床検査学科 教授 |
津本 浩平 | 東京大学 大学院工学系研究科 教授 |
森 康子 | 神戸大学 大学院医学研究科 教授 |
〇:委員長(五十音順、敬称略、令和6年9月30日現在)
5.評価項目
- 研究開発進捗状況
- 研究開発成果
- 実施体制
- 今後の見通し
- 事業で定める項目及び総合的に勘案すべき項目
6.総評
本研究事業では、世界各地で流行する新興・再興感染症の制御に向けて、わが国における感染症研究基盤の一層の強化・拡充を図るとともに、新興・再興感染症制御に資する基礎的研究を推進しています。「多分野融合研究領域」では、感染症学及び感染症学以外の分野を対象とする研究者の参画と分野間連携を促し、病原体を対象とした狭義の「感染症研究」にとどまらない、既存の概念を覆す可能性のある野心な研究や、新たな突破口を開く挑戦的な研究を推進しています。
令和5年度に事後評価を実施した20課題(3.事後評価対象課題)について、いずれの研究課題も、我が国の研究医療に大きな貢献が期待される成果であると評価されました。
特に以下の点が高く評価されました。
- 赤痢アメーバにおける脂質多様性に着目し、超長鎖ジヒドロセラミド合成制御分子の同定や、脂肪酸伸長サイクルを特異的に阻害する化合物を同定したことから、今後新規抗アメーバ赤痢薬開発に有効な標的候補分子の開発が期待できる点が高く評価された。
- COVID-19罹患後の臨床情報や生体試料を用いて、臨床医学、遺伝学、分子生物学等の連携により病態形成機序の解明を行ない、重症化因子としてDOCK2を同定した成果や、FOXP4をLong COVIDのリスク遺伝子として同定した成果が高く評価された。
- Cas7-11-Csx29複合体に関して、ヌクレアーゼ活性、プロテアーゼ活性の双方を有していることを世界に先駆けて発見しその機能解析に成功した成果や、今後、新たな抗ウイルス技術、抗ウイルス剤開発への進展が大いに期待できる点が高く評価された。
最終更新日 令和6年10月31日