疾患基礎研究課 肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)における平成28年度課題評価結果について
平成29年5月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課
事後評価
1.事後評価の趣旨
事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査にて事後評価を実施しました。
2.事後評価委員会
開催日:平成29年1月11日
3.事後評価対象課題
平成28年度 事後評価対象課題(平成26年度開始課題;12課題)
4.事後評価委員
5.評価項目
- 研究開発進捗状況
- 研究開発成果
- 実施体制
- 今後の見通し
- 肝炎対策の推進
- 総合評価
6.総評
本研究事業は肝炎の予防、診断、治療に係る技術の向上、肝炎医療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる、基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。
本研究事業事後評価に際して、研究開発課題を以下のように分類(肝炎に関する研究(主に基礎研究)、肝炎に関する研究(主に臨床研究)、肝硬変に関する研究及び若手育成型研究)し、研究開発期間における特に顕著な成果を記載いたします。
肝炎に関する研究(主に基礎研究)
- C型肝炎ウイルス(HCV)の薬剤耐性を検出する方法を開発し、薬剤耐性変異ウイルスの生物学的特徴および宿主の関係を明らかにした。さらにHCVに対し,既存薬の抗ウイルス効果が検証され、安価な治療法開発への糸口を見いだした。また、透析患者のC型肝炎に対する治療法を確立させた。
- 日本人HCV感染者のモデルとなり得るHCV感染ヒトキメラマウスおよび培養細胞系を作製し、これらの系を使用して、Direct Acting Antivirals (DAA)治療による耐性ウイルスの出現機構と治療法の解明、ウイルス感染・排除による肝細胞変化とそのマーカー探索が行われた。
- SVR症例の肝臓組織で多くのオルガネラ異常が観察されたことから、SVR後も病理学的に異常な状態が継続している可能性が示された。また、SVR後肝がんでは、肝がん周囲線維芽細胞は正常肝由来線維芽細胞に比べて、特定のサイトカインの産生が亢進していることを明らかにした。
- ゲノムワイド関連解析を実施し、持続感染、線維化進展、がん化、ワクチン応答性等について宿主因子を明らかにした。持続感染やがん化等に関連を示したヒト白血球型抗原(HLA)の機能解析を行った。また、宿主因子が抵抗性であるががん化を引き起こすウイルス因子の一部を明らかにした。
肝炎に関する研究(主に臨床研究)
- 移植後C型肝炎に対するDAAによる治療の効果および有害事象に関する全国調査、および移植後B型肝炎再活性化制御を目指したB型肝炎ワクチン投与の効果とHLAの一塩基多型に関する全国調査が行われた。
- B型慢性肝炎においてテノホビル与薬やペグインターフェロンのsequential療法によるHBs抗原減少(肝発がん防止)効果を期待できる症例の特徴を示した。C型肝炎において薬剤耐性に関する臨床的な検討、SVR後の肝発がんリスク因子の解析等が行われ、予後改善へ向けた提言がなされた。
- DAAs治療後生じる耐性ウイルスのRNAを新規検査系により測定した結果、DCV/ASV、LDV/SOF、パリタプレビル/オムビタスビル/リトナビル(PTV/OBT/r)治療では耐性ウイルス量の増加により効果の低下を認めた。本測定により詳細な治療効果の予測が可能となった。
- 全国の施設より登録可能なオンラインシステムを開発、利用し、小児B型肝炎、C型肝炎のデータベースを構築して、その解析結果より、小児B型肝炎及びC型肝炎の自然経過及び治療効果を明らかにした。また、小児B型肝炎の感染経路の分子疫学的解析及び若年性B型肝炎関連肝細胞がんの実態解明が行われた。
肝硬変に関する研究
- 各種エラストグラフィを行った結果、新犬山分類を用いた診断とVirtual Tissue QuantifiCation (VTQ)などのShear wave imaging法およびStrain imaging法のいずれの手法の間にも強い相関関係がある事を確認した。また、VTQによる肝切除後肝不全の定量的リスク評価を提唱した。
- 肝炎から肝細胞がんが発生するまでの病態の進展や肝炎の予後予測、治療効果を判定の一助となりうる新しい4つの糖鎖バイオマーカーを用いて検査薬を開発した。構築した測定系で多施設多検体解析を行い、当該バイオマーカーの臨床的意義が示された。
若手育成型研究
- 生体環境に近い培養系でのみHCVの感染を阻害するマウス抗ヒトオクルディン単クローン抗体とヒト化抗ヒトオクルディン単クローン抗体を作製し、本抗体に細胞傷害性が無いことや本抗体のエピトープを同定した。さらに、本抗体のHCV感染阻害メカニズムを明らかにした。
- 新たなB型肝炎ウイルス(HBV)培養系を樹立し、この培養系を用いて化合物スクリーニングした結果、抗HBV物質として合成レチノイド、新規三環系ポリケチド、マクロサイクリックを見いだした。さらに、HCV感染複製系を用いて化合物をスクリーニングした結果、抗HCV物質としてベンスアミド誘導体、ジケトピペラジン誘導体などを同定し、作用機序を解明した。
評価委員会では、「肝炎に関する研究(主に基礎研究)」及び「肝炎に関する研究(主に臨床研究)」に対して全体として評価が高く、それぞれ期待通りの進展があったと認められました。「肝硬変に関する研究」においては、肝線維化の機序については現在も完全には解明されておらず、研究にやや遅れやデータの新規性に欠けるといった指摘もあったものの、いずれも概ね期待通りの進展が認められると評価されました。若手育成型研究ではそれぞれ独創性や新規性に富む研究が行われ、評価は概ね良好とされました。本研究実施中に得た業績、経験を生かし、将来にわたって肝炎研究の発展、活性化に寄与されることが期待されます。
最終更新日 平成29年12月15日