疾患基礎研究課 肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)における平成29年度課題評価結果について

平成30年8月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課

平成29年度「肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)」の事後評価結果を公表します。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。

肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査にて事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:平成30年1月18日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

平成29年度 課題評価委員(10名)
評価委員   所属施設・職名/称号 AMED併任
赤池 敏宏   国際科学振興財団 再生医工学バイオマテリアル研究所 所長  
赤塚 俊隆   埼玉医科大学 名誉教授  
大座 紀子   佐賀県医療センター好生館 医長  
恩地 森一   済生会今治医療福祉センター センター長  
清澤 研道 委員長 社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 消化器病センター 名誉センター長、肝臓病センター 顧問  
中沼 安二   福井県済生会病院 病理診断科 顧問  
林 紀夫 副委員長 関西労災病院 病院長 PS
幕内 雅敏   医療法人社団大坪会 東和病院 院長  
松谷 有希雄   国際医療福祉大学 副学長  
宮村 達男   国立感染症研究所 名誉所員 PD

(敬称略 50音順 平成30年1月18日現在)

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況
  2. 研究開発成果
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 肝炎対策の推進
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

本研究事業は肝炎の予防、診断、治療に係る技術の向上、肝炎医療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる、基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。
本研究事業事後評価に際して、研究開発課題を以下のように分類(ウイルス性肝炎に関する研究、肝発がんに関する研究、肝硬変に関する研究)し、研究開発期間(平成27年度~平成29年度)における特に顕著な成果を記載いたします。

ウイルス性肝炎に関する研究

肝炎に関する研究ではA型、B型、C型及びE型肝炎の研究が主に進められました。
A型及びE型肝炎ウイルスによる肝炎の、大規模かつ網羅的な臨床データの収集とそれに基づく感染防止、病態解明、起因ウイルスの遺伝的多様性に関する研究、並びにウイルス増殖機構、抗ウイルス薬、ワクチン開発に関する研究等により、感染実態・動向が明らかになりました。この成果により、効率的な診断・予防・治療のための指針を構築するためのエビデンスが提示されました。B型肝炎の抗ウイルス療法において、ドラッグフリーとHBs抗原消失を促進する治療法の開発を目指した研究が進められ、Peg-インターフェロン(IFN)α治療を含むB型肝炎の抗ウイルス療法ではHBs抗原量とHBcr抗原量の測定を併用することにより治療効果を予測できる可能性が示唆されました。B型肝炎の治療薬、アデホビル(ADV)とテノホビルジソプロキシルフマル酸塩(TDF)は腸管上皮でIFNλ3を誘導する作用があり、HBs抗原量を低下させる可能性が示されました。また、B型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化の実態を明らかにするため7つの疾患グループについて多施設共同研究を行ったところ、疾患ごとに再活性化の頻度が異なることが明らかとなり、現状のガイドラインでは高コストとなる事が分かりました。そのため、費用対効果に優れた次期ガイドラインの策定に向けて、B型肝炎ワクチンを用いた臨床試験が開始されています。さらにC型肝炎については、C型肝炎ウイルス(HCV)感染受容体に対する独自の抗体作製技術に基づき、優れたgenetic barrierと安全性を兼ね備えた宿主感染受容体を標的とする創薬のproof of conceptが確立され、宿主感染受容体を標的としたHCV侵入阻害剤候補となる低分子化合物の取得に成功しました。

肝発がんに関する研究

C型肝炎が日本の肝がんの最も大きな原因ではありますが、非B非C型肝がんはリスク因子や病態進展因子が明らかではないため、有効対策が存在しません。
この非B非C型肝がんの現状をレジストリー研究で明らかにするとともに、その中で中心的な問題である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病態を分子医学的、遺伝学的、生化学的に検討しNASH発症進展や肝発がんの危険予測が可能となる一塩基多型や、NASH肝がんの新たなバイオマーカーの同定、肥満環境下での発がん促進に関わる重要なメカニズムの解明等の成果が得られました。
また、「非炎症性(微小炎症性)肝がん」の病態を解明するため、肝がん微小環境解析技術基盤の確立とがん関連線維芽細胞関連遺伝子の同定、肝微小環境における肝線維化・肝発がん機序の解明と新規線維化マーカーの同定、汎用性の高いがん関連miRNAを高感度で検出する半導体センサーの開発基盤が確立されました。

肝硬変に関する研究

新たな技術を用いた肝再生及び肝機能の維持回復に関する研究が進められました。
骨髄などの生体に存在する自然の多能性幹細胞 Multilineage-differentiating stress enduring(Muse)細胞を、70%肝切除動物モデルと肝不全動物モデルに静脈投与した結果、Muse細胞は傷害肝に選択的に生着して、自発的に肝細胞に分化し、肝機能の改善、線維化の抑制が見られた一方で、腫瘍形成は無い事が示唆されました。また、肝細胞直接誘導法による再生医療の研究では、新しい肝細胞誘導因子の組み合わせを同定し、複数のヒト体細胞から、増殖、凍結保存が可能なヒトiHepC(induced hepatocyte-like cell)を作製することに成功しました。また、将来の医療応用を見据え、ヒトiHepC作製のための染色体を傷つけない安全な遺伝子導入法の基盤技術開発にも成功しました。

評価委員会では、「肝発がんに関する研究」に対して、全体として評価が高く、それぞれ期待を大きく超える進展があったと認められました。また、「ウイルス性肝炎に関する研究」においては、大規模な疫学調査や治療法開発に資する成果が高く評価され、その他の研究開発分野でも概ね期待を超えた進展が認められたと評価されました。「肝硬変に関する研究」は主に肝再生に関する研究であり、実用化に向けた治験等の開始に向けて、既に準備できている点、欠けている点を明確にすることとの要求がありましたが、概ね計画通りの進捗があったと評価されました。今後の臨床応用、実用化へ向けた一層の努力が期待されます。

最終更新日 平成30年8月21日