新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 令和6年度 事後評価結果について
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和6年度終了課題の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。
事後評価
1.事後評価の趣旨
事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査及びヒアリング審査にて事後評価を実施しました。
2.事後評価委員会
開催日:令和7年7月25日及び28日
3.事後評価対象課題
4.事後評価委員
5.評価項目
- 研究開発達成状況
- 研究開発成果
- 実施体制
- 今後の見通し
- 事業で定める項目及び総合的に勘案すべき項目
- 総合評価
6.総評
総合評点の結果は5.3~8.3点に分布し、全31課題のうち27課題が「総合的に計画した成果が得られた」、「計画した成果をやや上回る成果が得られた」又は「計画した成果を多少上回る成果が得られた」と評価され、4課題が「計画した成果と同程度の成果が得られた部分もあるが、下回る成果の部分もあった」と評価されました。
主な成果を以下に記載します。
令和4年度公募課題
- ヤマカガシ咬傷、セアカゴケグモ咬傷に対する抗毒素治療臨床試験を実施するとともに、抗毒素の品質管理試験で安全性、有効性を確認した。ボツリヌス、ジフテリア、ガスえそ抗毒素をより安全なヒトモノクローナル抗体で置き換える研究開発を行った。
- 多分野の分担者の連携により、ウイルス感染、動物モデル、分子シミュレーション等の新興・再興エンテロウイルスに関する研究基盤を融合的に活用し、ウイルス病原性に関わる因子の同定、新たな活性物質の同定、検出法の開発に成功した。国内外における新興・再興エンテロウイルスの実態把握およびポリオ排除状況の確認・維持を達成した。
- 薬剤耐性結核菌および抗酸菌に有効な化合物の探索および誘導体化を目指し、既存の抗結核薬などとは作用点が全く異なるチオペプチド化合物の誘導体化を試み、各種の薬剤耐性菌にも有効な化合物を得ることができた。またプロモーター誘導活性を指標に天然物ライブラリーおよそ81,000種から6種のチオペプチド化合物を得ることができた。さらにチオペプチド化合物の遺伝子操作的な改変によって得られた誘導体のグラム陽性菌及び結核菌を含む抗酸菌に対する生物活性から、構造中に2つのloop構造を有するチオペプチド化合物がこれらの生物活性に重要であることが分かった。
- SFTSやエゾウイルス熱に代表される新興ダニ媒介性ウイルス重症熱及びその原因ウイルスに対する予防・診断・治療の戦略基盤の確立を含む包括的な対策スキームの構築を実施した。感染症対策に資する成果が得られた。
- RNAウイルスの感染が誘導するDMV形成を阻害することでウイルス増殖を抑制する化合物の同定と、その作用機序を明らかにした。化合物の抗ウイルス活性をin vivoでも示したことで、DMV形成過程を標的とした広域抗ウイルス薬開発という創薬開発の新しいコンセプトの妥当性を示した。
- 近年の高病原性鳥インフルエンザウイルス株に対し、既存の抗インフルエンザ薬および新規宿主因子標的化合物の抗ウイルス効果を明らかにした。またこれらの併用投与による薬剤耐性株の出現リスク回避の可能性の検証を行った。呼吸器系ウイルス感染マウスモデルを用いた高解像度空間トランスクリプトミクス解析システムを確立し、感染微小環境における特異的な細胞応答を明らかにした。
- 組換えウイルス作製の効率を大幅に向上させる次世代BACシステムを開発した。本システムを用いて、HSV-1 gB Asn-141のN型糖鎖修飾がヒト免疫回避機構や神経病原性機構に関与することを解明した。一連の成果は、広域のウイルス研究を加速させるだけではなく、副次的にHSVワクチン開発に重要な知見を提供していると考えられた。
- サイトメガロウイルス特異的T細胞受容体(TCR)をクローニングして評価を行い、抗原特異性、抗原親和性の高い12個のTCRを抽出した。これらの12個のTCRを遺伝子導入した再生T細胞は高い細胞傷害活性を示した。さらに、再生T細胞の大量培養法を確立した。
- 既存の抗菌薬では治療が難しい細菌感染症に対する新規治療薬の開発を目的として研究を行った。その結果、特定の遺伝子配列をもつ細菌のみを選択的に殺菌する新規治療薬を開発した。また、薬剤耐性菌の収集・同定を行うことで問題となりうる薬剤耐性遺伝子を同定した。
- 一類感染症の治療薬候補物質として、ウイルスの細胞侵入・遺伝子の転写やゲノム複製・ウイルス蛋白質による炎症性応答誘導を標的とするものが得られ、またそれらの併用が有望な場合があった。また、一類感染症の迅速診断法の材料が確保された。
- クラスD βラクタマーゼに対して特異的に阻害する化合物であるJBIR-155に関して、JBIR-155ラクタム化誘導体の創製に成功した。また、抗MRSA-VRE薬の開発を目的としたbottromycinの誘導体化に関して、生合成遺伝子改変による目的化合物生産に成功した。
- 多分野の技術を統合し、病原体の同定や宿主応答の解明などに関する手法を開発・実証した。これにより、感染症の病原体同定と病態把握を高精度に実施可能とし、原因不明/先天性感染症を含む感染症の実態把握や公衆衛生対応といった社会実装への基盤を整備した。
- 国立感染症研究所と7地方衛生研究所が連携し、感染症に係る公衆衛生対策を目的とした病原体ゲノム解析基盤を整備した。各地方自治体でのCOVID‑19から薬剤耐性菌までゲノム・サーベイランスを展開し人材育成を進め、次のパンデミックに備える公衆衛生体制を強化した。
- 各種動物由来感染症の野生動物における感染を発見し、いくつかの感染症においては緊急の更なる解析が必要であることを証明するとともに、エムポックスにおいては世界的流行以前から調査を実施し、血清学的解析を可能にした。Bウイルスや野兎病においても診断法の開発並びにワクチン開発で顕著な成績を得た。
- 未知のブニヤウイルス感染症の発生に対応できるウイルス分離培養法およびシーケンス法の開発を実施した。さまざまな培養細胞を用いた感受性試験とブニヤウイルス特異的ライブラリ作製法の開発を実施し、今後の未知のブニヤウイルス感染症発生の際に活用できる知見を得た。
- 国内未承認薬の品質検定法の確立に加え、信頼性の高いユニバーサル分子診断法を開発した。重症マラリアに対するアーテスネート注射薬の治療研究、シャーガス病の治療研究を立ち上げ、研究参加医療機関での診療、治療体制を整備した。
- ヒト特異的な遺伝子の機能をin vivoで解析可能なヒト化マウスモデルを構築し、感染症病態の発症・重症化に関与する遺伝要因を同定するための基盤技術を確立した。また、多重かつ組織特異的な遺伝子改変も実現した。病態増悪メカニズムの解析への貢献が期待された。
- 高品質かつ持続的な麻疹・風疹サーベイランス体制の構築に関する研究を実施するとともに、国内の発生動向、免疫保有状況、ウイルス分子疫学に関する詳細な解析を行うことで、国内の麻疹・風疹の排除証明に貢献した。
- SCCmecドナーとして特定の動物種や菌種が重要であること、ブドウ球菌の遺伝子伝達を低濃度で抑制することができる動物用抗生物質があること、リネゾリド耐性遺伝子が動物環境に広がっていることなど、薬剤耐性ブドウ球菌に関する貴重な情報を得た。SCCmedを不安定化する方法も発見した。
- HTLV-1関連疾患における病態の分子機序、免疫学的機構に基づき、抗HTLV-1免疫(液性免疫、細胞性免疫)、HTLV-1 bZIP factorが制御する宿主遺伝子の発現、HTLV-1プロウイルス配列の多型に着目した発症予測法の開発、新規免疫療法、分子標的療法の開発研究を遂行した。
- フラビウイルスの膜融合を定量可能な独自のスクリーニング系を活用して候補化合物を同定し、細胞・動物レベルでの感染抑制効果を明らかにすることで創薬応用の可能性を示した。
令和4年度2次公募課題
- ワクチンの品質管理試験の中の動物試験の試験管内試験への切り替えについては、大部分で目標を達成した。残るジフテリア、破傷風ワクチンの切り替えに注力する。品質試験法の改良については、BCGの力価試験法の簡便化、おたふくかぜワクチンの安全性評価、インフルエンザHAワクチンの力価試験の自動化等について実用化の目処がついた。
- 現行ワクチン鳥居株から副反応原因ウイルスを除いたTmj株を作出した。Tmj株は元株に比べて安全性に優れ、有効性の面でも遜色が無かった。また新たな接種ルートを考案し、従来法よりワクチンの有効性と安全性を向上できた。ムンプスワクチンの安全性・有効性を適正に評価するための動物モデルやアッセイ法を確立した。
- 非侵襲的な近赤外光の短時間の曝露による物理的なアジュバント効果、およびその機序の一端を粘膜投与型インフルエンザワクチンのモデルに応用しただけでなく、社会実装に向けて非ヒト霊長類およびヒトへの使用に適したデバイスの開発に成功した。
- Hibワクチン、PCV13、ロタウイルスワクチン、HPVワクチンのリアルワールドにおけるeffectivenessを疫学的に明らかにした。各病原体の血清型、遺伝子型の変遷が観察されており、継続した監視と病原体の変化に対応したワクチンの導入が必要であることを示した。
- 現行BCGワクチンの有する課題を克服すべく開発したプライム組換えBCG の防御効果をマウス・カニクイザルにて確認し、POCを取得した。後ろ向き実験が可能なサルサンプルおよび樹立した結核潜伏・再燃マウスモデルを用いて経時的かつ高解像度に解析し、ワクチン効果と結核病態を反映するマーカーの探索を進めた。
- 子宮頸癌およびその前癌病変において2価/4価ワクチンが感染予防できるHPV16/18陽性率を解析することにより、子宮頸癌に対するHPVワクチンの有効性および接種勧奨中止の影響を確認した。我が国で初めてワクチン接種後の血清抗体が10年間維持されることを確認した。
令和4年度4次公募課題
- ミトコンドリア機能保護等作用をもつミトコンドリア機能改善薬MA-5は、SARS-CoV-2等のウイルスに対する抗ウィルス効果に加え、Long COVIDにおけるBrain Fog抑制効果も有する可能性が示された。COVID19急性期GDF-15値がその後のLong COVID発症予測バイオマーカーとなる可能性が示唆された。
- 特定一種病原体による一類感染症に対する感染症危機対応医薬品(MCM)の確保、開発に向けて必要となる、MCMの前臨床評価について、国内で唯一稼働している国立感染症研究所のBSL-4施設において、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスの前臨床評価を行える体制を構築・整備した。
- 全国の集中治療室(ICU)における重症COVID-19患者の診療情報をリアルタイムに統合・可視化するクラウド型情報基盤「改良型CRISIS」を開発し、利活用した。予後予測モデル、重症化リスク因子、治療反応性の解析を行った。
- ボツリヌス症のワクチン開発および新規制御法のための基礎研究、炭疽菌抗毒素製剤の開発、ペストOMV型ワクチン開発、炭疽およびペストに対するLNP-mRNA型ワクチン開発、類鼻疽菌の同定法の改良、Corynebacterium ulcerans感染症の迅速診断法の開発について、成果に濃淡はあるもののいずれの課題においても次に繋がる成果が得られた。
掲載日 令和7年9月10日
最終更新日 令和7年9月3日