疾患基礎研究課 新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点研究領域)における令和6年度課題評価結果について(中間評価)

令和6年度新興・再興感染症研究基盤創生事業(海外拠点研究領域)の中間評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

1.中間評価の趣旨

中間評価は、研究開発課題について情勢の変化や研究開発の進捗状況等を把握し、これを基に適切な予算配分や課題の中断・中止を含めた研究開発計画の見直しの要否の確認等を行うことにより、研究開発運営の改善及び機構の支援体制の改善に資することを目的として実施します。

【今回の中間評価の背景】
本事業は感染症流行地における研究基盤の整備を進めていくとともに、海外研究拠点をハブとした研究ネットワークを活用して大規模かつ多様な共同研究を実施していくことを目標として、令和2年度から令和8年度までの7年を研究期間として実施しています。4年目にあたる令和5年に、文部科学省・科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会において、本事業の中間評価が実施されました。本事業は高く評価され継続すべきものであるという結果を得ました。ただし改善に向けた指摘事項として、海外拠点領域10拠点の研究開発課題の研究期間(令和2年度から6年度)を、本事業の期間と同等となるよう、令和8年度まで2年間延長すべきである、という指摘を受けました。これを踏まえ当該10拠点に対し、研究延長の適否を判断するため中間評価を実施いたしました。

2.中間評価委員会

開催日:令和6年12月6日

3.中間評価対象課題

令和6年度 中間評価対象課題(令和2年度研究開始課題:10課題)

4.中間評価委員会

岩田 敏(東京医科大学 微生物学分野 兼任教授)**副委員長
倉根一郎(国立感染症研究所 名誉所員)
笹川千尋(千葉大学 真菌医学研究センター長)*委員長
多屋馨子(神奈川県衛生研究所長)
舘田 一博(東邦大学医学部 微生物・感染症学講座 教授)
俵木保典(ヤスビオファーマ・コンサルティング)
横田恭子(一般社団法人WNP研究所 研究所長) (五十音順、敬称略、令和4年11月4日現在)

5.評価項目

  • 研究開発進捗状況
  • 研究開発成果
  • 実施体制
  • 今後の見通し
  • 事業で定める項目及び総合的に勘案すべき項目
  • 総合評価

6.総評

総合評点の結果は6.0~8.0点に分布し、1課題が「大変優れている」、4課題が「優れている」、残り5課題が「良い」と評価され、10課題全てが2年間の研究延長を可とする評価結果であった。

7.課題ごとの評価要旨

  1. ザンビア拠点

ザンビア大学と過去数十年にわたり築いてきた協力体制を基盤とした拠点として、安定して高レベルの活動がなされている。ザンビアにおける新規感染症病原体の探索・網羅的解析、および結核菌を主とする薬剤耐性菌の迅速検出法開発とリスク評価研究において、高い研究成果が得られている。特に、コウモリのバイオロギング調査は新たな取り組みである。捕獲コウモリからマールブルグウイルスゲノムの検出と解析結果は重要な成果であり評価される。また、人材育成や拠点利用研究においても成果をあげている。

  1. フィリピン拠点

フィリピンに呼吸器疾患と下痢症疾患の2つのコホートを維持し、母子間感染解析、家族内感染の解析、環境水モニタリングにより、これらのウイルス感染の感染伝搬の解明を行った。特に、無症候性キャリアからのウイルス検出結果から、感染伝播における無症候性キャリアの役割と重要性の実態を解明したことは非常に高く評価される。コホート研究を駆使した研究手法は、他の拠点における研究においても一つのモデルとなりうる。

  1. ミャンマー拠点

インフルエンザ、新型コロナウイルス、RS ウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルスのサーベイランス、医療従事者の新型コロナ抗体価調査、小児髄膜脳炎の研究を継続するとともに、感染症モニタリング体制の強化にも取り組んだ。研究成果の論文発表も行っている。政変により、当初の研究計画から変更を余儀なくされているが、その状況においても、現地研究者との連携を維持し、検体収集を行い、日本への輸送を実現してきたことは高く評価される。

  1. 中国拠点

新型コロナウイルス感染症、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、ヘルペスウイルス等を研究対象として、基礎的研究において成果をあげている。また、SARS-CoV-2 の変異株の性状解析や治療薬の効果を検証した。日中間の複雑な政治状況の下で、これまでの連携・業績を生かし、中国において2つ拠点を維持し活動を継続進展させていくことは重要で意義があると評価される。東大、中国科学院との連携が全学の国際交流協定のもとで進められていることも、本拠点の活動の基盤として重要である。

  1. ガーナ拠点

ブルーリ潰瘍起因菌の感染伝播に関する研究、デングウイルスの感染拡大に関する研究、ウイルス性下痢症の分子疫学的研究、薬剤耐性細菌の動態に関する研究、マラリア原虫と媒介蚊の分子疫学的研究等多様な研究を遂行し成果があがってきている。ブルーリ潰瘍、マラリア研究等ガーナの地理的特性を十分に生かした研究における成果が期待できる。現地機関との信頼関係の構築もなされていることも評価される。

  1. タイ拠点

タイ拠点における現地との長い共同研究の基盤を生かし、蚊媒介性感染症や感染性下痢症の研究、薬剤耐性菌等の調査を行い疫学及び基礎研究において成果を上げている。ノロウイルス不顕性感染者の存在とその機序、及び現地におけるノロウイルス感染の機序解明は重要な成果といえる。デングウイルス血清型判別キット、ADE 試験の研究用試薬キットの上市、CHIKV 検出用免疫クロマト分析装置開発も意義がある。下痢症アウトブレイク調査における現地への貢献も評価される。

  1. コンゴDRC拠点

DRCの地域性を生かしヒト感染症監視体制の強化やワクチンなどの有望なシーズ開発に資することを目標とした新しい拠点である。過去3年において、妊娠マラリア研究、薬剤耐性マラリア研究、エムポックス、COVID-19 研究のためのコホートが構築されており、また研究成果の論文発表も数多くなされている。胎盤を介したマラリア母子感染の重要性や、成人における無症候性マラリア感染の感染源としての重要性を示す成果がすでに得られていることは評価される。特に、エムポックス研究については貴重なデータが得られており今後の大きな発展が期待される。

  1. インドネシア拠点

スマトラ島、ジャワ島、カリマンタン島、バリ島等インドネシア各地のサル類から得た検体から既知病原体および新規病原体の探索・同定を試みる研究、ノロウイルス家族内感染の解析からリザーバーとしての幼児を特定した研究、河川や病院排水のAMRまん延状況の調査により、多剤耐性 AMR を検出した研究はインドネシアの地理的特性を生かした研究であり重要な成果といえる。このような成果を基に、今後ヒト感染症との関連も含めさらなる研究の進展が期待される。

  1. インド拠点

細菌性下痢症に焦点を当てた拠点であり、成果をあげている。細菌性下痢症における無症候性キャリアの存在、さらに、無症候性キャリアのリザーバー及び感染源としての役割の検証は重要な成果として期待される。また、プロテアーゼ曝露により、環境中の休眠型コレラ菌の栄養型菌への復帰の機序の解明も重要な成果として期待される。また、ウイルス性下痢症研究においてもロタワクチン導入後のウイルス性下痢症活性動向の解析においても興味深い成果が得られており、今後の研究成果が期待される。

  1. ベトナム拠点

感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)により整備されたベトナム研究拠点の施設と調査地域を活用し、ベトナム北部・中部・南部において蚊媒介性感染症、野生動物由来感染症、呼吸器感染症、下痢性感染症、薬剤耐性菌を研究対象として、コホート研究による病原体の分子疫学的研究や未知の病原体や保有動物の探索によるリスクの検証、各種感染症の発症・病原性のメカニズムや免疫反応の多様性を解明することを目的としており、現地拠点や共同研究機関との連携も良好である。

以上

最終更新日 令和7年1月15日