疾患基礎研究課 肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)における平成27年度課題評価結果について

平成28年12月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課

平成27年度「肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)」の中間評価及び事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

中間評価

1.中間評価の趣旨

中間評価は、研究開発課題について、情勢の変化や研究開発の進捗状況を把握し、これを基に適切な予算配分や研究開発計画の見直し、課題の中断・中止を含めた研究開発計画変更の要否の確認等を行うことにより、研究開発運営の改善及び機構の支援体制の改善に資することを目的として実施します。

肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)(以下、本研究事業)では、効率的かつ効果的な研究開発を推進し、限られた原資を有効に活用し、研究開発支援を適切に実施すること等をねらいとし、本研究事業における中間評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査及び対面審査(研究開発初年度課題は書面審査のみ)にて中間評価を実施しました。

2.中間評価委員会

開催日:平成28年1月19日

3.中間評価対象課題

4.中間評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況
  2. 研究開発成果
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 肝炎対策の推進
  6. 総合評価

6.総評

本研究事業は肝炎の予防、診断、治療に係る技術の向上、肝炎医療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。

本研究事業中間評価に際して、平成27年度における研究成果について以下のように分類(肝炎に関する研究(基盤研究)、肝炎に関する研究(その他)、肝硬変に関する研究、肝発がんに関する研究)し、特に顕著な成果を以下に記載いたします。

肝炎に関する研究(基盤研究)
  • 培養細胞系およびキメラマウスを用いて、抗ヒスタミン剤としてすでに発売されているchlorcyclizineとその誘導体が抗HCV効果を有することを明らかにした。
  • ヒト肝細胞キメラTK-NOGマウスにC型肝炎患者血清を投与することにより持続感染が成立し、このモデルを用いてDAA治療に関する薬剤効果を検討した。
  • B型肝炎の癌化に関わる新規遺伝要因の探索を目的としてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行ったところ、HLA領域に新規遺伝要因を同定した。また、持続感染や線維化進展に関わるGWASのReplication studyの為の検体収集を実施した。
  • 電顕組織解析にて慢性肝炎特徴的なオルガネラ異常がSVR後の組織でも観察され、時間が経過しても膜小胞以外の改善は認められなかったことから、SVR後でも病態が継続している可能性が示された。
  • 抗HBV薬としての候補ASO(アンチセンスオリゴヌクレオチド)の有効性および安全性を向上させるために、肝臓指向性を格段に向上させる要素技術を開発することに成功した。
  • マトリゲル3次元培養したHuh7.5.1細胞でHCV感染阻害実験を行った結果、ヒト化抗ヒトオクルディン単クローン抗体を含む培養上清では、有意なHCV感染阻害が認められた。
  • 高効率HBV複製細胞株を用いた化合物スクリーニングにより、さまざまなHBV感染複製阻害化合物を同定した。
  • C型肝炎ウイルス感染受容体に対する抗体を独自の抗体作製技術に基づき作製した。また、その感染受容体が創薬標的となるProof of Conceptを確立した。
肝炎に関する研究(その他)
  • 肝移植後肝炎ウイルス新規治療の確立と標準化を目的に、全国の肝移植施設を網羅した研究体制を構築し、HCVおよびHBV肝移植後治療例集積・解析を実施している。
  • 肝切除手術症例における解析にて、Shear waveおよびStrain waveのいずれのエラストグラフィにおいても、肝線維化が進行するとともに肝硬度は漸増し、両者の間に強い相関関係を示すことを確認した。
  • 全国から551症例のダクラタスビル+アスナプレビル併用治療例を集積し、本治療が不成功になった場合に出現する薬剤耐性変異を詳細に解析した。
  • ダクラタスビル+アスナプレビル併用療法施行例における治療効果(SVR12)とNS5A-Y93Hの新規測定系Invader assayとCycling probeのデータを解析した。
  • 小児ウイルス性肝炎のオンライン登録システムを開発、全国的に症例を集積した。また、先行研究からのデータを統合してデータベースを構築し、小児B型肝炎とC型肝炎の実態について検討を行った。
  • A型肝炎およびE型肝炎について、臨床データの収集および疫学動向調査等を実施した。またE型肝炎に関して、細胞培養系において、高力価持続感染中のHEVを完全に排除しうる薬剤を見出した。
  • がん化学療法および免疫疾患治療等によるB型肝炎再活性化例で、各疾患群のHBVゲノム配列と宿主遺伝子の解析を行い、再活性化肝炎発症リスクの評価法を確立した。
  • 日本における非B非C型肝癌の実態調査の詳細調査を開始し、症例登録用のサーバーを構築、随時症例蓄積を開始した。
  • IFNλ3量は、核酸アナログ(NUC)/Peg-IFNαシークエンシャル治療におけるHBs抗原量の低下と有意に関連すること、またIFNλ3量の上昇は投与するNUCの種類により大きく異なることを明らかにした。
肝硬変に関する研究
  • バイオインフォマティクスによって選抜した候補タンパク質の中から、肝がんに特徴的な糖鎖変化を検出する糖結合タンパク(レクチンN)と反応するタンパク質を絞り込み、肝がんマーカー候補とした。
  • Muse細胞が肝切除、肝不全モデルに有効であるかを検証すべく、ミニブタでモデルを作成した。またミニブタ骨髄液中の間葉系幹細胞からmaster cell bankを作製し、そこに含まれるMuse細胞の濃縮に成功した。
  • 比較的採取が容易で汎用性が高いと考えられる細胞をもとにiHep細胞(induced hepatocyte-like cells)を作製することを目的に研究を行い、これまでに良好なデータを得た。
肝発がんに関する研究
  • がん関連線維芽細胞(CAF)の活性に関与する遺伝子候補を網羅的遺伝子発現解析で同定した。また、同定したCAFの機能解析を行った。

評価委員会では、「肝炎に関する研究(基盤研究)」のほとんどの研究開発課題において期待通りの進展が認められると評価されました。「肝炎に関する研究(その他)」については、期待以上の進展が認められると評価された課題がある一方で、研究にやや遅れがみられると評価された課題もあり、他の分類に比べ評価結果に課題間で差がみられました。特にC型肝炎に関する研究については、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によるインターフェロンフリー治療が確立したことにより治療成績が大きく向上したことから、研究成果が「実用化」に結びつきにくいのではないかという意見もありました。一方、薬剤耐性や治療後の長期予後等重要かつ緊急の問題も多く残されており、次年度に向けてさらなる進展が期待出来るとされました。「肝硬変に関する研究および肝発がんに関する研究」については、他の分類に比べ、研究にやや遅れやデータの新規性に欠けるとされた課題があったものの、いずれも概ね期待通りの進展が認められると評価されました。

以上より、得られた研究成果は本研究事業の趣旨に相応しく、また進捗も研究継続するに適うと評価され、今回中間評価の対象となった21課題全てを平成28年度も継続することとしました。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。

肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査及び対面審査にて事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:平成28年1月19日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況
  2. 研究開発成果
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 肝炎対策の推進
  6. 総合評価

6.総評

本研究事業は肝炎の予防、診断、治療に係る技術の向上、肝炎医療を行う上で必要な医薬品、医療機器の開発につながる、基盤技術の開発も含めた基礎・臨床研究を推進することとしています。

本研究事業事後評価に際して、研究開発課題を以下のように分類(肝炎に関する研究、肝硬変に関する研究、肝発がんに関する研究)し、研究開発期間における特に顕著な成果を記載いたします。

肝炎に関する研究

  • 基礎研究と臨床データを統一的に研究して集積したエビデンスから導いた科学的根拠に基づくウイルス肝炎診療ガイドラインを構築した。
  • HCVやHEVの新規肝炎ウイルス培養系を開発し、ウイルス感染増殖機構、病原性発現機構を解析して、新規薬剤開発を目指した。
  • 肝移植後の抗HCV機能を増強するため、自然免疫リモデリング技術を応用し、ドナー肝活性化NK細胞療法を考案、臨床試験を実施している。
  • 肝疾患患者のゲノムDNA、血清及び臨床情報を収集してデータベースを構築・整備し、ゲノムワイド関連解析(GWAS)等の手法を用いてC型肝炎の肝病態進展軽快に関わる宿主遺伝要因解析を実施した。
  • 治療開始前の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)耐性について次世代シークエンスによる解析を臨床データと対比して集積し治療効果・宿主因子との関連を明らかとした。
  • HCV-DNAワクチンとHCV遺伝子組換えワクシニアウイルスを組み合わせたPrime/Boostワクチンの手法を用い、小動物において強い治療ワクチン効果を示すことを発見した。
  • 日本・韓国・香港・タイの4つの集団について、HBV患者群、HBV既往感染者群および健常者群(計3100検体)のHLAタイピングを実施し、これまでに報告されていないHLA-DPアリルについて持続感染に関連することを示した。
  • B型肝炎治療薬のヒト肝細胞内取り込み機構について、エンテカビルとテノフォビルは異なる肝細胞内移行経路を有することを明らかにした。
  • GWAS等を行うことにより、miRNAの増減や多型の効果は単独では決して大きくはないものの、病態と関連するmiRNAや多型、免疫関連を中心とした遺伝子との相互作用について多くの知見を得た。
肝硬変に関する研究
  • サイトグロビンの星細胞の活性化に対して抑制的に作用することを明らかにし、サイトグロビン発現を増強させる候補化合物を数種発見した。
  • 核内移行ペプチドNTP(nuclear trafficking peptide)をベクターとして利用して、ダイレクトリプログラミングを用いたゲノム編集法の確立を目指している。
  • C型肝硬変治療に対するPRI-724の安全性、忍容性を検討する医師主導治験を実施した。
肝発がんに関する研究
  • HCVを発現するモデルマウスと線維化モデルマウスを掛け合わせたところ、線維化の進行とともに腫瘍数、腫瘍径の増大を認め、生存期間の有意な短縮が認められた。これに関係する遺伝子としてSemaphorin 6Aを同定した。
  • シグナルペプチドペプチダーゼ(SPP)の活性を抑制することにより、HCV増殖は著しく低下するだけでなく、コア蛋白質によって惹起される肝病態も改善することを示した。
  • HBV関連発がんについて、HLA imputation解析を実施し、HBV由来肝発がんにはHLA classⅡ遺伝子だけでなくHLA classⅠ遺伝子が関連することを明らかとした。


評価委員会では、「肝炎に関する研究」に係る研究開発課題は、期待通りの進展が認められたと評価されました。また、「肝発がんに関する研究」についても同様に多くの課題が概ね期待通りの進展が認められたものの、課題別には評価に差がみられました。一方、「肝硬変に関する研究」においては、一部に成果がやや十分ではなかったと評価された課題がありました。

以上の評価委員会での評価から、今後の本研究事業における方向性として、まず、肝線維化の機序については現在も完全には解明されておらず、今後も肝硬変の治療薬・治療法の開発・実用化に向けた基礎研究を推進していきます。また、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によるインターフェロンフリー治療が確立したことにより、C型肝炎の治療成績は大きく向上しましたが、一方で薬剤耐性や治療後の長期予後等重要かつ緊急の問題も多く残されており、これらの課題についても解決に向けた研究を推進していきます。
 

最終更新日 平成28年10月24日