疾患基礎研究課 肝炎等克服実用化研究事業(B型肝炎創薬実用化等研究事業)における令和元年度課題評価結果について

令和元年度「肝炎等克服実用化研究事業(B型肝炎創薬実用化等研究事業)」の中間評価及び事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

中間評価

1.中間評価の趣旨

中間評価は、研究開発課題について、情勢の変化や研究開発の進捗状況を把握し、これを基に適切な予算配分や研究開発計画の見直し、課題の中断・中止を含めた研究開発計画変更の要否の確認等を行うことにより、研究開発運営の改善及び機構の支援体制の改善に資することを目的として実施します。

肝炎等克服実用化研究事業(B型肝炎創薬実用化等研究事業)(以下、本研究事業)では、効率的かつ効果的な研究開発を推進し、限られた原資を有効に活用し、研究開発支援を適切に実施すること等をねらいとし、本研究事業における中間評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査及び対面審査にて中間評価を実施しました。

2.中間評価委員会

開催日:令和元年10月23日

3.中間評価対象課題

4.中間評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況
  2. 研究開発成果
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 肝炎対策の推進
  6. 総合評価

6.総評

本研究事業はB型肝炎の画期的な新規治療薬の開発を目指し、基盤技術の開発を含む創薬研究や、治療薬としての実用化に向けた臨床研究等を総合的に推進することとしており、ウイルス因子の解析、宿主因子の解析、実験手段の開発および化合物の探索等、多角的に課題設定をしています。中間評価は研究開発予定期間が 5年以上である課題について実施することとしており、平成29年度の公募ではB型肝炎の画期的な新規治療薬の開発を目指した基盤技術の開発を含む創薬研究や、治療薬としての実用化に向けた臨床研究等を総合的に実施する研究を求める課題設定をしたものです。  
本研究事業中間評価に際して、令和元年度までの研究成果を「新規治療薬等の探索」と「B型肝炎の病態解明に関する研究」に分類し、特に顕著な成果を記載いたします。

新規治療薬等の探索
  • 長崎大学・北里大学天然物ライブラリーなどを活用したB型肝炎治療薬候補化合物の探索により、ヒト肝細胞キメラマウス試験でB型肝炎ウイルス(HBV)-DNA、HBs抗原を低下させ、カニクイザル2週間反復経口投与毒性試験で毒性がない物質を見いだした。
  • 現在のHBV治療薬が1日1回の服用であるのに対し、3日に1度、更に1週に1度の経口投与でHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスのウイルス血症を既存薬に比べて有意に抑制する新規抗HBV化合物を見いだした。
  • 共有結合性のカプシド形成阻害剤を同定し、合成展開により既存薬に対して耐性変異を持つウイルスの複製を抑制する誘導体を見いだした。
  • 既存の逆転写酵素阻害薬、インターフェロン(IFN)と併用する事によりHBV感染ヒト肝細胞キメラマウスにおいてHBV cccDNA量を低下させる薬剤を見いだした。
  • HBVの感染受容体であるNTCPに着目した阻害剤を独自に開発した方法にて見いだした。NTCPに結合し、その本来の生理活性は阻害しないが、ウイルスエントリーを阻害できる抗ウイルス薬候補を発見した。
  • NTCPに対するモノクローナル抗体の中から、感染を強く阻止する抗体を単離した。本抗体は胆汁酸の取り込みを阻害せず、ヒト肝細胞キメラマウスへのHBV感染を抑制することを見いだした。
  • レンチウイルスを用いたHBV cccDNA阻害剤のスクリーニング手法を構築した。この手法はこれまでの逆転写酵素阻害剤探索とは全く異なる原理による慢性感染HBVの画期的な治療薬探索の方法であり、ロスマリン酸およびジクマロールに抗HBV活性があることを見いだした。
  • ゲノム編集治療の個別化を実現するために、機械学習アルゴリズム(人工知能)を用いたシステム開発を行い、ゲノム編集遺伝子の開発精度と速度を恒常的に改善し、最適なゲノム編集遺伝子の設計が可能となった。

B型肝炎の病態解明に関する研究

  • B型急性肝炎・慢性肝炎患者のHBs抗原消失例の解析から、形質細胞様樹状細胞(pDC)-濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)-B細胞系列の活性化がHBs抗原消失に重要であることを明らかにした。
  • 長期にわたってHBVを持続感染できる細胞株を確立した。HBV複製における標的分子の役割が明らかになり、抗HBV化合物スクリーニングの結果、抗HBV薬のヒット化合物、ヒットペプチド、ヒット核酸を得た。
  • HBVがIFNの効果を回避するのに小胞体を介したIL8の産生を利用していることを明らかにした。また、HBVのインテグレーションは肝細胞感染の早期から起こり、ミトコンドリアDNAにも存在することを明らかにした。
  • HBV 感染サイクルで機能する宿主・ウイルス因子の詳細な解析により、preSと相互作用する複数の新規因子を同定し、その活性阻害剤はHBVの感染を抑制することを見いだした。またHBV感染サイクルに関わる2つの新規細胞因子を同定した。
  • ヒト肝細胞キメラマウスおよびその初代培養肝細胞を用いたHBV・HCV共感染を成立させた。共感染群ではHBV単独感染群に比してHBV増殖能が抑制され、肝細胞内の細胞内免疫(RIG-I、ISG56)が亢進していることを見いだした。

実験手段の開発

  • HBVをヒト肝細胞キメラマウスに感染させ、ヒトの血球を投与することによりCTLによる肝細胞障害、HBs抗原からHBs抗体へのセロコンバージョンを誘導する系を確立、CTLA4-Igがこの肝炎を顕著に抑制することを発見、臨床応用のための試験を開始した。
  • HBV感染感受性キメラマウス由来の初代肝細胞やNTCP発現HepG2細胞を用いたHBV持続感染培養系を構築した。また、HepG2-NTCP細胞を用いて抗HBV活性を持つ複数の化合物を見出した。
  • 改良型TK-NOGマウスの作製に成功し、HBVのgenotype別ウイルス血症持続性の差からゲノタイプCはゲノタイプAより免疫担当細胞非依存的な細胞障害性が強いことを明らかにした。
  • 免疫応答が正常なヒト肝臓置換マウスの作製に成功した。また、Hhex欠損マウスの作製、チンパンジーiPS細胞のナイーブ化に成功しチンパンジー肝臓置換マウス作製の準備が整った。
  • ツパイを用いたHBV持続感染系を構築すると共にツパイの全ゲノム解析及びRNA-seqによる発現配列の決定・ライブラリー構築を行った。

B型肝炎領域における新たな知見の創出や新規技術の開発に関する研究(感染増殖機構の解析)

  • B型肝炎ウイルス(HBV)感染抑制ケミカルリガンドおよび数理解析を利用して、cccDNA形成に至るHBV生活環経路の制御メカニズムを明らかにした。特に初感染時に関わる受容体共役因子EGFRなど感染制御宿主因子の発見、複製産物リサイクルによるcccDNA形成動的平衡の解析、新規創薬シーズ同定などをおこなった。
  • 胆汁酸代謝調節機構に着目し、HBVに対する創薬研究に取り組んだ。 胆汁酸誘導体Aは強力な抗HBV作用を持ち、そのメカニズムを明らかにすることにより、新たに胆汁酸誘導体を合成しHBV に対する抗ウイルス作用と肝細胞保護作用を持つ新規の抗HBV剤を新たに合成した。

中間評価対象課題の15課題はすべて、計画どおりに進捗していると評価されました。

「新規治療薬等の探索」に分類した課題では、ヒット化合物の最適化・薬理試験・前臨床試験が進められ、企業導出も計画されている課題もあり、今後の成果が期待できるとされた一方、国際的な競争力をつけるためには、もう少しアグレッシブにヒット化合物の誘導体合成と評価を検討する必要があるとされた課題がありました。「B型肝炎の病態解明に関する研究」においては免疫系をターゲットとする治療法はユニークかつ期待できるものであり、肝炎対策の推進に貢献するものと期待できる、新たに発見したHBV増殖に関与する宿主因子を中心にそれらの機能解析および制御分子の開発に向けて残された期間に更なる発展が期待できる、HCV排除後のHBV再活性化の原因を突き止め注意喚起したことで肝炎対策に直接に貢献していると高く評価された一方、創薬にどのように結びつけるかの道筋が分り難い、得られた研究成果を「実用化」に結びつけるために、動物モデルでの活性評価・薬物動態・前臨床試験実施が必要であるので、残りの2年間で努力してもらいたい等の課題が指摘されました。

以上より、得られた研究成果は本研究事業の趣旨に相応しく、また進捗も研究継続するに適うと評価され、今回中間評価の対象となった15課題全てを令和2年度も継続することとしました。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
肝炎等克服実用化研究事業(B型肝炎創薬実用化等研究事業)(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。なお、本事後評価は、平成29年度に研究実施予定期間 最長3年間の公募を行い、採択された研究開発課題が対象となっています。

2.事後評価委員会

開催日:令和元年 10月 24日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況
  2. 研究開発成果
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 肝炎対策の推進
  6. 総合評価

6.総評

本研究事業はB型肝炎の画期的な新規治療薬の開発を目指し、基盤技術の開発を含む創薬研究や、治療薬としての実用化に向けた臨床研究等を総合的に推進することとしており、ウイルス因子の解析、宿主因子の解析、実験モデル系の開発および化合物の探索等、多角的に課題設定をしています。事後評価対象課題は、平成29年度の公募で、B型肝炎領域における新たな知見の創出や新規技術の開発に関する研究を求める課題設定をしたものです。
本研究事業事後評価に際して、研究開発課題を「感染増殖機構の解析」と「宿主免疫の解析」のように分類し、研究開発期間における特に顕著な成果を記載いたします。

B型肝炎領域における新たな知見の創出や新規技術の開発に関する研究(感染増殖機構の解析)

  • HBV感染環の様々なステップ及び関与する宿主因子を多彩なスクリーニング法で探索し、得られた宿主因子とHBV感染の免疫応答を解析した。その結果、HBV 粒子に特異的な新たな細胞内輸送経路を明らかにする等、新規の抗HBV薬や治療法の開発につながる知見を得た。

B型肝炎領域における新たな知見の創出や新規技術の開発に関する研究(宿主免疫の解析)

  • B型肝炎、HBV感染者の家系を用いて全エクソン解析を行い、HBs抗原消失と関連する新しい候補遺伝子を見出した。遺伝要因からは「B型慢性肝炎のなりやすさ」と「HB ワクチンの効きにくさ」は密接に関連することを明らかにした。現行 HBワクチンでは効果が不十分な人を対象として、有効性の高い新規ワクチン導入のための治験計画を立案した。
  • HBVの細胞侵入の際に細胞表面タンパク質と結合するpreS1 領域を含む新規HBワクチンを作製し、HBVの感染予防に有用であることを示した。preS1 領域の感染中和エピトープの解析により、強い感染中和活性を持つモノクローナル抗体が同定された。また、preS1領域のワクチンエスケープ変異の同定、急性B型肝炎およびハイリスク群におけるワクチンエスケープ変異の侵淫状況を明らかにした。
  • 日本で広く使用されているB型肝炎ワクチン(HBs 抗原ペプチド)の一つであるビームゲンに対する応答性には、特定のHLA DR DQ 分子によるHBs抗原の認識(ワクチン低反応となる)、およびBTNL2 分子による T細胞やB細胞の活性制御(ワクチン高反応となる)が重要な役割を果たすことを明らかにした。
  • HBVに対する新たなTリンパ球抗原エピトープと免疫調整分子を用いて抗HBV獲得免疫反応を賦活化する手法を開発し、肝臓内でウイルス排除に作用する細胞内因子を選択した。抗ウイルス因子STAT1等が、cccDNA抑制作用を示す治療標的分子となる可能性を示した。

事後評価対象課題の5課題はすべて、計画を超えて進捗したと評価されました。「感染増殖機構の解析」は、全体として評価が高く、特に初感染時に関わる受容体共役因子の発見と新規創薬シーズの発見が高く評価されました。「宿主免疫の解析」では、国内でのワクチン開発が困難である中、中和抗体等液性免疫の研究にとどまらず、細胞性免疫の研究まで広く成果が得られたことが主に評価されました。

最終更新日 令和3年3月15日