創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和元年度課題評価結果について

令和元年3月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部感染症研究課

令和元年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:令和2年1月14日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 事業で定める事項
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

評価委員会では、評価対象となった28課題全てについて、期待通り、またはそれ以上の進捗と成果が得られたと認められました。研究内容に基づいた分類ごとの評価要旨は以下の通りです。
「感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究」に関して、HTLV-1に関する知見の蓄積や検査・診断指針の確立と普及、感染症領域の数理モデル研究体制の構築と数理モデルを活用した具体的な提言等について特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
「ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究」に関して、エボラ出血熱に対する新規ワクチンの第I相試験の開始、万能インフルエンザワクチン開発について特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
「新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究」に関して、寄生虫症に対する診断キット開発等ついて特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
「感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に向けた研究」に関して、アフリカのエボラウイルス病アウトブレイクに対する開発した診断キットやPPE(簡易防護服)、治療薬の供給、ジカウイルスに対するワクチンの非臨床試験の非臨床試験の実施について、特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
「新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究」に関して、アジア各国の感染症研究機関とのネットワークの構築と連携の強化について特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
特に顕著な成果を以下に記載いたします。

①感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究

  • 季節性インフルエンザについて、ヒト血清あるいは鼻洗浄液中に存在する抗体から逃れる変異株にはモデル動物のフェレット間を伝播するものがあり、自然界でも拡がる可能性を示しました。情報科学手法により、流行しうる特定のアミノ酸をもつウイルス群を推定可能となり、in silico構造解析により変異の影響を数値化し定量的に評価する基盤を構築しました。ヒトから分離された高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスの性状を解析しました。
  • RSウイルスについて、WHOが中心となってグローバルサーベイランスを開始しています。WHOが推奨するCDCリアルタイムRT-PCR の国内導入のための活動を行い、我が国の現在のRSV感染症による疾病負荷、流行株の状況、RSV感染重症例の臨床病理学的側面などを解析しました。
  • 下痢症ウイルス(特にノロウイルス)遺伝子の主要遺伝子の詳細な疫学解析の結果、国内のノロウイルスによる下痢症を中心とした分子疫学が明らかになりました。また、ノロウイルスの健常人の不顕性感染、細菌との共感染の実態や環境水中のノロウイルスの動態も明らかになりました。
  • 昆虫媒介性ウイルスについて、様々な宿主因子の同定や新たな研究系の確立(レポーターウイルス、カニクイザル感染モデル)に成功しました。また、昆虫媒介性ウイルスの阻害活性を持つ新規薬剤(BCLXL阻害剤、CB1阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤)の同定と評価を行いました。
  • HTLV-1検査における改善策として、ウエスタンブロット法の代替法であるLIA法の性能を評価し、HTLV-1感染の診断指針を作成し普及を図りました。また、疫学調査を行い、前回調査と比較し九州では新規のHTLV-1水平感染者が若年層で増加していることを明らかにするとともに、総合的な感染対策のための基盤となる調査研究を行いました。
  • ATL/HAM発症の共通前駆細胞の形成とATL/HAM発症のエピジェネティックな運命制御、その後の遺伝子変異の蓄積によるATLへのクローン進化というコンセプトを証明しました。さらに高感度ゲノム解析法を確立し、発症前キャリアの性質と遺伝子異常の重要性を見出し、発症ハイリスク群の特徴を提唱しました。さらに、EZH1/2阻害剤の有効性の証明と、HAMの新たな治療標的候補の同定に成功しました。
  • 結核について、2018年度報告した医療提供体制についてのアンケート結果を論文とし、既存資料の分析及び全国各地の行政・医療の関係者とワークショップを開催した結果をもとに低まん延状況に向けての医療体制のあり方に関する提言を行いました。
  • 劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者分離株について、菌の病原性に関連する遺伝学的特徴を同定しました。溶レン菌感染症の際引き起こされる防御免疫機構を解析しました。治療薬の候補として、一つの低分子化合物を見出しました。
  • トキソプラズマ症について、日本の基礎医学・臨床医学・獣医学・生物情報学の専門家が集学的な解析を行った結果、新規病原性機構または宿主免疫機構の解明、新しい検査法の開発、先天性トキソプラズマ症スクリーニング法を開発しました。
  • ワンヘルス・アプローチ(臨床、家畜、食品、環境)の理念でグローバルに伝播する薬剤耐性細菌のゲノム情報解析を遂行し、総合的な公衆衛生対策に資する薬剤耐性菌ゲノムデータベースを構築しました。
  • 感染症対策に資する数理モデル研究を実施するために、新興感染症、新型インフルエンザ、予防接種、性感染症の4つの研究課題に取り組み、肺ペストの輸出リスクやインフルエンザ亜型間干渉、風疹の追加予防接種数見積もり、HIV診断者割合推定などで顕著な研究成果を挙げ、保健医療行政との間で専門的見解の提供に繋げました。
  • 小型霊長類のコモンマーモセットを用いたジカウイルス感染モデルを確立しました。妊娠マーモセットへの感染による経胎盤感染を確認し、流産・早産の誘発、子宮内膜—胎盤絨毛間の組織変性などが見出されました。妊婦で見られるジカウイルス感染後異常の一面を示す動物モデルであることが示されました。

②ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究

  • GMPに準拠して製造した不活化エボラΔVP30ウイルスワクチン(iEvac-Z)の有効性と安全性を、サルモデルにて検証しました。iEvac-Zワクチンの動物における有効性と安全性が確認できたため、東京大学医科学研究所附属病院において、ヒトにおける第I相臨床試験を開始しました。またエボラ出血熱の重症化を予測するバイオマーカーを同定しました。
  • ノロウイルス、ロタウイルスに代表される下痢症ウイルスに有効な治療薬、予防薬、不活化剤の探索と開発を目指し、ヒト腸管幹細胞由来のオルガノイドでの感染性ウイルス培養系や株化培養細胞でのリバースジェネティクス系を開発しました。生化学、構造生物学の側面から創薬標的としてのウイルスタンパク質の性状を解析しました。
  • HTLV-1のワクチン評価系として、HTLV-1経静脈感染カニクイサルモデルを確立しました。抗体誘導ワクチンおよびT細胞誘導ワクチンシーズの開発研究を進展させ、サルにて抗HTLV-1免疫誘導能を示すとともに感染防御免疫誘導能を示唆する結果を得ました。一方、HTLV-1キャリアの感染免疫学的データ収集を開始しました。
  • 万能インフルエンザワクチン抗原シーズと、ワクチン抗原の活性を増強するアジュバントを特定しました。ノロワクチンの有効性指標となる免疫サロゲート候補や、RSVワクチンの安全性指標となる免疫サロゲート候補を明らかにしました。安全なデンク不活化ワクチンシーズを開発し、アジュバント評価系を確立しました。

③新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究

  • 新型インフルエンザ等の新興ウイルス性呼吸器感染症等について、迅速・簡便・高感度に病原体遺伝子を同定することが可能であり、的確な診断や迅速な治療方針の選択、不要な投薬回避など診断・治療のみならず、新興・再興感染症の感染拡大の阻止やパンデミック発生の備えとなるなど、感染症対策にも寄与できる全自動POC迅速遺伝子検査システムを新規に構築しました。
  • 侵襲性酵母感染症の診断法の研究として、迅速診断キット開発および病理学的検索を進めました。制御法の研究としては、耐性機序の解明および天然化合物からの新薬開発を重点的に行いました。また、本邦における耐性真菌の発生状況に関する疫学調査、感染に関与する宿主因子解明、ガイドライン遵守率評価等を行いました。
  • 国内で問題となる原虫・寄生虫症の診断(病原体ゲノム情報整備、キット創成)、疫学(リスク集団・食材、感染率、浸淫状況調査)、ワクチン(新規標的機能解析)・薬剤開発(新規標的開拓、リード探索)に関して、十分な成果を収めました。

④感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に関する研究

  • ウイルス性出血熱に対する迅速高感度診断法、治療法(ファビピラビル、抗体薬)、予防法(感染防護衣)等の開発を強力な産学連携体制化で実施し、社会実装に結びつく成果を上げました。
  • 昆虫媒介性ウイルス感染症に対する国内外におけるサーベイランス体制の強化、抗ウイルス薬シーズの開発、ジカワクチンの開発、ジカ感染症迅速診断法の開発・承認・販売、蚊媒介性ウイルスの動物モデルの確立と病態解明、媒介蚊対策などの総合的対策に資する研究成果を得ました。
  • 再発・難治性ATLに対するアバカビルの有効性・安全性を検証する医師主導治験を終了しました。ATL細胞において、HTLV-1 HBZ蛋白がミスマッチ修復の異常とマイクロサテライト不安定性発現を惹き起こすことを明らかにしました。京都大学医学部附属病院にHTLV-1キャリア外来を開設、患者レジストリおよび検体バンクを構築し、バイオマーカー探索研究を遂行しました。
  • 我が国の非結核性抗酸菌(NTM)症の実態把握に関して、効率的な疫学調査法を確立しました。菌全ゲノムデータ解析とNTM症レジストリの確立により、臨床データと菌株データを用いて薬剤耐性遺伝子解析や診断マーカー・治療法分析が可能となりました。種々の診断および薬剤感受性解析キットの開発を行いました。
  • 薬剤耐性菌の革新的な診断法として、質量分析およびナノポアシークエンスを用いた薬剤耐性菌の迅速診断法、早期耐性菌検出法としてのPOT法の活用法を確立しました。治療法としては、光線力学療法の応用と深海微生物由来の新規抗菌化合物の探索により、薬剤耐性菌に対する新たな治療法の開発を行いました。
  • 腸管出血性大腸菌の志賀毒素を強く中和し、実用化可能なプラスチック抗体の作成に成功しました。抗菌薬との併用により、腸管出血性大腸菌感染症の新規治療法として効果を発揮することが期待できます。
  • エボラウイルスの転写・複製を阻害する低分子化合物と、ラッサウイルスの細胞侵入を阻害する低分子化合物を同定しました。ラッサウイルスのGPと特異的に結合するモノクローナル抗体を作出しました。

⑤新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究

  • 多剤耐性結核菌(MDR-TB)の40%が外国出生者であること、アジア諸国での多剤耐性結核菌の遺伝子型及びHIV結核の増加を明らかにしました。結核感染において、マトリセルラー蛋白の病態関与を明らかにし、その阻害剤を開発しました。
  • アジア地域の感染症国立試験研究機関との二機関間で共同研究・情報交換などを恒常的に可能とするネットワーク構築に成功しました。

本研究事業は感染症から国民及び世界の人々を守り、公衆衛生の向上に貢献するため、感染症対策の総合的な強化を目指します。そのために国内外の感染症に関する基礎研究及び基盤技術の開発から、診断法・治療法・予防法の開発等の実用化研究まで、感染症対策に資する研究開発を切れ目なく推進することとしております。

最終更新日 令和2年3月30日