創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和2年度課題評価結果について

令和2年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日: 令和2年12月23日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 事業で定める事項
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

評価委員会では、評価対象となった24課題全てについて、期待通り、またはそれ以上の進捗と成果が得られたと認められました。研究内容に基づいた分類ごとの評価要旨は以下の通りです。
「感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究」に関して、薬剤耐性菌(淋菌・下痢原性細菌を含む)のサーベイランス強化と国際展開、病原体及びベクターとなる節足動物の多角的な解析、若手研究者によるインフルエンザ関連基盤研究等について特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
「ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究」に関して、高病原性鳥インフルエンザウイルス等、高病原性病原体のワクチン開発に資する基盤研究、予防接種施策策定に資する現行ワクチンの多面的な効果の評価について特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
「新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究」に関して、髄膜炎菌の保存・輸送法や薬剤感受性試験、迅速検出法の確立や発生時対応ガイドラインの作成について特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
「感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に向けた研究」に関して、MERS コロナウイルスの研究成果やインフルエンザ肺傷害の知見および ECMO などインフルエンザ重症肺傷害に対する診療体制整備など、これまでの成果を応用しCOVID-19 対策に繋がる多くの情報・研究成果を社会に提供できたことについて特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。
「新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究」に関して、結核菌の分子疫学や結核菌感染・発症の診断、病態発現機序の解明等について、広範な分野での成果を得たと特に評価が高く、計画を超えて大変進捗があったと認められました。

各課題の主な成果を以下に記載いたします。

①感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究

  • 重症例由来EHECの分離同定及び分離法を高精度化した。ゲノム配列を用いて疫学的解析手法を確立し、高病原性株を同定した。ベロ毒素の機能解析、阻害剤の開発を進めた。C. jejuniの表現型を固定するゲノム編集技術を開発した。E. albertiiの分類法および疫学的特徴を明らかにした。
  • 淋菌収集システムを活用し年間約1000株を分離し感受性データを国内外へ発信した。また、遺伝的系統を簡易分子型別、ゲノム解析等で明らかにした。耐性遺伝子検出、簡易感受性試験方法を考案した。産官学で利用するために広く提供可能な方法を模索し、実行した。
  • 生化学的・構造生物学的にインフルエンザウイルスポリメラーゼを解析し、鳥インフルエンザウイルスがヒトへの感染能を獲得するのに必要な適応変異の機能を明らかにした。動力学計算によるウイルスポリメラーゼの機能予測も進め、パンデミックポテンシャルの評価法の開発に向けた基盤技術を構築した。
  • 病原体及びベクターとなる節足動物の両面から多角的に解析を進め、衛生動物学・ウイルス学・分子生物学・生態学等の多方面から野外調査を実施し、形態的・DNAバーコードの両面からの標本整備、ならびにウイルスサーベイランスを行った。分担研究者間の相互協力と連携、検体の共有を基盤として、より効果的なベクターコントロール法の立案、新しい防除技術の開発等を進めた。
  • 国内で拡散している薬剤耐性菌の実態を正確に把握するため、医療機関から薬剤耐性菌株を広く収集して耐性遺伝子、耐性メカニズムを明らかにするとともに、特に注意を要する薬剤耐性菌の検出法や新規抗菌薬の評価系の開発を行った。さらに薬剤耐性菌サーベイランスを拡充し、WHOと連携して国際協力も進めた。
  • 細菌感染症の診断や治療に用いることが可能な人工抗体を試験管内で単離した。その物理化学的な性質・結合能が担保された抗体を作成する基盤技術を創出することを目的とし、天然型抗体に匹敵する親和性をもった抗体を作成することが可能となった。
  • ヒト上気道由来粘液中のインフルエンザウイルスが外部環境(胃酸・消化液や消毒薬への暴露も含む)から保護されるメカニズムの解明を行った。さらに、これらのウイルスが腸管上皮で感染を起こしうることを明らかにした。
  • 非結核性抗酸菌潜伏感染者は福岡県久山町で約8%であり、40歳以上の国民569万人が血清抗GPL抗体陽性、その内30万人がNTM感染症有症者であると推計された。活性型CLRに加えて抑制型CLRを発見し、これを標的とした抗酸菌抑制物質を低分子化合物や中和抗体でスクリーニングした。

②ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究

  • マウス、あるいはフェレットにおける高病原性H7N9鳥インフルエンザウイルスの病原性、増殖性、感染伝播力が、ウイルス株間で大きく異なることを明らかとした。
  • エボラウイルス病、マールブルグ病、ラッサ熱、Bas-Congoウイルス感染症、南米出血熱の原因フニンウイルス、ハンタウイルスによる腎症候性出血熱、ニパウイルス脳炎に対する治療・予防法(検査法を含む)を開発する研究を実施し、有効と考えられるエボラウイルスワクチンを開発した。
  • 定期接種化されたワクチンや定期接種化が期待されるワクチンの安全性や有効性を検証し、接種スケジュールの検討、リスクコミュニーケーションのあり方、サーベイランス体制、検査方法の開発と普及などを多面的に評価し、今後の予防接種施策策定のためのエビデンスを示した。
  • 「抗原性を維持した細胞培養インフルエンザワクチン製造株の安定的作製法」および信頼度の高い「ワクチンHA抗原量の測定法」を確立し、さらに、細胞培養ワクチンの安全性、免疫原性に関する詳細情報(一部試行中)の獲得を行った。本成果により、日本における細胞培養インフルエンザワクチン実用化時に必要な技術的基盤がほぼ確立された。
  • 北海道、秋田県、千葉県、東京都を対象にロタウイルスの分子疫学調査を行った。期間中に129検体のフルゲノム解析に成功し、そのうち64%がDS-1遺伝子群のウイルスで占められており、他にG9P[8]-E2等の新しい遺伝子型構成のウイルスの流行も広がっていることを明らかにした。
  • 独自創製した樹状細胞標的化ペプチドを用いた「抗原送達システム」を創製したうえで、新規肺炎球菌ワクチンの開発に成功した。

③新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究

  • 髄膜炎菌の保存・輸送法や薬剤感受性試験、迅速検出法、血清型別法を確立した。さらに大規模な薬剤感受性成績の構築や、全ゲノム配列による分子疫学解析法の確立、自治体向け侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)発生時対応ガイドラインの作成を通して、マスギャザリングでのIMD流行を見据えた国内IMD検査・疫学調査体制を強化した。
  • 現状に適したバイオリスク管理方法について検証を行った。実際の作業リスクをケースバイケースで評価するなど、科学的根拠に基づいた明確なリスク評価手法を取り入れて、封じ込め施設における安全かつ適切なリスク管理システムを確立するための根拠資料をまとめた。
  • ハンセン病の発症機序、らい菌の薬剤耐性獲得機序を解析した。らい反応予測法開発を可能とする遺伝子発現動態を解析した。ハンセン病と皮膚抗酸菌症を鑑別する新規手法開発が期待できる遺伝子増幅法を確立した。ハンセン病啓発活動とネットワーク構築を行い、当該分野中核を担う医療従事者の育成につながった。
  • SFTSの診断法を確立し、愛玩動物における問題及び愛玩動物から人に感染する感染症としての問題を明らかにすることに成功した。狂犬病やカプノサイトファーガ感染症とともに愛玩動物由来人獣共通感染症対策の整備を行うための地方衛生研究所や大学との連携し、対策の普及・協議を推進した。

④感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に関する研究

  • ダニ媒介性細菌感染症に対する課題を克服することを目的に、病原体およびマダニの探索・分布・生態調査、基礎的解析(ダニ体内での動態、伝播メカニズム、病原性メカニズム)、ゲノム情報整備 、ワクチン開発、診断法開発、 疫学・臨床情報の整備と診断・治療プロトコール、サーベイランス法の検討について取り組んだ。
  • バイオフィルム感染症治療薬の開発に資する化合物スクリーニングの新規技法を開発した。この技法を利用し、cyclic di-GMP合成を阻害しうる化合物を単離した。この手法により、cyclic-di-GMPシグナリングを標的とする抗バイオフィルム薬の開発が可能となった。
  • ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)感染者が多い我が国にとって感染防止策の一つとしてHTLV-1特異的抗体による受動免疫法の開発は重要な意義を持つ。本研究でその候補抗体として中和活性を持つhu-LAT-27が挙げられ、本研究で作製されたカニクイザルを用いたモデルでその効果を検証した。
  • HTLV-1の感染予防を目的とし、HTLV-1陽性血漿より精製した抗HTLV-1ヒト免疫グロブリン製剤 (HTLV-IG)の開発を行い、ヒト化マウスによる母子感染モデルの構築と有効性・安全性の評価、さらにニホンザルSTLV-1を用いた評価系基盤を構築した。また、実用化に向け、産婦人科・小児科・血液内科の専門家による投与プロトコール等の検討を行った。
  • 新型コロナウイルス感染症対応として、①日本で初めてSARS-CoV-2を分離し、②その後の標準となるPCR診断法を確立した。また③シクレソニドなど抗ウイルス候補薬を見出し、臨床試験の段階にある。一方、④集中治療の分野ではECMOネットの組織化/運営を支援し、世界的に最も良好なECMO治療成績を示している。また⑤診断法として、PCR法と同等の感度で簡便・迅速(30分)な新型コロナウイルス核酸検出法(SATIC法)を開発した。

⑤新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究

  • 結核菌ゲノム疫学により正確な感染動態把握を可能とし、実践上の応用も行った。またゲノムの変異情報により、薬剤耐性推定を従来よりも正確にした。結核のバイオマーカーを菌及び宿主側から検討し、網羅的遺伝子機能解析も含めて、多面的に感染制御の可能性を示した。

本研究事業は感染症から国民及び世界の人々を守り、公衆衛生の向上に貢献するため、感染症対策の総合的な強化を目指します。そのために国内外の感染症に関する基礎研究及び基盤技術の開発から、診断法・治療法・予防法の開発等の実用化研究まで、感染症対策に資する研究開発を切れ目なく推進することとしております。

掲載日 令和3年4月8日

最終更新日 令和3年4月8日