創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和2年度新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発課題の事後評価結果について
令和2年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発課題の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。
事後評価
1.事後評価の趣旨
事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。
2.事後評価委員会
開催日:令和3年9月8日(水)(令和2年度2次公募課題)
令和3年9月9日(木)(令和2年度3次公募課題 及び令和元年度~2年度指定課題)
3.事後評価対象課題
(内訳)
- 令和2年度2次公募課題:29課題
- 令和2年度3次公募課題:25課題
- 令和元~2年度指定課題:5課題
4.事後評価委員
- 令和2年度2次公募課題 事後評価委員会 評価委員(6名)
- 令和2年度3次公募課題 及び令和元年度~2年度指定課題 事後評価委員会 評価委員(7名)
評価委員については以下のPDFファイルをご覧ください。
5.評価項目
- 研究開発進捗状況について
- 研究開発成果について
- 実施体制
- 今後の見通し
- 事業で定める事項
- 研究を終了するにあたり確認すべき事項
6.総評
総合評点は4.6~8.6 点の分布であり、見直し必要レベル(6.0 点未満)が9課題あったが、それ以外の課題については、期待通り、またはそれ以上の進捗と成果が得られていると評価された 。
各課題の主な成果を以下に記載いたします。
①令和2年度2次公募課題
- 日本人患者検体のスパイク蛋白質標的中和抗体エピトープの網羅的な同定を行い、S1/S2境界領域やスパイク蛋白質以外の分子が中和抗体の標的分子となっていることを示唆する知見を含め、コロナウイルス予防・治療のためのワクチン作成のための重要な知見を得た。
- COVID-19に伴うARDSに対する臍帯由来間葉系細胞輸注療法第I相試験において、1例に治験製品を投与し、安全性と有効性を部分的に評価できる結果を得た。
- ヒト肺オルガノイドの気液界面培養、SARS-CoV-2等のウイルスゲノム核酸を保持しないウイルス様粒子(VLP)の作製、ハムスターやマウスのCOVID-19モデル動物、RNA 抽出不要な定量的 RT-PCR 法などの開発、並びに核小体形成阻害剤の有効性と安全性評価の確認など、幅広く重要な成果をあげられた。
- キレート化合物ライブラリーからのCOVID-19治療薬の短期での開発を目指したが、膀胱障害などのため、臨床試験に進めることができなかった。一方で、COVID-19に対する薬剤開発に貢献しうるin vitro、in vivo双方の評価モデルの構築に成功した。
- COVID-19に対する新規生薬エキス剤EFEの安全性と有効性を検証する医師主導治験の実施に向けて、EFEの薬効確認、作用機序の解明を行い、治験薬製造した後に医師主導治験を開始した。
- アデノベクターの作成と分与、ハムスターでの評価系を確立し、基礎的な成果を得た。またプロテアーゼ阻害剤の探索研究においてYH-53を見出した。
- 抗体療法の基盤を確立し、変異ウイルスのRBDを認識し、中和活性を有する4クローンを得た。
- コロナウイルス特異的TCR遺伝子の有効性をウイルス感染細胞を用いて検証する体制を確立した。
- 広域スペクトル中和抗体を開発するため、SARS-CoV-2のSタンパク質の各アミノ酸について、将来の変異導入の可能性を推定する方法を開発した他、変異しにくい領域に結合する抗体を特異的に取得する方法を確立し、785種の抗体を取得した。
- 機械換気を必要とするCOVID-19肺炎患者を対象とした、アドレノメデュリン投与の効果を検証する第Ⅱa相医師主導治験を開始した。
- COVID-19に対する呼吸機能改善を目的に、rhGM-CSFの効果を検証するための治験を開始し、目標症例数60例のところ11例まで組み入れが終了した。
- 発症早期の軽度呼吸不全を呈するCOVID-19肺炎患者を対象に、抗ウイルス薬(ファビピラビル)とステロイド薬(メチルプレドニゾロン)の併用療法の有効性と安全性を検討するための多施設共同・非盲検・単群・第II相臨床試験を行い、主要評価項目である呼吸不全進行抑制効果を確認できなかった。
- RKシリーズの抗ウイルス効果、安全性を確認し、成果の公表を行った。またヒトテロメラーゼ逆転写酵素にRdRP活性があることを見出した。
- SARS-CoV-2 野生型(武漢型)Spikeを免疫したアルパカの末梢血B細胞よりVHH抗体ファージライブラリを構築し、野生型への結合活性を有する7クローン、中和活性を有する6クローン、さらに変異型(南ア型)への中和活性を有する2クローンを得た。
- パーフルオロデカリン(PFD)を原材料として、腸を介して酸素を供給するというアプローチにより、全身の酸素化を可能とする腸換気法の開発を計画通り進め、有効性、安全性を確認した。
- バイオマーカー解析等からCOVID-19の重症化メカニズムを研究する基盤を構築した。
- COVID-19肺炎患者におけるファビピラビル多剤併用治療の有効性と安全性を検討するために、単剤治療(ファビピラビル)群とファビピラビル+カモスタット+シクレソニド吸入の多剤併用群の比較試験を計画し、116例まで組み入れが完了した。
- 第1次流行期の患者の抗体は南アフリカ株に対して中和活性が弱いこと、新型コロナウイルスのORF3は強いインターフェロン阻害活性を有すること、嗅上皮組織でACE2の発現上昇があること、OAS1遺伝子のSNPsが重症化のカギになることなど、病態に関する新しい知見を幅広く取得した他、患者試料由来のデータベースやES/iPS由来の鼻腔オルガノイド、気道上皮オルガノイド、肺胞上皮オルガノイドの樹立など、COVID-19の診断・治療への貢献が期待される基盤を構築した。
- 発酵法によるエバーメクチン合成法を確立し、エバーメクチン類誘導体の新規誘導体合成を行い、エバーメクチンよりも高活性の誘導体を取得した。
- アモジアキン誘導体の合成展開を行い、in vitro 抗SARS-CoV-2効果及びin vivo薬物動態などを検討し、効果が期待できる新規誘導体を複数得た。
- COVID-19 肺炎患者に対するPAI-1阻害薬TM5614の有効性及び安全性を検討する前期第Ⅱ相医師主導治験を適切に実施し、有効性と安全性を示唆する結果を得て、次相のランダム化プラセボ対照の後期二重盲検医師主導治験に進めることができた。
- COVID-19の病態を免疫学の観点から解明し有効な治療法開発へつなげるために、その基盤となるバイオリソースとデータを短期間で集積し、軽症者と重症者を見分けるバイオマーカーの検討を行った。
- 回復者血漿の臨床試験に向けた基盤整備や基礎的検討を行い、診療の手引きへの記載に貢献した。
- 結合阻害活性を指標に選抜したLOX-1抗体の治療効果を、凝固異常と急性腎障害を有するハムスターモデルを用いて検討した。
- HIVインテグラーゼ阻害剤MK-2048の経口製剤化を行うとともに、ISRのメインエフェクターである転写因子ATF4を誘導する化合物が in vitroでの強力な抗ウイルス活性を有することを明らかにした。
- 重症のSARS-CoV-2感染回復期の患者より、各種変異株(英国株、南ア株、ブラジル株、ミンク株)に対しても低濃度で強力に中和し、感染阻止能を持つ中和抗体の単離に成功した。
- SARS-CoV2プロテアーゼを標的とした創薬研究を行い、核酸アナログとの相乗効果が認められる候補化合物(GRL-2420/5h)を見出した。
- ファージ抗体ライブラリーより、ACE2のRBDと結合する抗体を9種類、RBD以外に結合する抗体を3種類得た。
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象に、イベルメクチンの SARS-CoV-2増殖抑制効果および安全性を明らかにすることを目的とした医師主導治験を計画し、治験を計画通り開始した。
②令和2年度3次公募課題
- COVID-19肺炎の軽減を目的とした、エトポシドとコルチコステロイド投与のHLH-94プロトコルによる多施設共同研究による臨床研究を開始した。
- Monobodyの改変、物性解析、安全性情報をほぼ計画通り取得した。
- SARS-CoV-2のゲノム複製に関与するNsp15に結合する新規リガンドを用いてSNIPERの開発を行ったが、目的の蛋白質を分解する化合物は得られなかった。
- 新型コロナウイルス感染症に対する高度免疫グロブリン製剤の安全性・有効性を検証するため、治験体制を機動的に整え、試験を開始し、15例の症例登録を行った。
- HMGB1ペプチドの臨床試験の開始を目指し、非臨床における用法・用量と作用メカニズムについて検討し良好な生理機能改善傾向を認めた。
- 安全性・有効性を備えたアンチセンス核酸の創出を目指し、in vitro細胞系にて効果のある配列を同定した。
- In vivoにおいて、LPAの組織傷害の抑制や血管の保護効果を確認した。
- コルヒチンの過剰炎症抑制作用を検証するプラセボ対照ランダム化比較試験を実施し、目標症例数の約半数のエントリーを達成した。
- 変異ウイルスに対応できる中和抗体の取得に成功した。
- 血中のCOVID重症化マーカーの検討を行い、医療への応用が期待できるバイオマーカーを複数特定した。
- アドレノメデュリン原薬の製造法を検討し、スケールアップ目標値を上回る製造を達成し、原薬分析法を開発・確立した。
- 全ての変異株に中和活性を有する抗体を取得し、特許出願した。
- 単価VHHL抗体の同定に続き、多価VHH抗体による親和性・中和活性の増強というコンセプトの検証に成功した。
- MProを標的蛋白とする標的蛋白質分解誘導薬(PROTAC)による新型コロナウイルス治療薬開発を目指し、短期間で100種類を超えるPROTACを合成し、評価したが、顕著な活性を有する化合物を見出すことはできなかった。
- 尿中L-FABP濃度高値の軽症および中等症IのCOVID-19患者を対象としたART-648の第Ⅱ相試験のPMDA事前面談の準備および治験薬製造を完了した。
- 補体因子を対象とした抗体のサルCovid-19感染モデルでの薬効評価を行い、諸症状の改善、有効性を示唆する結果を得た。
- 医薬品としてのエクソソームの製造工程基盤を整備し、品質検査を終了した。
- 指向性進化法を用いて高親和性ACE2の作出を行い、ハムスター薬効評価系で顕著な治療効果を確認した。またエスケープ変異株出現の懸念が低い可能性を示した。
- アプタマーから低分子化合物取得を目指し、DNAアプタマー取得、標的蛋白質調製、スクリーニング系検討、クライオ電顕による解析を実施した。
- 中和活性を持つ抗体を取得し、立体構造解析より当該抗体の高い中和活性と交差反応性の科学的根拠を提示し、医薬品候補としての有望性を示した。
- Nsp12(RdRp) によるゲノム複製、Mタンパク質によるゴルジ断片化、感染に関連する宿主因子等を標的とした阻害薬探索を行い、候補化合物を得た。また抗ウイルス活性評価系の確立、マウスやハムスターを用いたin vivoモデルを確立した。
- セファランチン微粒子吸入剤の開発に関し、ナノ粒子及び一次粒子の製剤設計、微粒子吸入剤の薬物動態評価・GMP 原薬入手、微粒子吸入剤の処方設計、原薬及び製剤の分析、 微粒子吸入剤及び一次粒子製剤の非臨床試験、 GMP製造体制の構築を計画通り進めた。
- SARS-CoV-2に対して有効なヌクレオシド誘導体2種を治療薬候補として見出し、そのうち、HMcAについてはin vivoにおいて非常に低用量より抗ウイルス活性を示すことを明らかにした。
- 製造した羊膜MSC治験製品の薬効評価をサイトカインストームモデル動物を用いて実施した。
- 高活性触媒的標的RNA消化機能を有する新規核酸医薬の実用化を目指し、3種の標的分子を設定し、標的配列に関する初期知見を取得した。
③令和元年~令和2年度指定課題
- 様々なCOVIDモデル動物を確立し、各モデル系の特性を明らかにした。特に、感染ハムスターモデルの構築は動物実験の突破口となり、国内初のmRNAワクチン研究を牽引した。
- 感染研と大学、企業の三者が緊密に連携し、限られた研究期間内に、5つの体外診断用医薬品、3つの研究用試薬を実用化した。
- SARS-CoV-2感染機構の解明に加え、既存薬および新規天然化合物のスクリーニングやモノクローナル抗体開発を行い、有望な誘導体や抗体を得た。またリポジショニング可能な薬剤候補や消毒薬の効果など緊急に必要な情報をタイムリーに提供した。
- 国産ワクチン製造へ向けた基盤研究(ワクチンタンパク質合成、アジュバント検討)を行い、得られた結果を基に、開発メーカーにて非臨床研究が行われ治験開始に至った。またワクチン開発とその有効性・安全性確認のための多様な感染モデルを構築した。
- ファビピラビルの軽症患者を対象としランダム化比較試験を完了し、安全性、有効性について(有意な効果が認められないという情報も含め)、試験の結果を得た。また、軽症患者を対象とした試験以外にもファビピラビルの中等・重症患者に対する観察研究、シソクレニドの観察研究やナファモスタットの解析等、多岐にわたる検討がなされた。
本研究事業は感染症から国民及び世界の人々を守り、公衆衛生の向上に貢献するため、感染症対策の総合的な強化を目指します。そのために国内外の感染症に関する基礎研究及び基盤技術の開発から、診断法・治療法・予防法の開発等の実用化研究まで、感染症対策に資する研究開発を切れ目なく推進することとしております。
最終更新日 令和5年9月14日