創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和3年度課題評価結果(平成31年度公募)について

令和3年度が最終年度にあたる平成31年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」公募の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本研究事業)では、評価委員会を以下の日程で開催し、本研究事業における事後評価の評価項目に沿って、評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日: 令和3年12月14日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 事業で定める事項
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

評価委員会では、評価対象となった30課題は全てについて、期待通り、またはそれ以上の進捗と成果が得られたという結果であった。

主な成果を以下に記載いたします。

①感染症サーベイランス、病原体データベース、感染拡大防止策等の総合的な対策に資する研究

  • ウイルスゲノムに散見される非標準的遺伝子を包括的に解読する全く新しい技術を確立し、単純ヘルペスウイルスにコードされる新規遺伝子産物を同定後、新規遺伝子の1つであるpiUL49がヘルペス性脳炎に寄与することを見出した。
  • 当初、地政学的な感染症に根ざした病原体を中心にネットワーク化を目指していたが、2019年末からCOVID-19が発生したためCOVID-19対応を優先してネットワークの構築・高度化を目指した。自治体の積極的疫学調査を支援すべく、COVID-19ゲノムサーベイランスの全国調査としてゲノム配列を確定し、分担者をアンバサダーとした効果的な連携体制により行政対応に利活用された。
  • 抗HAステム抗体の中和・中和逃避機構の解明を目指し、逃避変異体の簡便な単離法やHAと抗ステム抗体間の相互作用を調べる構造解析基盤を構築した。また、単離されたウイルスのin vitro、in vivo、in silicoでの特性解析を実施し、治療薬やワクチン開発に応用可能な知見を蓄積した。
  • コミュニティでの感染例から、高次病院での入院・死亡例までを包括した前向き研究を行い、RSウイルス感染症の罹患率や臨床的特徴、さらに重症化リスクを定量的に示した。また、臨床検体より得られたRSウイルスの全ゲノムを解析し、進化的に重要な変異を検出するためのアルゴリズムを開発した。更に、得られた疫学データとゲノムデータを統合し、疫学・臨床的な特徴と関連する遺伝子変異を解析するためのパイプラインを構築した。併せて、重要な変異がタンパク質をコードしない領域に存在した場合、それがRNA修飾に関わりウイルス増殖を制御している可能性を示した。
  • HTLV-1病原性発現機序の一端を明らかにした。HTLV-1プロウイルス構造、配列とATLの病態、発がん機序における関連を明らかにした。HTLV-1関連疾患患者の診療に有用な臨床情報・ゲノム情報統合データベース、患者統合レジストリ、日本HTLV-1学会登録医療機関制度の構築および発展を行った。

②ワクチンの実用化及び予防接種の評価に資する研究

  • B型肝炎、不活化ポリオ、日本脳炎ワクチンの動物試験のin vitro化をほぼ達成した。次世代シークエンサーを用いておたふくかぜワクチンの副反応を惹起するバリアントの同定に成功した。バイオマーカーを用いて安全性試験をin vitro試験に置き換える系を確立した。
  • 現行ワクチン株から、安全性と免疫原性の高い改良型ムンプスワクチンを作出した。一連の研究を通じてムンプスワクチンの開発や品質管理に必要な基盤的技術や情報を確立した。
  • Hibワクチン、PCV13、ロタウイルスワクチン、HPVワクチンのeffectivenessを疫学的に明らかにした。肺炎球菌、インフルエンザ菌、ロタウイルスの血清型、遺伝子型の変遷が観察されており、今後も継続した監視が必要であることを示した。
  • 経鼻不活化全粒子インフルエンザワクチンは承認に向けて臨床開発が進められているが、このワクチンの真の有効性を科学的に評価する方法が必要である。本研究では経鼻ワクチンで誘導される抗体の構造や機能をモノクローナル抗体として評価する方法を開発し、有効性の科学的根拠を明確化すると同時にサロゲートマーカーとなり得る方法を開発した。
  • 本研究はHPVワクチンの有効性と接種勧奨中止の影響を長期にわたってモニターする疫学研究である。2012年以降、40歳未満の子宮頸癌および前癌病変患者におけるHPV16/18陽性率の推移をモニターすることによって、我が国における接種年齢別のワクチン効果および集団免疫効果を示した。
  • デング熱流行地よりデング熱患者患者からPBMC検体を採取し、病期における抗体活性解析および回復に伴うB細胞の多様性解析を行い、デングウイルス・フラビウイルスを特異的に認識するB細胞レパトアの誘導パターンを明らかにした。さらに、ADE活性と合わせた中和抗体活性の新規測定アッセイにより、高感度の抗体活性測定が可能となり、中和活性の低いあるいは検出が困難な検体においても、中長期の初感染および再感染患者における抗体活性並びにADE活性パターンの解析が可能となった。

③新興・再興感染症の検査・診断体制の確保に資する研究

  • 流行予測調査事業や検定試験では生ウイルスが必要だが、WHOが設定した高いバイオセキュリティーレベル(GAPIII、世界的行動計画)の下で2型ポリオウイルスの使用が大幅に制限された。本研究により、生ウイルスを必要としない安全な抗ポリオウイルス中和抗体の測定法が確立された。
  • 結核菌の基本代謝系酵素変異株、持続感染モデル株、発育不能菌移行系を用いたin vitroモデル、肉芽腫形成マウスモデルさらに臨床検体を用いて、結核の革新的診断治療法開発の基盤となる持続感染、休眠、再発とその制御に関わる標的分子および分子機構に関する知見を得た。
  • 真菌感染症に対する革新的な診断法、検査法および治療法の開発につながる多くの新規知見を得た。リファレンスセンターの設置や疫学研究でわが国における真菌症の実態が明らかとなった。また診断支援を行い、わが国の真菌症診療の質の向上に寄与した。
  • COVID-19パンデミックに対応し、COVID-19流行初期の病原体検査系開発に貢献するとともに、多彩な病態を呈するCOVID-19の患者体内で誘導される病理変化を反映した病態診断系開発を目指し、病理組織学だけでなく、分子病理学や免疫学、ゲノム科学、バイオインフォマティクスなどの様々な実験科学的手法を組み合わせたアプローチにより患者検体を解析した。解析により、病原体診断だけでなく、COVID-19の病態、病理、疫学、ゲノム、免疫など、COVID-19対策に必須となる様々なエビデンス構築の一端を担った。
  • 中枢神経症状をきたす4つの寄生虫感染症について、その病態に対する知見を得た。また、診断法のないアメーバ脳炎について、早期診断法の基盤となりうる知見を得た。
  • 本研究の目的は、日本における熱帯病・寄生虫症の診断と治療体制を確立することである。信頼性の高い新規診断法を開発すると共に、海外から国内未承認薬を輸入し研究参加医療機関で他に治療手段のない重症例を回復させることができた。
  • A/E型肝炎及びノロ/パピローマ/ポリオーマウイルス感染研究では、培養細胞や動物実験レベルでの感染実験系が未確立であるため研究が遅れている現状がある。培養あるいは動物実験レベルでの研究のプラットフォームを作るための開発を行い、多くの実績をあげた。特にノロウイルスの感染培養系やA/E型肝炎の動物モデル構築で大きな進捗を見た。
  • 麻疹風疹排除の証明に求められるサーベイランスを国際的レベルで標準化しつつ、さらに迅速かつ効率的なものに発展させるため、地方衛生研究所等で行われる検査法の開発・改良、検査体制の標準化を行なった。また、そこから得られる情報から国内の流行状況の詳細な解析を行い、WHOによる麻疹排除認定に貢献した。
  • 「死亡鳥・死亡動物サーベイランスシステム」を構築し、異常死亡動物等から原因病原体を検出し、動物由来感染症としてのリスクを評価する基盤を構築した。新規病原体の検出、同定、疫学から人へ感染するリスクのある病原体を複数確認し、感染経路を明らかにした。野兎病の生ワクチン開発に資する成果を得た。

④感染症に対する診断薬・治療薬の実用化に関する研究

  • ヤマカガシ咬傷の重症例2例に対して抗毒素治療を行い、患者の状態を回復させることに成功した。セアカゴケグモ毒素特異的ヒトモノクローナル抗体、ジフテリア毒素特異的マウスモノクローナル抗体を樹立し、ボツリヌス毒素特異的ヒト型抗体構成の最適化・品質管理試験の設定を行った。ヤマカガシ抗毒素、セアカゴケグモ抗毒素の品質管理試験を実施し、両製剤の安定性を確認した。
  • 梅毒陽性および陰性検体(核酸検査用検体および血清)を収集整理し、診断ガイドライン記載の基礎情報に役立てた。抗カルジオリピン抗体の迅速検出系のプロトタイプの開発を進め、超高速PCRあるいは核酸クロマトグラフィを用いた核酸検出系の迅速化を進め、単純ヘルペスウイルスの同時検出系のプロトタイプを構築した。
  • SFTSの病態、SFTSVの自然界における存在様式、ヒトへの感染経路、ヒトでの感染リスクを評価した。また、SFTSに対するワクチンや治療薬開発に関する研究を行い、新たな知見を得た。
  • 重症エンテロウイルス感染症コントロールのための検査、診断、治療及び予防法に関する研究を進め、ポリオウイルスおよびエンテロウイルス病原体サーベイランス、感染動物モデルの開発、新たなワクチンおよび治療薬開発研究等、実用化に向けた研究成果が得た。
  • 一類感染症等の重篤な感染症、あるいは新興感染症の発生により生じる健康被害や社会・経済への影響を縮小するため、全国レベルの迅速診断体制の強化を行ない、予防法や治療法に繋がる標的の見出しと診断法および病原性評価法の構築を行なった。
  • 現在の臨床で特に重要なESKAPE細菌および抗酸菌を標的とし、既知の抗生物質の再評価、既承認薬の再配置、新規抗菌ポリマーの研究開発を行うことで、薬剤耐性のESKAPE細菌および抗酸菌にも有効な新規抗菌化合物(新規抗菌アミノ配糖体、新規抗菌ポリマーなど)を探索・創製した。
  • 世界結核終息戦略の目標を実現させるために、①成人の結核発症を阻止できる初回ワクチン及び追加免疫法、②結核菌が産生する一部の蛋白質抗原に対する抗体を用いた潜在性結核感染者の発症傾向の検出法を開発し、③薬剤耐性結核菌や細胞内の結核菌に対して顕著な抗菌活性を示す6品目の化合物を新規抗結核薬の有望なリード化合物として同定し、④結核菌病原性分泌蛋白質Zmp1を欠損したBCGが1型及び3型免疫応答を増強できることを明らかにした。 
  • CRISPRゲノム編集技術のダブルニッキング法により、HPV16ゲノムを安全に4箇所切断するガイドRNA(gRNA)ペアとCas9 nickaseを発現する一体型アデノベクターを開発した。このアデノベクターは正常細胞に毒性を示さず、HPV16陽性病変由来細胞に対し高い増殖抑制効果を示した。 
  • 院内感染の原因菌である多剤耐性腸球菌(VRE)に対する抗菌薬が枯渇しつつあり深刻な問題になっている。本研究により開発した腸球菌V-ATPaseの阻害剤が、VREに対する全く新しいコンセプトに基づく新規抗菌薬となり得る可能性を見出した。

⑤新興・再興感染症に対する国際ネットワーク構築に資する研究

  • 小児ARDSの重症化バイオマーカーの候補を同定した。ARDS併発後は病原体の種類と死亡転帰の間に関連性はなかった。ポータブルシークエンサーによる病原体ゲノム解析系を確立し、重症百日咳の病原体因子を明らかにした。またエジプト人のインフルエンザに対する液性免疫レパトア解析を試みた。 

本研究事業は感染症から国民及び世界の人々を守り、公衆衛生の向上に貢献するため、感染症対策の総合的な強化を目指します。そのために国内外の感染症に関する基礎研究及び基盤技術の開発から、診断法・治療法・予防法の開発等の実用化研究まで、感染症対策に資する研究開発を切れ目なく推進することとしております。

掲載日 令和4年4月1日

最終更新日 令和4年4月1日