創薬企画・評価課 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業における令和3年度課題評価結果(令和元年度2次公募)について

令和元年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」(2次公募)の事後評価結果を公表します。詳細は各項目をご覧ください。

事後評価

1.事後評価の趣旨

事後評価は、研究開発の実施状況、研究開発成果等を明らかにし、今後の研究開発成果等の展開及び事業運営の改善に資することを目的として実施します。
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(以下、本事業)では、事後評価委員会を以下の日程で開催し、本事業における事後評価の評価項目に沿って、事後評価対象課題別に書面審査による事後評価を実施しました。

2.事後評価委員会

開催日:令和3年6月28日

3.事後評価対象課題

4.事後評価委員

5.評価項目

  1. 研究開発進捗状況について
  2. 研究開発成果について
  3. 実施体制
  4. 今後の見通し
  5. 事業で定める事項
  6. 研究を終了するにあたり確認すべき事項

6.総評

評価対象課題である22課題の総合評点は4.5~7.9点に分布し、「良い(総合的に計画どおりに進捗)」と評価される6点以上が19課題、そのうち「優れている(計画を超えて進捗)」と評価される7点以上は9課題であり、22課題の平均点は6.7点でした。

各課題の主な成果を以下に記載します。

① 新興感染症等の有事に即時対応・転用可能なプラットフォーム構築に係る開発研究

  • 異分野融合型(生物、数学、公衆衛生学)の研究体制により、新興感染症によりもたらされた社会が抱えている喫緊の問題に対して即座に対応する社会還元型・実装型研究を実施した。新興感染症発生時に即時対応可能な“ウイルス非特異的”な感染動態定量化アプローチを駆使した汎用的な治療薬探索プラットフォームを構築した。
  • 新興感染症を知るための第一歩として免疫組織化学染色法があるが、ステップ数が多く煩雑である。より簡便に組織染色を行うために、培地に添加するだけで生細胞内のウイルス関連タンパク質を可視化できるペプチドを創出する技術を開発した。
  • LAMP法とDNA-chromatography法を組み合わせた新規核酸迅速診断技術を確立した。当該技術は、逆転写反応も同時に行うことが可能であり、DNAだけでなくRNAをターゲットとしても核酸の検出が可能である。
  • 日米の新型コロナウイルス感染症患者2064症例の臨床情報について、年齢、性別、酸素飽和度等のバイタルサイン、既往歴、検査結果等を用い、重症度・予後を予測するシステムを構築した。また、当該重症度や死亡の予測指数と、実際の重症、死亡と照らし合わせた分布から、トリアージのタグ(緑、黄、赤、黒)をつけるシステムを構築した。
  • 新型コロナウイルス感染症肺炎の胸部CT画像を定量化できるシステムを開発し、クラウド環境に実装したプロトタイプ機を開発した。新型コロナウイルス感染症肺炎との鑑別を要する特発性間質性肺炎や抗MDA5抗体陽性間質性肺炎との画像比較を行い、CT画像における予後因子を抽出した。
  • 新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、公衆衛生・国際保健の観点からも効果的な治療法を迅速に確立することの重要性が改めて認識された。本研究課題では、大規模国際多施設RCTであるREMAP-CAPに日本として参画するための基盤構築を大きく進展させた。
  • シャペロン材料は、核酸酵素型核酸センサー(MNAzyme)の活性を高められるのみならず、さらなる性能向上に資するMNAzyme構造の合理的な改変を可能とすることが判明した。本技術は、即時対応性があること、高選択的であることから、オンサイト検出にも展開可能な検出技術の基盤として有用である。
  • 国産ゲノム編集技術CRISPR-Cas3を用いた微量な核酸検出法(CONAN法)を利用して、試験紙を用いた迅速かつ簡単な新型コロナウイルス診断法を開発した。加えて、変異株の検出、唾液の利用、反応の簡素化などの改良を実施した。現在、即時診断キットとして実用化を進めている。
  • 難治性がん治療用製剤として開発を進めているナチュラルキラー(NK)細胞様細胞製剤(GAIA-102)のウイルス感染症に対する治療効果の可能性を検討した。ヘマグリニチンを有するウイルスの感染細胞に対する細胞傷害活性を確認し、治験に向けた準備を進めた。
  • S1-RBD部位及びS2-HR1/2領域を網羅的に解析し、感染防御に重要な主要エピトープを新規に同定した。同定した主要エピトープを提示する舌下ワクチン試作品を作製し、マウスにおいて初期感染防御能を発揮する粘膜免疫(IgA抗体等)を誘導することを明らかにした。

② 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応可能な基盤技術および予防・診断・治療法の開発

  • 中和抗体は、新型コロナウイルスの感染防御に重要な役割を担っているが、新型コロナウイルスの感染により、中和抗体ばかりでなく感染を増強する抗体が産生されることを解明した。中和抗体に比べて感染増強抗体が多く産生されることで重症化が引き起こされる可能性が明らかになった。また、新型コロナウイルスの受容体はACE2と考えられているが、肺におけるACE2の発現は低い。そこで、肺のcDNAライブラリーを用いた発現クローニングにより、新型コロナウイルスの新たなエントリー受容体としてDC-SIGN、L-SIGNを同定した。
  • 富山大学で開発された独自の抗体取得技術を用いて新型コロナウイルス抗原に対する抗体を数百種類単離し、その中から抗原検査キットの開発に適したオリゴクローナルな抗体セットを選択し、酵素抗体法ならびに化学発光法を利用した高感度な新型コロナウイルス抗原検出法を開発した。
  • 新型コロナウイルスのスパイクタンパク質遺伝子をもつ組換えワクシニアウイルスを作製した。このワクチンをカニクイザル及びヒトACE2トランスジェニックマウスに接種した。ワクチン接種後、新型コロナウイルスを感染させると、サルでは肺炎を予防し、マウスの生存率は100%であった。以上の様に動物モデルにおいて、このワクチンは有効であった。
  • インシリコスクリーニングによりリガンド分子を選定し、それらをコンジュゲートした人工核酸の合成に成功した。また、受容体であるhACE2を過剰発現させた細胞の構築に成功した。さらには、塩基部と糖部を修飾した人工核酸を用いてスパイクタンパク質に対するアプタマーの取得に成功した。得られたアプタマーは、ACE2と同程度の結合親和性とPPI阻害活性も有していた。
  • インターフェロン産生を抑制する新型コロナウイルスのタンパク質として、ORF3bとORF6を同定し、その作用機序を解明した。
  • 新型コロナウイルス感染症中等症II以上となる患者について、その患者が軽症である時点で血液検査をすることで、将来、中等症II以上となるリスクを高精度に診断可能な血液因子を同定した。また、それらをキット化することで臨床検査に使えるようPMDA審査へと進めた。
  • 免疫学的解析、次世代プロテオーム解析の手法を用い、新型コロナウイルス感染症患者の重症化を予測するサイトカイン、血清タンパクなどの重症化バイオマーカーを明らかにした。
  • 新型コロナウイルス感染症に対して、有効で、かつ、副作用の少ないサブユニットワクチンを製造することを目的とし、カイコ細胞を用いて、サブユニットワクチンを製造するための基盤を整備した。
  • 新型コロナウイルス感染症重傷者や重症化リスクの高い感染者に対して、回復者血漿療法は、病状進行の抑制や治療効果が期待される。回復者の中でも、より治療効果が高いと考えられる“抗体量が多く、中和活性が高い”血漿提供ドナーをスクリーニングする方法を開発した。
  • 新型コロナウイルスに対する抗体検査法の妥当性検討として中和抗体測定法及びウェスタンブロット法を確立した。住民コホート研究参加者(宮城県在住、2020年後半採血)の新型コロナウイルスに対する抗体保有率は極めて低く、3,000人中陽性者は0人であった。
  • 新型コロナウイルス感染に対する粘膜免疫を誘導する蛋白質ナノ粒子の作製に成功した。また、蛋白質ナノ粒子を細胞から出芽させることで被膜させ、蛋白質抗原を用いて細胞性免疫を誘導できるシステムを確立した。
  • 新型コロナウイルス流行の全体像を把握するため、血清疫学調査として感染患者の抗体応答や感染患者から排出されるウイルス量の解析を行い、抗体応答の基礎的な知見を得た。それを元に、残余血清35,759検体および医療従事者の血液1,643検体について抗体調査を行った。

掲載日 令和3年9月10日

最終更新日 令和3年9月10日